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事例

ArcGIS を用いて医療における「へき地」を見える化

横浜市立大学

 

ArcGIS Online を活用した
医療における「へき地度」を日本全国の郵便番号ごとにスコア化
ArcGIS を用いて地図上にマッピング

概要

「へき地」と都市部の健康格差、医療資源の格差は世界的な課題であり、多くの国で研究が行われている。一方、課題だけでなく、幅広い診療や地域住民との協働など、へき地医療だからこその魅力も発信されている。

その様なへき地医療の特徴を見える化するために、諸外国では国や地域ごとに「へき地」の程度を段階的に表すへき地尺度(Rurality Index for Japan:RIJ)が活用されている。わが国では約 1,100 万人が過疎地域に居住しており、その地域は国土面積の 58 % を占めているものの、これまでへき地尺度に該当するものがなかった。「過疎地域」「無医地区」など行政的な区分はあるが、これらは二段階あるいは三段階程度の区分で、実際の「へき地」と都市部の尺度をグラデーションで表現するには十分ではない。

そこで、本研究ではこれまでの他国での研究結果およびへき地医療に関わる医療従事者や行政官、住民など有識者へのアンケートを基に、日本におけるへき地尺度を GIS を活用して作成したいと考えた。

課題

「へき地」で診療している医療従事者や行政官、住民へのアンケートの結果から、へき地尺度に必要な項目として、人口密度/直近の二次もしくは三次救急病院までの距離/離島/特別豪雪地帯の 4 項目が選出された。そして郵便番号界ごとに直近の二次もしくは三次救急病院までの距離計算 や、得られたへき地尺度を地図上にマッピングするための効果的な手法を模索していた。

ArcGIS 採用の理由

全国のへき地医療の地域分布を把握するために、郵便番号を単位とし人口密度の状況や直近の二次救急病院までの直線距離などの地理的傾向を分析する必要があった。ArcGIS は、さまざまな情報を地図上で重ねて可視化でき、また、その中でも全国の郵便番号界データを処理できる ArcGIS Pro はまさに本研究に合致するツールであった。さらに、へき地尺度に必要な項目である4項目の計算はジオプロセシングツールを活用すれば、全国の地図上で分析結果が可視化できるため、すぐに ArcGIS の採用を決めた。


RIJ(日本の医療におけるへき地尺度)に用いられた項目


課題解決手法

まず、郵便番号界のポリゴンデータと、二次もしくは三次救急病院のポイントの位置関係を把握するために、ArcGIS Pro の「最近接」ツールを用いて、直近の病院とそこまでの距離を求めた。

また離島かそうでないかを区別するために、二次もしくは三次救急病院のある島、または橋梁(道路、鉄道など)によりそれらの島と接続している島以外を「離島」と定義した。その際も「空間結合」等のジオプロセシングツールを用いて、これらの計算をスムーズに行い、最終的には郵便番号界ごとでへき地度合いを示すスコアを求めた。

その後、求めたスコアをファイルジオデータベースに紐づけ、集計単位を市区町村、二次医療圏、都道府県に拡張し、十段階のグラデーションをつけた全国マップを作成した。

効果

郵便番号、市区町村、都道府県、二次医療圏ごとにへき地度を視覚的に分かりやすく示したマップを作成した結果、マップの発表後数か月で 50 名ほどの研究者から使用申請があった。さらにプレスリリースをきっかけに複数のメディアから取材の申し込みもあった。

今後の展望

今回の研究によって、行政や各研究者の要望に合わせて、全国のマップだけでなく、都道府県単位のマップなど、より適切な地図も作成できる。

また、この指標と予防接種率、健診受診率、がん検診受診率、先進医療や特定の手術の実施率などの関連情報を重ね合わせて地図上で見ることで、都市部と「へき地」で提供されている医療の違いが見えてくると考えられる。

最近は医師偏在問題の解消のため、「地域枠」や「総合診療専攻医」など若手の医師に対しへき地勤務を義務として課すケースが増えているが、その時にどこが「へき地」なのかについて客観的な指標がない。「へき地」が行政やさまざまな地域の事情で決定されるため、若手医師が本来優先的に行くべき場所がどこなのか判断に困ることがある。この様な状況に客観的な指標を持ち込むことで、データに基づく意思決定につながると考えられる。

本研究では、へき地度ごとの医師の診療の幅を測定しており、へき地度が高い地域の方がより広い範囲の診療を行っていることが分かっている。このような研究をすることで、へき地医療の魅力や面白さも発信できたらと考えている。


へき地度地図 (左:郵便番号単位 右:市区町村単位)

プロフィール


横浜市立大学 大学院 データサイエンス
医学部 臨床疫学・臨床薬理学
准教授 金子 惇 氏



関連業種

関連製品

導入協力企業

株式会社東京地図研究社
組織名 株式会社東京地図研究社
住所 〒183-0035
東京都府中市四谷1-45-2
問合せ先  竹下 健一 氏
Email  order@t-map.co.jp


資料

掲載日

  • 2024年1月29日