課題
導入効果
ラ・サール学園は、カトリックの教育修道会ラ・サール会によって 1950 年(昭和 25 年)に高等学校が、そして 1956 年(昭和 31 年)に中学校が鹿児島市小松原に設立された中高一貫の男子校である。6 年間を通じた特色のある教育課程を組み、効率的な学習が行われている。地理科では、常勤 3 名の教員で中高 6 学年の生徒の授業を担当している。
同校では、一部学年の地理の授業において ArcGIS の活用を進めている。授業に向けた教材作成に ArcGIS Pro を活用することで、教材の見せ方を工夫することができるようになった。また、授業の内容と連動した試験問題を容易に作成できるようになり、試験問題の作成時間の短縮にもつながった。さらに、ArcGIS Online を利用することで生徒に実際にマップに触れてもらう授業を展開できるようになり、生徒の「思考力、判断力、表現力」の向上にも役立った。
同校では、教員が教室へプロジェクターとスクリーンを持ち込み、パソコンの画面を投映した授業を実施している。また、プロジェクターを備えた自習室を授業で利用することもできる。自習室には Chromebook が備えられており、生徒が Web ブラウザーに触れる授業を実施することができる。寮で生活する生徒も数多くいる同校では、寮および学校へのパソコンやスマートフォンの持ち込みは禁止されているが、デジタルネイティブ世代の生徒たちに ICT 環境を可能な限り活用した授業を提供したいと考えていた。
さらに、同校の大きな特徴として、月に 1 回行われる定期考査があり、より充実した問題の作成に時間を割くために地図や図表類の作成にかける時間を減らす、効率的なツールを導入する必要があった。
ESRI ジャパンでは、「小中高教育における GIS 利用支援プログラム」を提供している。本プログラムは、地図や地理に関する授業や研究で利用する GIS ソフトウェア・クラウドサービス、ならびにこれらに関するトレーニングと Q&A サポートを小中学校、高等学校に無償提供するものである。
これら GIS ソフトウェアやサービスを無償で利用できることが評価された。また、株式会社帝国書院の地理総合の教科書の WebGIS 教材としても ArcGIS が採用されており、教科書および副教材と連携した活用もできると考えたことから、ArcGIS の採用を決定した。
現在は中学 3 年生向けの「地理(社会科)」の授業と、高校 1 年生向けの「地理総合」の授業で、ArcGIS を活用した教材を用意し、授業を展開している。
「地理総合」は 2022 年度(令和 4 年度)から実施された高等学校新学習指導要領にて新設された必修科目であり、GIS の積極的な活用も期待されている。
中学 3 年生向けには、プロジェクターと Chromebook を備えた自習室で地理の授業を実施している。必要に応じて、プロジェクターで GIS の画面を投映しながら授業を行うのが中心ではあるが、備えられている Chromebook に生徒一人一人が触れる授業も行っている。たとえば、ArcGIS Dashboards で原油の国別生産量推移を可視化した Web アプリケーションを作成し、生徒が動的な統計情報に触れることで、より考察を深め、授業への理解度や関心を高めることができた。
高校 1 年生向けには、教室で行う従来型の授業であるが、プロジェクターに Web マップの画面を投映し、実際に動的な地図を見せながら授業を行っている。
ArcGIS Online は 2 次元と 3 次元どちらでの可視化にも対応しているため、特に地形の単元では重宝した。
教材作成の際には、世界中の地図データが集約されているカタログサイト「ArcGIS Living Atlas of the World」で世界中のユーザーが作成した GIS データを使用している。一からデータを作るのではなく、他の ArcGIS ユーザーが作成したデータを使用できる点も高く評価している。
毎月の定期考査問題の作成においては、ArcGIS Pro を用いることで、授業で使った GIS データと連携した試験問題を迅速に作成することができる。ArcGIS Pro のプロジェクトファイルを開けば、過去に使用したデータが残してあるため、ファイルを探す時間を短縮することができる。図法や表示縮尺、表示する地物やレイヤーを細かく制御できる GIS ならではの機能も、試験用の図表としては重要であった。
従来の地理の授業で実施されてきた教科書、地図帳、資料集、地理統計を組み合わせた授業に、GIS を利用した教材を加えることで、教員が「生徒に見せたい」情報をより的確に提示できるようになった。地理総合必修 化に伴い、授業時間数や受講生徒数も増えている。授業の質を維持したまま、生徒一人一人と向き合う時間を確保するために、教材作成にかける時間を少しでも節約できている実感がある。
文部科学省学習指導要領に定められている資質・能力の 3 つの柱として「学びに向かう力、人間性」「知識および技能」「思考力、判断力、表現力」がある。GIS の導入で授業への理解度や関心を高めたことにより、3 つの柱の中でも特に、未知の状況に対応できる「思考力、判断力、表現力」を身につけるのに役立てられたと井出氏は説明する。
最後に、井出氏は今後の展望を 3 点挙げた。1 点目は、教師としてまだまだ GIS を授業で活用する経験が不足しているため、今後実践を積み重ねて GIS を活用した教材を充実させ、より日常的に GIS を活用した授業を実施していくことである。
2 点目は、ArcGIS Online を活用することで、他校とのデータ共有を検討している。現在は本校のみでの単独の活用にとどまっているが、他校との連携によりさらに授業を面白くできると期待している。
最後に、学校行事の運営に GIS を活用できないかと考えている。たとえば、遠足の際に関係者の現在地を可視化し、情報共有と対応の迅速化をするなどだ。井出氏は、機会があれば取り組んでみたいと述べている。
本校での GIS 利用は始まったばかりであり、これからの活用を積極的に模索していくつもりだ。
社会科教諭 井出 健人 氏