課題
導入効果
一般財団法人日本建設情報総合センター(JACIC)は、建設事業の円滑な執行に資する情報システムの調査研究、開発・改良、運用・保守並びに建設情報の提供・普及を行うことにより、建設技術の向上、建設事業の効率化、国土の安全かつ有効活用の促進を図ることを目的に設立された一般財団法人である。
JACIC は、建設プロセスに関わる情報の利活用を促進するため、国土交通省が進める「i-Construction」および「インフラ分野の DX」を強力にサポートする ICT プラットフォーム「JACIC ルーム」を確立した。
このプラットフォーム内で、ダム事業監理やリアルタイムの現場情報の可視化を実現するために ArcGIS が活用されている。GIS 基盤である ArcGIS が特別なソフトウェアを必要とせず、インターネット環境・ブラウザーのみで利用できることに着目し、JACIC ルームに導入した。
JACIC が手掛ける建設事業の一つであるダム事業は、特に長期間にわたる大規模な事業である。多くの調査・設計・工事が実施されるため取り扱うデータも膨大で、かつ多数の工事が並行して実施されるため、全体計画が複雑であり、多くの事業関係者への説明・同意・調整が必要とされる。しかし、これまでは紙での運用がほとんどであり、多くのデータが散在していた。
ダム事業はさまざまな要因で随時事業計画の修正・更新が発生するため、都度関係各署への情報共有や事業の進捗状況を把握することに多大な時間と労力をかけていた。そのうえ、組織は 2~3 年ごとに所轄の担当が異動してしまうため、必要な情報を引き継ぐ作業の効率化も求められていた。
ダム事業において関係者が現場の状況を把握するには、現場ごとの作業進捗データが確認できることが必要不可欠である。これらのデータを GIS の地図上にプロットすることで、効率的な意思決定につなげることができる。国土交通省全体においても、インフラ事業の DX 化や現場の人手不足を補うため、GIS の活用が注目されている。JACIC では、既に持っているデータとの親和性の高さと操作性の良さなどから ArcGIS の導入を決めた。そのうえ、インターネット環境下であればハイスペックな PC でなくても 3 次元統合モデルなどを表示でき、だれでも利用できる手軽さも導入の決め手となった。
はじめに、多岐に渡って管理されていた事業全体で必要となるデータを GIS 上のモデルで紐付けるところから着手した。ダム設計の段階では、既に所有している BIM/CIM モデルと ArcGIS Pro を活用し、GIS に構造物 3 次元モデルを反映した。これに加え、各構造物に関連する設計・図面情報など、施工に必要な情報の一元管理を行った。また、施工段階においては施工時に観測する計器のデータを自動でクラウドに蓄積し、 GIS から一目で確認できるシステムを検討・構築中である。これらのデータ管理を効率化する GIS システムを、JACIC ルーム内の「ダム事業監理プラットフォーム」と呼ばれるポータルサイトからアクセスが可能な仕組みを構築した。この事業監理プラットフォームは、ダム事業監理をポータル画面を経由して行えることを目指したシステムである。このポータルサイトでは、前述した GIS データや 3D モデルに時間の概念を加え 4D 化した事業工程表、設計・施工などの各種データがクラウド上で管理され、アクセスが可能となっている。このポータルサイトをハブとしてプロジェクト全体の管理を容易にするだけでなく、関係者が必要な情報が1つの画面に集約されているため、スムーズな情報共有が可能となった。
・ あらゆるデータの一元管理
GIS を基盤としたプラットフォームでデータを管理することで、構造物の位置情報とクラウド上で管理されている関連データが統合され、データを探す時間を短縮することができた。また、データの管理が紙からデジタルになったことで、インターネットへのアクセスだけで必要なデータを閲覧できるため、作業の効率化が図られ、職員の働き方も変わり、事業全体の DX 化を進めることができた。
・ 効率的な合意形成
ArcGIS は Web 上で機能するツールのため、BIM/CIM のように特別なソフトが不要で、通常スペックの PC であればどこでも GIS を見せることが可能である。さらに、事業全体を可視化することが可能なため Web 上の GIS を見せるだけで事業関係者以外にも事業の理解を深めることができる。
・ 全体事業の進捗確認
ArcGIS の導入により、これまで CAD ソフトと PowerPoint で作成していた年度ごとに色分けをした施工計画ステップを、容易に作成・確認することが可能になった。これにより、作業時間の削減だけでなく、さまざまなデータをレイヤーで重ねて表示させることで、これまで気付かなかった施工時の課題や検討事項など、新しい気づきを得ることができた。
今年度は設計段階の GIS 活用に取り組み、施工段階時の活用検討および試行も行った。しかし、ダム事業は調査・設計・施工の段階の後にある「維持管理」の段階が最も多くの時間を要するため、今後は「維持管理」を見据えた GIS の活用方法を検討していきたい。そして、近年激甚化・頻発化する自然災害に対応するために注目が集まっている「ダム再生」事業を見据えた GIS の在り方にも取り組んでいきたい。