事例 > 防災スピーカーの音声到達エリアの分析や帰宅困難者対策に ArcGIS Online を活用

事例

防災スピーカーの音声到達エリアの分析や帰宅困難者対策に ArcGIS Online を活用

名古屋市

 

アイデアと ArcGIS の機能が合致して課題を着実に解決

概要

名古屋市は愛知県の県庁所在地で、政令指定都市である。16 の行政区を持ち、人口は約 230 万人と、東京特別区部を除くと横浜市・大阪市に次ぐ全国第 3 位の人口を有する。

1959 年(昭和 34 年)の伊勢湾台風では、名古屋市南部を中心に堤防の決壊と大量の流水が発生し多くの人命が奪われた。また、1854 年の安政東海地震、1944 年の昭和東南海地震など、南海トラフ沿いでは概ね 100~150 年間隔で大規模地震が繰り返し発生しているため、次の地震の発生への切迫性も高まっている。

防災スピーカーの音声到達調査では ArcGIS Survey123 でアンケートを実施することで、非常に迅速にその結果を共有・活用することができた。また ArcGIS StoryMaps を使った新型コロナウイルス感染症の啓発広報のための Web サイトの構築や、帰宅困難者対策としての、協力民間ビル管理者との情報のやり取りと、退避施設開設情報を地図ベースで可視化し、利用者へ情報提供するためのシステムを構築した。

ArcGIS 活用の経緯

名古屋市は 2016 年(平成 28 年)に中部大学と「地理情報システム等を活用した防災・減災対策に関する相互連携協定」を締結し、災害時の GIS の活用について検討する共同研究会を立ち上げた。その中で ArcGIS を導入したが、導入当初はその利用方法は定かでは無く、単発で浸水想定地域の避難所の分析などが行われる程度だった。

担当の山氏は、2017 年(平成 29 年)に名古屋で開催された「ArcGIS 最新情報セミナー in 名古屋」に参加し、そこで ArcGIS Survey123 の存在を知る。ちょうどその頃名古屋市では防災スピーカーの増設があり、その効果に対しての検証を行う必要があった。「これは GIS が使える」とひらめいたという。

名古屋市
音声が到達しなかったエリアへの防災スピーカーの増設

課題解決手法と効果

・ 防災スピーカー音声到達調査
防災スピーカーの音声到達調査は、その名の通りスピーカーからの放送がどの程度聞こえたかを調査するものであるが、通常、紙のアンケートを作成し配布、回収後結果をとりまとめ紙地図に落とし込むというアナログな作業で、時間と手間のかかるものであった。回収率も高いものではなかった。ArcGIS Survey123 による調査はそれらの手間を一気に解決するものであった。

「ArcGIS Survey123 は回答が簡単なので回収率が飛躍的に上がりました」と山氏は語る。調査票の作成も直感的操作で作成することができ手間取ることは無かったという。また調査結果が瞬時にわかるので、速報値として発表することができ、実施後のスピーディーな対応も可能になった。結果のマップは議会でも取り上げられた。元となるデータを危機対策室が保有しているので、議会への資料作成も内製することで、短期間で簡単に行うことができた。

防災スピーカーの設置はその後、アンケート結果を踏まえた聞こえないエリアの実地調査を行い、2019 年(令和元年)にスピーカー増設の予算要求が行われ、2020 年(令和 2 年)には実際に空白地帯にスピーカーが 28 か所設置されるに至った。

この防災スピーカー音声到達調査の成功により、庁内での GIS の認知も少しずつ上がり、局内での更なる活用が期待されたため、2019 年に ESRI ジャパンのコンサルティングによる勉強会が開かれた。局内の他課室(地域防災室、危機管理企画室)からも参加があり、主に ArcGIS Online の機能について講習を受けた。それがきっかけとなり、他課室での利用も進み始めた。そのタイミングと重なったのがコロナ禍である。名古屋市では新型コロナウイルス感染症の啓発広報のための Web サイトを ArcGIS Online のストーリーマップを使用して作成・公開した。これも直感的な操作で作成ができたため、結果的にスピーディーな対応ができ、見栄えの良いサイトが追加費用無しで作成することができた。

名古屋市
名古屋市新型コロナウイルス(COVID-19)
感染症対策特設サイト

・ 災害時の帰宅困難者対策
他にも、名古屋市には帰宅困難者対策に関する課題が 2 つあった。1 つは現地との連絡・情報共有である。災害時に民間のビルに協力してもらい帰宅困難者を受け入れてもらうのだが、帰宅困難者の受入れ状況に関する市と施設管理者との連絡は電話や FAX が想定されてい たため、多数の施設とのやりとりを効率化させる必要があった。2 つ目は帰宅困難者に対する情報の発信である。避難所に市の職員が直接行ってオペレーションができない状況では、帰宅困難者が自分から情報を取りに行き行動することができるようにするための情報発信システムが必要だった。このような課題に対して、名古屋市が保有していた既存の防災システムには、地図をベースに自由に情報を公開できる仕組みが無かった。そこで ArcGIS Online を使ったサービスが構築された。既存の一斉メール配信サービスを流用し、ビルの管理者に一斉メールで開設状況や受け入れ人数に関するアンケートを送り、返信結果を自動で ArcGIS Online の地図に反映させる仕組みを作った。

名古屋市
帰宅困難者マップ

また、昨今の多発する豪雨災害や新型コロナ対策を鑑みて、地域の住民が避難する避難所の開設状況や混雑状況に関する情報発信の必要性もあった。これらの情報は以前はテキスト情報として市の Web サイトなどに掲載していたが、わかりにくさがあった。そこでこれらの情報も ArcGIS Online の地図上に可視化し公開する仕組みを構築した。具体的には、既存の防災システムから CSV データとして取り出し ArcGIS Online に取り込んだ。

名古屋市
津波からの緊急避難場所

ArcGIS の評価

ArcGIS は非常に汎用性が高く、オンラインであればだれでも簡単に触ることができた。また帰宅困難者マップ作成の例でもあったように、他システムとの連携のしやすさが非常に優れていたという。他の GIS は GIS の機能としてだけで完結しているものが多いが、ArcGIS は ArcGIS Survey123 や ArcGIS StoryMaps といったアプリが基本の機能として搭載されていることで活用の幅が広がった。またセミナーや事例などで、具体的な活用法などの情報提供が非常に有用であった。

今後の展望

「防災危機管理局は、災害時に全体の情報をとりまとめてどう対応するかという作戦立案を行い、司令塔となる部署です。そういった意味で GIS には無限の可能性があると思います」と山氏は語る。被害情報に加え、備蓄物資の情報、避難所、航空写真や衛星画像など、さまざまな情報を GIS で統合し可視化することで情報の分析が効果的かつ迅速にできると考えている。情報の集約はまだアナログで、ホワイトボード上の地図で議論している状態なので、集約するだけで膨大な時間がかかっている。精度も低く、共有もうまくできていない。まずは情報の集約と可視化の実現が一番の課題である。将来的にはそれら情報の分析や地図作成を行う専門員を置けたらと考えている。

それらを実現するための第一歩として現在 ArcGIS Enterprise の導入を検討している。「ArcGIS は防災科研や JAXA などさまざまな所で使われておりシェアが高いため、情報の連携がしやすいというメリットがあります。災害対応用の GIS が実現できたらと考えています。」

 

プロフィール


名古屋市防災危機管理局
危機対策室 山 孝太氏



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2022年1月11日