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下水作業の効率化のために新しいオペレーションを獲得

米国バージニア州バージニア・ビーチの汚水処理業 HRSD

 
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米国バージニア州南東部のHampton Roads Sanitation District(HRSD)は、20の市と郡に住む170万人の廃水処理に携わっている。

海面上昇や異常な高潮、そして強力な暴風をきっかけに12億ドルの新たなプログラム、SWIFT(the Sustainable Water Initiative for Tomorrow)が立ち上がった。このプログラムではポトマック帯水層に一日最大3.8リットル(1億ガロン)のSWIFT水(飲料水の基準を満たすように処理され、かつ帯水層の既存の地下水の化学組成と適合している水)を新しく供給する。この取り組みは、土地の沈下を遅らせることで海面上昇の影響を緩和または軽減することができる可能性を秘めている。

「地質学的に、この地域の海面上昇は、水温上昇や氷帽の融解だけが要因ではありません」と、HRSDの資産管理主任であるAnas Malkawi氏は述べた。HRSDが管轄する地域は20の市と郡にまたがる170万人の人口を擁している。「これらも1つの要因ですが、土地が沈むのは地下水の過剰な取水も原因です」。

飲料水の基準を満たすように処理され、既存の地下水と化学的性質に合った水でSWIFTのソリューションは、過剰に取水されたポトマック帯水層に再び水を供給する。この取り組みを通して、地盤沈下を食い止め、雨水に対応する回復力を高め、深刻化する塩水汚染に対処することで過去100年間のうちに大幅に枯渇した資源を再生することが期待される。

HRSDのSWIFTプロジェクトのための最初の施設はデモンストレーション用の施設として建設された。

デジタルツインの導入

最先端の気候変動対策プロジェクトとして、SWIFT はエンジニアリング会社のHazen and Sawyer社と協力し、新しい技術を導入するきっかけをHRSDに提供した。

まず、BIMと地理情報システム(GIS)のマップ、ワークフロー、分析を組み合わせた。BIMとGISデータを組み合わせることで、SWIFT研究センターのデジタルツインと呼ばれる機能豊富なモデルを構築し、このプログラムのPoCを行った。今後10年間で、HRSDは帯水層に1日最大3.8リットルの水を再供給するために、少なくとも4つの施設をさらに建設する予定だ。

                  下水道業界では、ポンプ場や処理場は水平方向の資産であるパイプとは対照的に、垂直方向の資産と呼ばれている。

現在、設計者たちは、ゴーグルを装着し、仮想現実 (VR) や拡張現実 (AR) を通して設計モデルを探索することができる。運用担当者や建設作業員は、新しいポンプや設備がどこに配置されるかをゴーグルを通して確認し、正しい位置にきちんと配置されるように調整することができる。そして施設の所有者は、工事が始まる前に設備の管理のしやすさと運用を評価することができるのだ。また、このモデルは新しいスタッフの理想的なトレーニングの場にもなる。

「設計段階でプラントの全容を把握することで、運用と資産管理にもたらす価値を実感することができました」とMalkawi氏は言う。「1つのプラットフォームで運用データと管理データにアクセスしながらプラント内を移動できることは、従業員にとって大きな価値をもたらします」。

デジタルツインは、3Dデータで新しく建設された設備に対してはより高度なオペレーション・インテリジェンスを提供し、古い設備についても同じように高度な計画を提供している。現在はセンサーデータをリアルタイムに収集・可視化しているが、いずれはセンサーからの入力を基にしたシステムを自動化していく予定だ。

「デジタルツインによって特定の状況の把握ができるようになりました。たとえばバルブを開けるというプロセスの変更をした場合、そのあとのプロセスにどのような影響があるのか、などをインフラの様子を見ながらシミュレーションをしてみたいです」とMalkawi氏は語った。

変化を察知し、検証

水質を維持するため、HRSDの作業員は、処理された水が帯水層を補給する付近の民間および商業用灌漑井戸を検査している。センサーを使って水質の変化を測定し、センサーのデータをGISマップ上で同期させ、簡単にモニターできるようにしている。

同地区では、651マイルのパイプと131個のポンプステーションの圧力とポンプ性能を監視するために、同様のセンサー主導のアプローチをとっている。スタッフはGISの画面を見ながら、あらゆる場所の設備を調査している。集められたデータは、運用PIダッシュボード上に集約され、地図、センサーの読み取り値、塩分濃度などの変数を追跡するグラフとして表現される。

「重力システムのさまざまなセクションに導電率計を設置しています」とHRSDのGISマネージャー、Jules Robichaud氏は言う。「過去のデータもワンクリックで見ることができます。海面上昇のリスクが高い地域では、高い塩分濃度が問題になりそうな場所を把握しようとしています」。

HRSDのSWIFT施設のデジタルツインはより大きなネットワークへの接続を含み、地下に埋められた流入・流出パイプの詳細も明らかにする。

嵐に見舞われると、HRSDチームは廃水の氾濫を防ぐため尽力し、インフラを監視する。嵐の強さが増し、地盤沈下や海面上昇など様々な状況が重なる中、廃水排水システムからの漏れを防ぐことがより急務となってくる。この際に、同区は再びGISとデジタルツインの技術に頼る。

「10億ドル以上のインフラ投資をしなければなりません。米国司法省と環境保護局(EPA)との同意協定により、一定の雨量の際に下水の氾濫を減らす、あるいはなくすという一定の目標を達成しなければならないのです。リスクをデジタルツインに組み込むことで、大きな価値が生まれるでしょう」とMalkawi氏は語る。

施設モデルは属性データを含んでおり、これらのデータを確認することができる。

センサーからのデータをオペレーショナル PI ダッシュボードに載せることで、雨量の合計やポンプの状況などの変数を追うことができるようになる。

モデルでパイプに色を付けることで異なるエレメントやデモンストレーションの動きをより分かりやすく伝達することが可能になる。

オペレーション・インテリジェンスのための近代GIS

12年以上にわたって、同地区は日常業務に欠かせないツールとしてGISを活用してきた。スマートな地図とダッシュボードに加え、GISは増大するインフラ管理のニーズに対応するための分析を提供する。

「私たちのオペレーターは、配管のような直線的な設備にアクセスし、情報を見つけ、情報を収集し、地図ベースのツールを介してすべてを報告する際にGISを使っています」とMalkawi氏は述べる。「企業や住宅、水域、交通機関などの近くにある設備の位置を知る必要がある場合は、GISを使用します。インフラに障害が発生した場合、GISを使って一般市民や作業員の安全、環境への影響を把握します」。

これらの機能の多くは、データをサービスとして提供し、利用するために発展したGISによって支えられている。

Robichaud氏は、「私たちは、複数の管轄区域から数百万レコードのデータを取り込んでいます。データを調整し、地域のレイヤーに統合し、地域のパートナーが使用できる形にするプロセスを自動化しています」と述べる。

水質チームはGISを使用して汚染物質や病原体を発生源まで追跡しているが、統合されたデータ環境はこの作業を容易にしてくれる。

Robichaud氏は、「私たちがサービスを提供している地域のデータ、雨水や下水道のレイヤー、さらには企業や産業、コミュニティを特定するための区画データにアクセスできるようになったことは、非常に大きいです」と語る。「私たちは、実験室での結果を、サンプルが採取された場所に関連付け、バージニア州保健局と環境品質局と共有しています」。

HRSDは、コンピュータ化された保守管理システム(CMMS)との連動や、顧客情報の管理など、業務でのGIS利用を開始した。「私たちの組織には7万を超える施設・設備があり、すべて定期的なメンテナンスが必要です」とMalkawi氏は言う。「修理のたびに、何をしたのか、何が原因で故障したのか、その他の詳細を記録しています」。GISは、施設・設備の年数、状態、性能を知るだけでなく、リスク、水力容量、プロセスを理解するためにも使われている。

「20年分のGISデータを使って、メンテナンスの意思決定をしています」とMalkawi氏。「例えば、パイプラインの故障を1つ考えてみると、GISツールを使ってホットスポット分析を行い、主な故障箇所や故障の原因を確認し、同様の特性を持つ他のパイプに何をすべきかを考えることができます」。

この事例は Esri のブログ記事「HRSD Gains a New Operational Awareness to Improve Wastewater Operations」を参考に翻訳したものです。

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掲載日

  • 2022年11月7日