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事例

山地災害対策にモバイルアプリを活用

徳島県農林水産部森林整備課

 

山地防災アプリにより、迅速で正確な災害現場の情報共有を実現

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 山地災害の状況報告を ArcGIS Online で収集する環境を構築
  • 収集したデータを ArcGIS Pro で効率的に編集

概要

徳島県は四国の東部に位置し、東は紀伊水道に面し、県土面積は約 41 万 5 千ヘクタールである。また、森林面積は約 31 万 3 千ヘクタールで、県土面積の約 76% を占める全国でも有数の森林県であり、そのうち、民有林が約 95% と大部分を占めている。

一方で、地形は非常に急峻であり、脆弱な地質であることに加えて、台風の常襲地帯であることから、山地災害が発生しやすい特徴がある。

このような状況から、徳島県農林水産部森林整備課では、山地災害が発生した際の迅速な災害復旧活動や事前防災・減災対策を行っている。治山ダム等の施設整備による「ハード対策」はもとより、「ソフト対策」として防災教育・情報収集体制の整備などハード・ソフトの両面での山地防災力の強化に取り組んでいる。このように「いつ・どこで」発生してもおかしくない山地災害から県民の生命・財産を守るために日々尽力している。

徳島県の事前防災・減災対策のキーパーソンとなっているのが「山地防災ヘルパー」の存在である。山地防災ヘルパーは山地防災に関して一定の専門的知識を有する、市町村職員、林業関係団体職員、県職員 OB など約 200 名から構成されており、県が認定しているボランティア団体である。彼らの主な活動は、山地災害の原因となる異常兆候の把握、災害が起きた際の山地被害・治山施設の被災状況の把握、そして二次被害防止のための監視活動である。

徳島県は山地防災ヘルパーからの情報をより迅速に、そして正確に収集するために ArcGIS Survey123 の調査フォームを使用した山地防災アプリを導入し、災害調査のシステムを構築した。

課題


講習会でアプリを使用する様子

これまで、山地災害が発生した際の情報収集には紙媒体を使用していたため、災害現場に近い山地防災ヘルパーから県民局に災害の情報が入った場合でも、正確な位置情報がわかるものや被災写真がなく、その時点で現場の状況把握が難しかった。そのため、再度担当者が現場を訪れ、被災状況の詳細を確認する必要があった。

また、提供された災害現場の位置情報や被害規模など、重要な情報が不明瞭な時もあり、他の部署や市町村への再確認が二度手間となることも多々あった。

さらに、現地の確認後に現場の写真と被害状況をまとめた資料を作成する際にも、最終的なレポートができるまでに多くの時間がかかっていた。

ArcGIS 採用の理由

以前、林野庁が山地災害調査用のモバイルアプリを開発したことを知り、徳島県でも同様に山地災害の正確な情報収集用アプリの導入について検討をはじめた。

これまでも治山施設や地すべり防止区域などの管理に GIS を用いていたが、今回、山地災害が起きた際の迅速かつ正確な情報収集および共有を実現すべく、以下のメリットがある ArcGIS を採用することに決めた。

課題解決手法


システム構成図

まず始めに、災害発生時の業務対応フローを分析し、アプリを導入する対象プロセスの明確化を行った。

そして、復旧対策の迅速化を実現するため、山地防災ヘルパーから提供された情報をリアルタイムに共有することが可能なクラウド基盤であるArcGIS Online を導入した。


調査票の入力画面

山地防災ヘルパーの中には、スマートフォンの操作に慣れていない高齢者もいるため、山地防災ヘルパー向けの調査フォームは入力項目を絞り、入力の負担を減らす工夫をした。


レポート出力画面

山地防災ヘルパーがアプリ上で入力した災害情報は全て ArcGIS Survey123 のレポート機能を使用し、現場の写真を含んだレポート形式として素早く出力することができるようになっている。

また、調査結果は複数のデータをまとめて削除する作業や、一括で写真を取り出す操作のために、ArcGIS Pro を活用した。

効果

林野庁が「令和2年7月豪雨」においてモバイルアプリを活用し調査を実施した結果、山地災害発生後の概況把握、現地調査等の情報収集および応急復旧対策の迅速化を実証したように、徳島県でも山地災害調査アプリ を導入したことにより、国と同じスタートラインに立てたと森林整備担当の秋田課長補佐は語った。

今後の展望

災害が発生した際にすぐにアプリを使用できる状態にしておく必要があるため、平時からアプリに触れていくことを考えていると森林整備担当の宮田主事は語った。たとえば、平時において、過去に設置した施設の点検や危険地区の調査の際に、アプリを応用して使用できればと考えている。

さらに、迅速な情報提供には、各地域に山地防災ヘルパーを配置することが大切であり、ヘルパーの所属や活動状況の把握にもアプリを応用するなど、災害時のみならず、さまざまな場面でアプリを使用していくことに期待を込めた。

また、山地防災ヘルパーの入力の手間を少しでも省くような工夫として、写真の添付サイズの容量の削減や、通信料の負担を軽減するなど、アプリをさらに改良していくことにも意欲的だ。迅速で正確な災害情報の共有に努め、今後は、ドローンと組み合わせるなど、徳島県独自の活用方法を考え、アプリを運用しながらより高度に 発展できるよう工夫していきたいと秋田課長補佐は話した。

災害時の情報共有に加えて平時でのアプリの応用など、今後も多くの場面で山地防災アプリが活躍しそうだ。

プロフィール


徳島県農林水産部森林整備課



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資料

掲載日

  • 2023年1月30日