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配電設備の災害復旧支援技術として利用されるGIS

電力中央研究所 地球工学研究所

 

自然災害から電力施設を守る

災害における配電設備被害と周辺施設被害には密接な相関が存在する。GISで災害被害を面的・複合的観点からシミュレーションする。

はじめに

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地震や台風など、自然災害による配電設備の被害と聞くと、地震動や風圧など、災害による直接要因が原因と考えてしまいそうだが、実際にはそうではないらしい。

自然災害における配電設備被害の内訳を見てみると、阪神淡路大震災のケースでは、8割が「建物倒壊による2次的被害」であり、「地震動」による被害原因を大きく上まっていた。1991年台風19号では、7割が「飛来物や樹木倒壊」によるものであり、「風圧」による被害は約2割であった。これらの結果からも、私たちが思い描く被害原因と実際の原因は違う、ということが見えてくる。

配電設備を対象とした復旧対応を的確かつ迅速に行うためには、事前に被害の程度を精度よく推定することが重要であり、また災害発生後の需要家施設を含む被災状況を速やかに把握することが必要である。しかし、大規模災害が発生した場合、被害状況の確実な情報収集には時間がかかる上に、多様な地域状況や地盤条件下に敷設されている配電設備の被害の程度を精度良く推定することは容易ではない。

電力中央研究所(以下、電中研)では、災害復旧作業において少しでも迅速な対応を取れるように、地震、台風、津波などで被災する配電設備を対象とした災害復旧支援情報システム(以下、「災害復旧支援システム」)を開発し、各電力会社への展開を進めている。

災害復旧支援システムとは

電中研で開発を進めている「災害復旧支援システム」とは、その名の通り、災害時における復旧を支援するシステムである。本システムは、災害時における配電設備の復旧実務で必要な被災情報を一括収集・加工し、これを復旧現場で効果的に役立てることを目的としており、災害復旧時のフェーズに合わせ、「気象・地震・津波情報システム」「被害推定システム」、「応急復旧シミュレータ」の3システムから構成されている。

(1) 気象・地震・津波情報システム

気象・地震・津波情報システムは、災害直後や最中という、第一フェーズにおいて動作するシステムである。本システムは、災害発生時に、ほぼリアルタイムで発信される気象庁発表の情報を基に「被害推定システム」に各種の情報を即時に配信する役割を担っている。

「気象情報システム」は、台風発生時に気象庁から発表される台風情報(進路、中心気圧)に基づき、各地の累積降雨量、局地風発生判定情報を配信している。同様に、「地震情報システム」では、気象庁などから地震直後に配信される地震情報(震源、地震動情報など)を基に、地震動の最大加速度、最大速度、震度などの分布情報を配信している。「津波情報システム」は現在開発中であるが、気象庁から配信される地震情報と日本沿岸の水位情報を基に、対象地域における津波の高さや浸水域を迅速に推定し、現時点で津波浸水域推定情報を地震発生後1時間以内に提供することを目標にしている。

(2)被害推定システム「RAMP」

被害推定システムは、気象・地震・津波情報を受け取った後の第二フェーズで動作し、Risk Assessment andManagement system for Powerlifelineの頭文字を取って「RAMP」と呼んでいる。本システムには、地震被害推定の「RAMP-Er」と、台風被害予測の「RAMP-T」という災害に合わせた2つのシステムが存在する。どちらのシステムも任意の時刻・地点・設備の各種気象情報の可視化、全自動での配電設備の被害推定や時系列グラフの作図などの基本機能を有しており、電力の実務で実践的に活用されている。

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それぞれの特徴として、「RAMP-Er」は、対象地域の地震動や震度などの分布情報に基づき、配電設備個々の被害率まで詳細に推定できる。また、地震情報以外にも電力各社が所有する配電情報システムから取得する高圧配電線単位(フィーダ単位)の停電発生情報、PDAなどの携帯情報端末を用いて電力各社が独自に収集する被害箇所の巡視点検情報などを組み合わせて、未巡視地域の被害の推定精度を向上させることができる。なお、被害の推定精度を更に向上させるため、逐次更新型への展開を現在進めている。

「RAMP-T」は、台風接近時の任意地点における簡易地上風予測機能や被害数予測機能と、これらの予測情報を表示する機能から構成されている。任意地点の風速・風向の時間変化、対象地域ごとの最大風速、暴風域・強風域の突入・離脱時刻および支持物・電線の被害数を、広域にわたって極めて短時間で予測できる。さらに「気象情報システム」と連携させ、台風予報情報(進路、中心気圧)、累積降雨量、局地風発生判定情報などを逐次に受信できるシステム構成にすれば、これらの気象情報に基づき被害推定精度をより向上させることができる。現在、電力会社と共同で実務にも適用し、個別のニーズや地域特性に対応できるように「RAMP-T」の改良を進めている。

(3)応急復旧シミュレータ

応急復旧シミュレータは最後の第三フェーズで動作するシステムである。

配電設備の被害状況を巡視により確定し、これを基に応急復旧に至るまでの過程を模擬して、応急復旧時間の推定や作業員・資材の配置などの復旧戦略の策定を支援する。本システムは、「RAMP」の出力する被害想定結果を連携利用することも、独立したシステムとして被害シナリオを与えても、応急復旧過程を模擬することができる。

今後の対応

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「もともと災害復旧支援システムを開発しようと思ったきっかけは、配電設備が、実際には地震動や風速などの外力などによる直接的な要因ばかりでなく周辺施設被害による間接的な要因によっても被害が発生する可能性が高く、これらの影響を考慮しなければ、復旧支援活動における精度向上を達成することはできないと思ったからです。本システムは、実際に幾つかの電力会社で使用して頂いていますが、いずれも好意的なご意見をいただいています。これからも益々、精度向上を図っていきたいと考えています。本システムの研究・開発においては、データ作成・分析のためにArcViewを使用しました。これらの作業は、地味ではありますが、データがなければ始まらないGISの世界では、非常に重要ですし、良い結果を出すためにも、データ精度が高くないといけません。これからの研究でも、ArcViewには、必須なGIS分析ツールとしてどんどん働いてもらおうと思っています。今後の展開として、「災害復旧支援システム」は,地震や台風以外の豪雨豪雪、落雷、塩害などの他災害を評価する外部システムとの連携も考えています。また、人工衛星や携帯電話など、取り込む対象情報も広げていく予定です。災害復旧支援システムが、配電設備の災害復旧時により役立つように、今後も研究を続けていきたいと考えています。」と朱牟田氏は、抱負を語ってくれた。

我々の生活に欠かせない電気。災害時、少しでも多くの方が電気で困らないように、朱牟田氏は日々研究を続けている。

プロフィール


(右) 電力中央研究所 地球工学研究所
上級研究員 朱牟田 善治 氏
(左) 電力計算センター 高橋 健吾 氏



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資料

掲載日

  • 2011年1月1日