課題
導入効果
帝国書院:地理総合の教科書と地図帳
株式会社帝国書院は 1917 年(大正 6 年)の創立以来、地図帳や社会科の教科書などを製作・販売している。2022 年度(令和 4 年度)より高等学校で必修科目となる「地理総合」に向けた取り組みの 1 つとして、高等学校用 GIS 教材「アクセス WebGIS」を開発した。本教材には、帝国書院の地理総合の教科書に記載された QR コードからインターネットでアクセスし、授業や自宅学習で利用できるようになっている。
「地理総合」では、ESD(持続可能な開発に向けての教育)、国際理解、防災と並び “GIS” が重要なキーワードになっている。世界規模で深刻化する地球環境問題、大規模化する自然災害、グローバル化する地域社会という課題に対して、従来の紙地図を用いた教育に加えて、ICT の発展に適合した GIS の活用が重要となってきた。しかし、学校現場での GIS 活用においては、下記の理由などからハードルが高いと感じていた。
これらのハードルがあるものの、帝国書院では、将来の学校における ICT 環境の整備を見据え、授業の負担が少なく、誰でもどこでも利用できるクラウド GIS サービスを活用した教材として「アクセス WebGIS」を開発した。
帝国書院では、新学習指導要領で地理科目の必修化が決まって以来、GIS を活用した教材を検討していた。
その検討の中で、中学校用のデジタル教科書で以前から好評であった、教科書の展開に合わせてコンテンツや図版がスライドショー形式で見られる「授業スライド」とそれに対応したワークシートのセットが、既にアメリカやオーストラリアの地理教員が公開していた ArcGIS Online を活用した Web マップとワークシートを組み合わせた GIS 教材の取り組みに似ていることを知った。
この取り組みでは、GIS コンテンツを含む Web マップとワークシートが 1 つにパッケージ化されていることで、教員の事前準備の負担が少なくなっている。また、これにより地理が専門ではない教員も利用しやすい。そこで日本でもこれを参考にすることで、誰もが使いやすい GIS 教材を開発できないかと考えた。
さらに、ArcGIS Online で公開することで、教科書の紙面に掲載されている QR コードからアクセスできるため、ソフトウェアやアプリの事前インストールも不要で、インターネット環境があれば、学校からでも自宅からでもすぐに教材を使える利便性も採用の理由の 1 つである。
「アクセス WebGIS」は ArcGIS Online の ArcGIS StoryMaps で開発されている。ArcGIS StoryMaps は、地図だけではなく、文章や画像、動画などを組み合わせたコンテンツを簡単に作成し、公開することができる Web アプリである。
「アクセス WebGIS」のコンテンツは、地図と「問い」がセットになっており、教員はコンテンツを電子黒板やプロジェクターで投影し、生徒は印刷したワークシートへ書き込みながら授業を進めることもできる。
このように、アクセス WebGIS の各コンテンツは、操作が複雑な GIS 教材ではなく、スクロールと地図を切り替えるボタンのクリックだけで問題を解き進めることができる。それだけでなく、各コンテンツの最後に用意した「Next Step」は、任意のレイヤーの組み合わせや他データとの重ね合わせが可能な Web マップになっており、汎用的な GIS に触れることができるようにもなっている。
さらに、GIS の操作方法を紹介した動画も同じコンテンツ内で視聴できるようになっており、自宅学習でも生徒が GIS の操作に戸惑わないように工夫している。
コンテンツは、全 10 テーマ用意されており、それぞれ教科書の紙面上に「WebGIS」のマークがあり、教科書に書かれている学習内容を WebGIS で深めることができる。地理総合は必修科目となったが授業時間は年間 70 時間程度と多くない。「GIS」のために特別な授業をするのではなく、普段の地理の学習を楽しく・効率化するためのツールとして活用されることを重視し、GIS の操作方法のような技術的スキルよりも、地図を通して自然や人々の文化・生活を読み取るスキルを育成できるようになっている。
なお、アクセス WebGIS よりさらに深く地理的な解析・分析を行ったり、独自のデータを使ったりしたい教育機関向けに、ESRI ジャパンでは「小中高教育における GIS 利用支援プログラム」を用意しており、無償でクラウド型 GIS やデスクトップ型 GIS を利用でき、教員は講習会の受講も可能だ。
「アクセス WebGIS」は、教科書の学習内容を、GIS コンテンツとワークシートを活用して理解が深まるようになっており、必修科目としての「地理総合」をサポートするべく、導入ハードルの低さを最優先に開発された。また、コロナ禍のなかで、インターネット環境があればどこでも誰でも使える「アクセス WebGIS」は、自宅学習やタブレット端末を活用した新しい授業様式として、主体的に学べる教材として活用できると期待されている。さらに、帝国書院では「地理総合」が始まる 2022 年春までに資料集等の副教材でも WebGIS のコンテンツを提供する予定だ。「地理統計 Plus」は、従来の統計冊子に ArcGIS Online で閲覧できる「統計見えマップ」が付属し、統計数値が地図として視覚的に捉えることができる教材だ。加えて、公共や歴史総合、探究学習や地域調査等、教科横断的に利用できる GIS コンテンツの開発を視野に入れている。