課題
導入効果
関電ビル
関西電力株式会社は関西圏内を主な営業地域とする電力会社である。関西電力グループはエネルギー、送配電、情報通信、生活・ビジネスソリューションを改めて中核事業に据え、その周辺に重なり合う新たな価値を創出し続けていく。こうした取り組みにより、さまざまな社会インフラ・サービスを提供するプラットフォームの担い手となり、地域の人々と社会の役に立ち続け、持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。さらにガバナンス確立とコンプライアンス推進を事業運営の大前提にし、「ゼロカーボンへの挑戦」、「サービス・プロバイダーへの転換」、「強靭な企業体質への改革」を取り組みの柱としている。またエネルギー事業では多様化する暮らし、社会にエネルギーの新たな価値を提供するために、「S+3E(※1)」のバランスのとれた電源構成を目指すとともに、「電源のゼロカーボン化」、および水素社会に向けた検討・実証に取り組んでいる。加えて、「電化の推進」に取り組むとともに、新たなライフスタイルや、ゼロカーボン化、レジリエンス向上等の、多様化するお客さまのニーズに寄り添い新たな価値を提供している。
電力を安全に安定して届ける技術を研究・開発している技術研究所では、停電の要因の一つである雷による影響について、ArcGIS の空間解析機能を用いて解析を行った。その結果、雷事故率と道路幅の関係性があることが明らかになり、事故対策工事の優先順位付けなどに繋げることが可能となった。
※1:「S+3E」とは、安全確保(Safety)+エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済性(Economy)、環境保全(Environmental Conservation)
近年、これまでにない強風をもたらす台風の襲来などにより、停電被害が広範囲に長期間発生する場合があり、停電に強い設備の構築など、レジリエンスの向上が急務となっている。関西圏内においては 2018 年(平成 30 年)の台風 21 号により設備被害を受け、大規模停電を発生させたことが記憶に新しい。一方、年間を通した停電(以下、配電線事故)の件数に対して、雷に起因する事故(以下、雷事故)比率は約 2 割と最も高い状況である。雷事故は主に直撃雷(※2)と誘導雷(※3)によるもので電柱が建柱されている環境という外的要因が影響している。従来から配電線事故防止を目的として要因別分析を実施しており、現在もさまざまな分析がなされ対策が講じられているが、近年目覚ましい発達を見せている解析ソフトによる空間解析機能を活用すれば、地理的アプローチによる高度な配電線事故分析を行える可能性がある。そこで雷害対策をより省コストで効率的に、より効果が大きい箇所へ講じるための研究で GIS を利用することとした。
※2:雷が対象設備(電柱や電線など)に直撃すること
※3:付近の樹木や建物への直撃雷により電線やケーブルに誘導される雷サージ(異常電圧および異常電流)のこと
雷事故の原因には外的要因が複数存在し、その原因がどのように絡み合い関係しているのかを突き止め対策を講じるためには、わかりやすく可視化し分析することが必要である。また、他社での導入事例が多数あることやトレーニングプログラムが豊富であること、今後の研究開発における分析にも広く活用できるソフトであると考えられるため、ArcGIS Pro の採用に至った。
(1)仮説の立案
直撃雷と誘導雷を合計した雷事故率は、配電線の周辺に構造物がある場合の方が小さくなるということがこれまでの研究で判明している。これに着目し、「道路幅が広いほど、雷遮蔽効果のある配電線周辺構造物は少ないため、雷事故は多い」という仮説を立てた。
(2)雷事故率の算出
電柱は、2020 年度(令和 2 年度)時点の関西エリアに施設されている全電柱を対象とした。雷事故電柱は、10 年間(2010 年度 ~ 2019 年度)に関西エリアで発生した配電線事故の内、発生原因が雷害であるものを抽出した。雷事故率は道路幅(1m)ごとに算出した。
(3)道路幅の算出
道路のデータは、ESRI ジャパンが販売するデータ加工・調整済みの GIS データ集「スターターパック」を使用した。道路のデータソースは、国土交通省国土地理院数値地図(国土基本情報)である。道路のデータを ArcGIS Pro 上に表示すると、道路中心線を示すラインフィーチャになる。道路幅の算出は、多くの電柱は道路際に建柱されているため、道路中心線と電柱との距離を ArcGIS の空間解析機能を使用して算出し、その 2 倍を道路幅とすることで一括計算した。空間解析機能では、電柱から最も近い道路中心線に下した垂線の距離を算出することができる。
(4)結果
※4:特別高圧(22kV、33kV)の電気を送電する電線と高圧(6.6kV)の電気を送電する電線が架線されている電柱
※5:高圧(6.6kV)の電気を送電する電線が架線されている電柱
雷事故率と道路幅の相関
出典元:「地理情報システム(GIS)を用いた雷事故率と道路幅との相関に関する検討」, 令和 3 年電気学会 B 部門大会
論文集, 2021,論文番号 145, 5WEB2-12
本研究により、道路幅が広い箇所の電柱は雷事故が発生しやすいという結論を得た。そのため道路幅が広い箇所の電柱に対して対策を講じていくことが有効であるということがわかった。その結果、新たな配電線事故対策工事箇所の優先順位付けが可能となることで、雷事故を未然に防止することに繋がる。
道路幅と雷事故率との関係について検討を実施したため、今後は電柱に近い建物との距離や建物の高さと雷事故率について検討を実施していく。雷事故に限らず、ArcGIS を活用してさまざまな環境要因や設備状態と配電線事故について相関分析を進めることで、新たな予防保全技術の確立を目指していく。
また今回の分析では、ArcGIS のみでは機能が足りず、アウトプット成果を作成することができないところがあり、他のソフトと組み合わせる必要があったため、今後 ArcGIS の機能が、より充実することを期待している。