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事例

各課が集めた様々な地図データを統合。政策支援GIS活用の取組み

千葉県浦安市 総務部 情報政策課

 

政策支援GISに欠かせない3つの情報「基本情報・業務情報・市民の声」

個別GISから始まり共用空間データベースの整備、インターネットGISと進化し続ける浦安市。
この政策支援GISの構築が東日本大震災の状況把握や分析で生かされた。

浦安市

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浦安市

千葉県浦安市は、東京都に隣接した千葉県北西部に位置し、市域面積16.98㎢のおよそ3/4は海面埋め立て事業で造成した土地である。人口約16万人を有し、都心に近く通勤の便もよいことから、市域には多くのマンションが立ち並ぶ首都圏のベッドタウンであるとともに、東京ディズニーリゾートを抱える観光都市でもある。

GISの取り組み

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平成12年度に地図の共有化の為「共用空間データベース」を整備し、庁内の統合型GIS利用を開始した。
平成15年度には、統合型GISと住居表示台帳システムを連携させ、GIS上の家屋データと住居表示番号を対応させた「アドレスマッチング機能」を追加し、統合型GISと住民記録システムとの連携を可能とした。
これにより、今まで利活用の主であった土木や建設、都市計画部門以外に教育や環境、福祉部門など全庁にGISが広がり、都市計画図整備時に毎年更新している道路や土地、建物の情報を利用することが可能となったため、大幅な経費を削減することができた。
平成16年度以降は、電子申請システムや安心安全情報配信システム、消防指令システムなどとの連携も行った。
また、市民向けのインターネットGISは、平成14年度から運用を開始し、様々な地図をインターネット公開して、平成16年度には「インターネットGIS-JAM」を構築し、平成18年度から他自治体との共同利用も開始した。
平成21年度には携帯電話からの情報登録機能を追加し、市民への情報提供ツールから、市民との情報共有ツールへと変革を進めている。

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庁内情報共有基盤の「共用空間データベース」

政策支援GIS

新たな統合型GISの活用方法として、インターネットGISと庁内イントラGIS、各課の個別型GISなどで作成した様々な地図データを簡単な操作で重ね合わせ、表やグラフなどを併せて表示できる機能を持った「政策支援GIS」を平成21年度に構築し、高度な情報サービス実現のため企画政策や行政経営部門でのGISの利活用に取り組んでいる。ここで汎用GISツールとしてArcGISを採用している。

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政策支援GIS全体図

政策支援GISでは、「年齢別分布マップ」「推計人口マップ」や「公共施設マップ」など、多くの課が業務の分析や検討に利用する基礎的な情報をもとに作成した地図を集めた「基本情報レイヤ」、各課が個々の業務の情報をもとに作成した地図を集めた「業務情報レイヤ」、そして市民からの声を地図化した「市民の声レイヤ」を、ライブラリとして整理した。職員は、これらの中から使用したい地図を選択し、重ね合わせてさまざまな分析をできるようになっている。

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単身者の多い地区と不審者の分布

例えば、「業務情報レイヤ」にある防犯課の「不審者出没マップ」と「防犯カメラ設置マップ」に、「基本情報レイヤ」の「単身世帯分布マップ」を重ね合わせたり、また「業務情報レイヤ」の「空き巣」「車上狙い」「ひったくり」等の各地図を重ね合わせたりして、地域特性による要因の検証や防犯対策の検討に活用した。また、「業務情報レイヤ」の福祉部門の「要介護者」や「障がい者」の分布マップと「基本情報レイヤ」の「高齢者世帯分布マップ」等をもとに「災害弱者マップ」を作成し、既存の「防災マップ」と重ね合わせ、避難所設置や防災優先道路等の検討に役立てた。
この「政策支援GIS」の活用が始まった矢先に東日本大震災が起こった。

震災での被害状況の把握と情報提供

平成23年3月11日の震災後、直ちに災害対策本部を設置した。震災直後は各課から届けられる被災の状況や避難所の現状、また仮設トイレや臨時給水所の設置などの災害救援状況に関する情報が錯綜し、現状を把握するのが困難であった。
そこで各課から寄せられた現場の写真や被害状況をまとめたExcel情報を庁内イントラGISに登録し、視覚的に被災状況や災害救援の現状などを地図化した。
この地図作成の作業については、現場の職員では被災場所や災害救済場所の正確な「住所(住居表示番号)」の把握が困難だったことから、アドレスマッチング機能は使用せず、届けられた情報をもとに情報政策課職員がArcGISを用いて直接データ入力する方法を取った。
また、ライフラインの使用制限は、町丁目や街区をまたいだ特定の範囲、一部の範囲となるケースがほとんどで、これら特定の範囲内の世帯数や人口分布を確認する作業は、連携した住民記録システムの情報を空間検索することで、短時間で正確に件数を集計することができた。

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被害状況の分析

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液状化被害の状況

今回の液状化被害において、家屋が損壊、傾く、沈むなどの被害を受けた建物は約9,000戸にのぼった。
震災後の地盤変動状況を把握するため、平成23年4月の航空レーザー計測と震災前の平成18年12月の計測データとの比較を行うとともに、家屋の罹災状況調査の情報をもとに、各家屋の罹災状況、傾きの程度や方向等の情報の地図化を行い、過去に整備した液状化可能性分布地図等とこれらの地図を重ね合わせ、被災状況の詳細な把握や関連性の確認、分析を行った。浦安市では、地盤工学会、土木学会、日本建築学会らの専門家と市関係者からなる「液状化対策技術検討調査委員会」を設置し、今後の液状化対策について検討を進めており、これらの会議においても、政策支援GISで作成した地図が資料として活用されている。

まとめ

浦安市をはじめ地方公共団体においては、市全域や全市民等の画一的な業務やサービスから、地域性や市民属性を考慮したきめの細かい業務やサービスへ変革が進んでいる。そのため、1つの課で完結する仕事よりも、複数の課と情報や業務を連携させ、効率的かつ効果的に仕事を進めるケースが増えてきている。
そういった中、自治体業務におけるGISの役割も大きく変わってきており、浦安市では、従来の「地図の作成」と「地図による情報提供」のためのGISから、「政策支援GIS」という、分析や検討を行うための「考えるための道具」としてGISを使い始めている。
しかし、この「考えるための道具」のGISが、教育を受け、ある程度のスキルを持った一部(特定)の職員のみしか操作できない状況では、「道具」として普及することは考えにくい。誰もが、簡単に気軽に利用できる「考えるための道具」としての汎用GISツールの普及と定着が、今後の浦安市の「政策支援GIS」の鍵を握るといってもいい。

プロフィール


情報政策課 小泉 氏(左)、 横山 氏(右)



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掲載日

  • 2012年1月1日