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事例

絶滅危惧種目撃情報投稿アプリをスピード開発

長野県

 

登山者からの情報でライチョウ生息状況が明らかに
長野県の GIS を活用したライチョウ保護の取り組み

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 情報発信・啓発 Web サイトと情報投稿モバイルアプリが連携した即時情報共有プラットフォーム
  • 山岳地帯などのオフライン環境でも利用可能な上、操作性を重視した機能改修も容易なモバイルアプリ

課題

導入効果

概要

長野県の「県鳥」で、国の特別天然記念物でもあるライチョウは、地球温暖化の影響により、近年、生息数が急減。絶滅の危機にある。

ライチョウの生息域を含む大規模な山岳地がある長野県では、ライチョウを絶滅から守る活動を県民とともに続けており、クラウドファンディング型の寄付を活用したライチョウ保護対策の取り組みも、その一環である。

このように官民がスクラムを組むようにライチョウ保護について協力する「ライチョウ保護スクラムプロジェクト」を率いてきた同県だが、活動の要である生息域把握手法がアナログであったため、情報量およびその精度ともに課題となっていた。そこで新たにライチョウ目撃情報投稿アプリを開発し、登山者らの協力を得やすい体制を整えた。スマートフォンアプリという利用者の利便性に配慮したツールを使うことで、目撃投稿数を増やし、正確な生息域情報の収集、視覚化、データ蓄積を可能にした。

ライチョウ目撃情報投稿アプリ「ライポス」

長野県
ライポスシステム概要図

課題

長野県版レッドリスト(2015)において、ライチョウは近い将来における野生での絶滅危険性が高いものとして「絶滅危惧 1B 類」に分類されている。効果的な保護対策を実行するには、まず正確な生息状況を把握する必要があったが、高山帯の広域エリアにおいて継続的に生息状況を把握することは人材、資金的にも困難であった。これまでも山小屋に「ライチョウポスト」を設置して、ボランティアや登山者に協力を呼び掛け、目撃情報を紙やメールによる投稿方法にて収集はしていたものの、年間 150 件程度の投稿に留まっていた。さらに、投稿された情報には地域による偏りがあったほか、「山小屋から 300m 付近で目撃」など、正確な位置情報の特定が難しいものも多く、これをとりまとめてデータ化する手法についても課題となっていた。

ArcGIS 採用の理由

正確な位置情報の把握と、一般登山者をはじめ幅広い層から即時性の高い情報を多く集めるために、まず初めにスマートフォンを利用できないかと考えた。長野県の環境保全分野ではかねてより ArcGIS Desktop を利用してきた経緯もあり、早速スマートフォン用モバイルアプリである ArcGIS Survey123 を使用して調査票を作成した。これを試行的に一部のユーザーに利用してもらったところ、「多くの一般の方に使って頂くためには、インストールのワークフローやユーザーインターフェースの操作性を重視した、よりユーザーフレンドリーな仕様が望ましい」という声が上がった。そこで同様の機能要件を満たし、多少のカスタマイズで柔軟に開発することができる製品 ArcGIS AppStudio を採用して、長野県独自ブランドのアプリを開発することにした。利用者の利便性も考え、アプリストアで提供できるよう、Android および iOS に対応させた。公開するまでの一連の作業は同製品で完結できたため、結果として、クラウド型 GIS 利用によるスクラッチ開発でないメリットが活かされ、ユーザー視点に立った独自のスマートフォンアプリがわずか数か月でスピード開発できた。

課題解決手法

まず、アプリ開発等に必要な費用をクラウドファンディング型ふるさと納税により調達した。全国のアルピニストや登山愛好者などから 500 万円弱の寄付金が寄せられた。

この資金で絶滅危惧種ライチョウ目撃情報投稿アプリ「ライポス」を開発。正確な位置情報と選択式設問による均質な状況情報、ライチョウの写真など、データとして活用できる形で収集可能な投稿ポストをオンラインに設置した。

「ライポス」開発と合わせて、ライチョウの生態図鑑等を公開する Web サイトも制作。ライチョウについて学べる内容にし、サイトと「ライポス」をリンクさせることでライチョウ保護への意識を高める設計で啓発活動への導線を作った。

マップは一般公開しているが、不正確な投稿を減らすため、写真によるライチョウの同定や位置情報の整合性など、可能な範囲で目視による確認も行っている。

長野県

長野県

ライポス(モバイルアプリ)

効果

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ライチョウ

スマートフォンを用いた手軽な手法や簡便で直感的な操作性のアプリを設計したことは、目撃投稿数を増やすことに一役買っている。投稿数自体の増減は、登山シーズンの影響や「ライポス」をインストールした人がライチョウを見かけられる確率など、単純な目撃件数としては語れない部分もあるが、少なくとも 2021 年 6 月末から運用を開始し、既に 300 件を超える投稿が寄せられている(2021 年 11 月現在)。

懸念されていた電波状況が悪い場所でのアプリ動作についても、オフラインで閲覧可能な地図を準備することにより、問題なく投稿可能となった。

また、マップ管理業務では、投稿情報が電子データで蓄積・閲覧できるため、データ分析等が効率的に行える。

位置や写真など精度の高いデータを蓄積していくことで、主要生息地での個体数の増減や保護増殖事業の効果判定なども可能となり、今後の効果的な保護対策の検討に役立てることができる。

今後の展望

「『ライポス』の導入で、今後、より多くのライチョウの生息域情報が収集されれば、山岳毎の孵化から翌年の繁殖期までのヒナの生存率の把握や、これまでの調査では確認されていなかった生息地の確認や分布予測など、環境保全研究所と協働で解析していくためのデータとして活用できる」と自然保護課の峰村氏は語る。

「どのように活用するかを示すことで、登山者の方が目撃情報を投稿する目的は明確になった。今後は投稿の動機付けやリワード制にするための機能改修、デザイン性の向上など、ライチョウを見つけられない時にもアプリを開いて学べるような遊び心のあるアプリにしていきたい」と期待を寄せている。

長野県
年月別の母子の群れのヒナ数

 

プロフィール


環境部自然保護課
  技 師 峰村 政輝 氏(左)
環境保全研究所 自然環境部
  研究員 黒江 美紗子 氏(中央)
  研究員 堀田 昌伸 氏(右)


関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2022年1月11日