米国最大級の国際空港で、乗客の利便性向上を目的とした数十億円規模のインフラ プロジェクトがこのほど始動しました。このプロジェクトでは、既存の旅客ターミナルを拡張・再開発し、新しいコンコースの追加や航空機のゲートの交換や拡張など、さまざまな機能向上を図りました。
米国のインフラ ソリューション企業である HNTB は、新しいターミナル施設を支えるために必要となるヘビー インフラ コンポーネントの一部の設計を担当しました。このプロジェクトには、ユーティリティや手荷物、乗客をサテライト コンコースへ運ぶための新しい中央トンネル システムも含まれていました。
HNTB のチームは設計を作成し、それを反復する中で、各案が周囲のインフラにどのような影響を与えるかを確認するために、地理空間の背景、つまり現実の世界観が必要でした。チームのメンバーはデジタル ツイン（実世界を視覚化し、コラボレーションを容易にする 3D モデル）をまず作成しました。HNTB のメンバーは、彼らのインフラ設計が位置情報にも対応できるように、ビルディング・インフォメーション・モデリング （BIM） のプロセスに新しいソリューションを採用しました。このソリューションにより、プロジェクトのあらゆる関係者に 3 次元 Web ベースでの可視性を与え、また完全に異なるデータやシステムとの接続が可能となり、情報の共有、計画の反復、進捗の監視がより円滑になりました。

挑戦

HNTB は、新しい中央トンネル システムの取り組みを開始するにあたり、デジタル ツインを作成し、モデル先行設計を開始することを戦略の重要な一部としました。HNTB のチームは、設計の進捗に応じてダイナミックかつアジャイルな変更を可能にする必要があり、それは複数のシステムにわたって標準とプロセスを確立する必要があることを意味していました。
HNTB テクノロジー ソリューション センターの地理空間・バーチャル エンゲージメント ソリューション担当副社長、ダリン・ウェルチ氏は、「この戦略の大部分は、我々の技術のフレームワーク全体にわたる強固で信頼性の高い統合を含んでいます。このプロジェクトはオートデスク ベースの成果物ですが、地理情報システム（GIS）のデータも多く含まれています。GIS は視覚化に非常に優れているため、この仕事のデジタル ツイン戦略には、異なるシステムを含める必要があるとわかっていました。」と述べています。
HNTB は以前、ロングアイランド鉄道ジャマイカ駅 5D アプリケーションのプロセスとカスタム アプリケーションを開発したことがありました。このプロジェクトは GIS、CAD/BIM、エンタープライズ・プロジェクト・ポートフォリオ管理ソフトウェアからのデータを使用して、インフラに特化したソフトウェア システムでデータの統合に初めて深く踏み込んだものだったと、ウェルチ氏は述べています。これらのシステム間の統合に成功したことで、HNTB は「業界の有力なコンサルタント」としての地位を確立したとウェルチ氏は言います。設計と建設プロジェクトの利益のためにデータを連携させることで、HNTB は CAD、GIS、BIMにまたがるデータの可視化を可能にしました。

^{ArcGIS GeoBIM の Autodesk Forge Viewer 内で、動的な図面や計画シートを直接生成して確認することが可能です。}

そのため、Esri は HNTB に ArcGIS GeoBIM のアーリー アダプターになることを打診しました。このソリューションは、ArcGIS の地理空間の背景が一体化されている Autodesk BIM 360* のプロジェクト情報を使用して、BIM プロジェクトや課題に関するチーム コラボレーションを Web ベースで実現するというものです。ウェルチ氏によると、HNTB は空港トンネル プロジェクトを受注したばかりで、異なるツールやシステム間の統合が重要になることがわかっていたため、「適切な場所、適切なタイミング」であったと言います。
「地下施設が CAD と GIS の両方の形式であったため、ArcGIS GeoBIM は設計のバリエーションを視覚化するための素晴らしい機会であると考えました。またトンネルとそれが新しいコンコースやターミナルにどのように接続されるかというモデル先行の設計手法のため、エアダクト システムなどの 3 次元の地下施設の変更をより望ましく視覚化する方法がチームには必要でした。」とウェルチ氏は言います。

ソリューション

ウェルチ氏は、ArcGIS GeoBIM がトンネル プロジェクトに最適だったのは、彼のチームが達成しようとしていることのコアである「変換なしの統合」を実現し、より速いワークフローを可能にする Web 上の大きな前進であったためと述べています。そして ArcGIS GeoBIM と Autodesk BIM 360 は、システム間でデータを変換することなく、あるシステムから別のシステムにアクセスする際のギャップを埋めることができると考えています。

「HNTB のチーム メンバーとエンド ユーザーは、他のツールやシステムのデータセットを見て、『ああ、これの最新バージョンはどこだろう。BIM や GIS ソフトウェアで見るために、それを変換しなければならない。』と考えるようなことはしたくありません。それが ArcGIS GeoBIM に我々が興味を持ったきっかけでした。」と語ります。
「常に変換する必要があるため、効率性が損なわれています。また、正しいデータを使用していなかったり、誰かが変換されたものを使用していて、再変換する必要があったことに気付かなかったりすると、精度が低下する危険性があります。」とウェルチ氏は付け加えます。
オートデスク社と Esri 社は近年、よりシームレスなワークフローを実現するために BIM と GIS マッピング技術の架け橋となるパートナーシップを結び、ArcGIS GeoBIM は Autodesk BIM 360 など、さまざまな Autodesk Construction Cloud 製品と統合されています。

^{BIM360 の指摘事項ログは ArcGIS GeoBIM のエクスペリエンスに直接組み込まれ、
チームのコラボレーションが発生したときにレビューと修正を行う機能を提供します。}

「最初にパートナーシップの話を聞いたとき、我々は興奮しました。2つのソリューションを継続的に変換することなく、ついに統合できるのですから。」とウェルチ氏は言います。

また HNTB のメンバーは、Web 先行の GIS アプローチの次のステップとして、ArcGIS GeoBIM を 3D の領域への飛び込みであると捉えています。これは、モデルや 3D 先行の設計アプローチを行うプロジェクトが増える中で、重要なことだとしています。チームは ArcGIS GeoBIM を使用して、トンネルの設計に集中し、乗客の荷物やユーティリティなどを収容するためのトンネルの正確な位置と配置を理解するようになりました。
ArcGIS GeoBIM は Autodesk BIM 360 に接続し、プロジェクト チームが地理空間の背景で複数のシステムからのデータを使用して BIM プロジェクトや指摘事項でコラボレーションを行うための使いやすい Web ベースのエクスペリエンスを可能にします。

結果

この大規模な空港インフラ プロジェクトに ArcGIS GeoBIM を使用したことで、プラスの効果が生まれました。ウェルチ氏によると、大きなメリットはデータがどこから来ていようと Autodesk BIM 360 上の HNTB チームのプロジェクト データに、Web ベース環境の ArcGIS GeoBIM ユーザーを直接つなげることができることだと言います。Web 先行の GIS アプローチと彼が呼ぶ方法により、顧客は実働ファイルや最新のマップなどのプロジェクト資料に一箇所でアクセスできるようになりました。

ArcGIS GeoBIM はデータ協動の概念への扉も開くものです。複数のシステムから提供されるデータにもかかわらず、エンド ユーザーは最も正確な情報にアクセスしていることに自信を持つことができるとウェルチ氏は付け加えます。

^{HNTB は新しい乗客用トンネル オプションに関連する複雑な地下施設のネットワークを評価するために、
ArcGIS GeoBIM を使用します。}

「現場からの衝突や項目のマークアップも通知される 1 つのアプリケーションで、データや 3D 土木設計、3D 建築、地下の GIS 3D 施設などを確認できることによって、ArcGIS GeoBIM の大きな価値がわかりました。ArcGIS GeoBIM は、究極の情報集約者のようなものです。データのサイロ化をよく見かけますが、このソリューションでは情報を 1 つのインターフェースに集約することができます。」とウェルチ氏は語っています。
特定のプロジェクトを除いて、これまで HNTB のチーム メンバーは 1 つのシステムの中だけで作業することができなかったとウェルチ氏は指摘し、大規模なプロジェクトに限って、データ変換や土木、建築、構造、関連する GIS データの相互参照を 1 つのビューアで可視化するという時間のかかる手順を踏んでいたと説明しています。
「ArcGIS GeoBIM は、意思決定の面でも期待できる単一のソリューションで、データの取得を効率化する方法でした。地下トンネルの最新の設計バリエーションを視覚化し、施設への潜在的な影響を理解するのに役立ちました。プロジェクト チームの誰にとってもインタラクティブで、没入型ビジュアライゼーション体験にしたいのです。」とウェルチ氏は言います。
ArcGIS GeoBIM は非常に直感的に操作でき、多くの重い 3D データを扱っても問題なく機能します。HNTB の BIM スタッフは、ArcGIS GeoBIM ツールのユニークな可能性をすぐに見出したとウェルチ氏は言います。
ウェルチ氏は、「GIS のプロフェッショナルとして、私たちは常に地理空間的な問題解決に対してアイデアを考えています。BIM と GIS データを組み合わせて、複数のシステムからデータを集約して表示する環境に他の分野を持ち込む際に、BIM スタッフはこれをどのように扱うのかを自分たちで追加のアイデアを提案し始めました。」と語ります。
クライアントに代わって複数のプロジェクトやマルチフェーズの仕事を管理する際に、ウェルチ氏と HNTB のチームは ArcGIS GeoBIM を使用することを楽しみにしています。コンサルタントやサブ コンサルタントで構成される複合的なプロジェクト チームは、BIM と GIS をシンプルで分かりやすいインターフェースにすることで、複数のシステムから最新の情報をまとめて見る機会を得ることができます。
「クライアントがオーナーまたはオペレーターの場合、最新の設計、反復分析、設計変更の影響などを視覚化する効果的な方法がないことがあります。そして、それを PDF の図面や地図、あるいは紙の印刷物として見ることは、もう受け入れられないのです。」とウェルチ氏は言います。
また「レビューや意思決定プロセスにおいて、我々の取引先企業はよりインタラクティブで統合された方法を求めています。プロジェクトが直面している問題を理解する能力と情報発信を必要とするさまざまなチーム メンバーを抱える複雑なプロジェクトの拡大に、ArcGIS GeoBIM は役立つと確信しています。」と付け加えています。

Autodesk Construction Cloud の一部である *BIM 360 は、設計から引き渡しまでのプロジェクトのライフサイクル全体にわたってデータを橋渡しする、コネクテッド コンストラクション エコシステムです。このソリューションの相互運用性により、プロジェクトのどの段階でもデータを統合し、チームがより良い意思決定を行えるようにします。

ArcGIS GeoBIM のようなツールで、異種のシステムから取り込んだデータを見ることができ、そのデータを1つのアプリケーションに取り込んで、そこから問いかけをしたり意思決定したりすることができれば、そこに ArcGIS GeoBIM の価値と可能性を見いだすことができます。

ダリン・ウェルチ氏

HNTB

この事例は Esri のブログ記事「Infrastructure Design Firm Employs Geospatially Enabled BIM Solution for Massive Airport Improvement Project」を参考に翻訳したものです。