課題
導入効果
いであ株式会社 国土環境研究所
いであ株式会社は、社会基盤の形成と環境保全の総合コンサルタントとして、調査から分析・解析・評価および対策の立案までさまざまなニーズに幅広く対応している。
同社では、環境系部門が担当する環境調査、環境アセスメント、環境計画分野や、建設系部門が担当する河川、道路、橋梁、港湾などの分野における、データ解析や図面作成などの作業において、ArcGIS を活用している。
これまで ArcGIS は複数部署でバラバラに利用・管理されており、利用頻度の低いライセンスが存在したり、管理の手続きやコスト面の負担が大きく、必要性はあるものの導入が進んでいなかった。そこで ArcGIS の購入手続きや管理を 1 つの部署に一元化することにより、業務の簡素化を行った。さらに、ArcGIS ライセンスの最適配置、一括管理をすることにより保有コストを削減し、全社的な GIS の利用促進にもつなげることができた。今後は、より幅広い業務への対応や高度な解析業務で ArcGIS をさらに活用していく予定である。
いであ株式会社では、1997 年(平成 9 年)頃から環境調査のデータ入力や報告用図面の作成の用途で ArcView を含む各種 GIS ソフトを利用していたが、解析業務のニーズの高まりとともに 2010 年(平成 22 年)以降、ArcGIS Desktop を中心に GIS 作業を行うようになった。ArcGIS を選択した決め手として、官公庁における導入実績、ユーザー数の多さ(大学時代に ArcGIS の利用経験がある新入社員も多い)、画像処理や 3 次元データ処理などエクステンション製品の豊富さなどがあった。
また、実際に ArcGIS を利用した上で評価している点としては、サポートサービス体制や GIS コミュニティーフォーラムなどのユーザー向けイベント/セミナーの充実、様々なフォーマット(河川水辺の国勢調査データ、AutoCAD、国土地理院地図等)への対応があげられる。
ArcGIS を導入してからその利用が約 30 部署にまで拡大していく過程で、以下の 3 つの課題が顕在化してきた。
① 購入手続き業務に関する課題
ArcGIS を購入する際は、ArcGIS を利用する部署で購入に係る手続き業務(見積依頼、稟議作成、発注申請、請求書処理)を行っていた。この手続きが複数の部署で行われており、全社的に見ると同じ手続きが重複していた。
② ライセンス管理に関する課題
ArcGIS ライセンスの管理を部署毎に行っていたため、ある部署で使用していないライセンスがあるとそのライセンスは休眠状態となり、有効な活用ができていなかった。
③ コストに関する課題
ArcGIS Desktop のライセンスや保守の価格は、1 本目(プライマリ)と 2 本目以降(セカンダリ)の価格が異なり、2 本目以降が安価な設定になっている。複数の部署で部署単位に購入していたため、プライマリの価格で購入・保守をしているライセンスが多くあった。
2018 年(平成 30 年)、上述の 3 つの課題を解決するため、複数部署で分散して行っていた ArcGIS ライセンスの管理や購入手続きを、一番多く ArcGIS を使用している部署で一括して行うことにした。担当者である垂氏は、まず各部署で所有しているライセンスを調査してその全容を把握した上で各課題への対処を行った。休眠しているライセンスについては、ライセンスを必要としている別の部署への移管を行った。ArcGIS Desktop の保守費用に関しては、所有しているライセンスの購入種別(プライマリとセカンダリ)を把握したうえで、保守対象となる種別の組み合わせを調整した。状況把握や調整にあたっては、ESRI ジャパンの営業担当が支援を行った。
約 30 の部署毎に行っていた ArcGIS ライセンスの管理や購入手続き業務を、1 つの部署に一本化したことによって、重複した業務の無駄が無くなり、手続きに係る労力や時間を大幅に削減することができた。また、部署毎の所有ライセンスの全容を把握したことで、ライセンスの効率的な管理や活用ができるようになった。例えば、休眠しているライセンスの他部署への適用によるライセンス配置の最適化ができるようになったり、社内向け講習会の企画を立てやすくなり、効果的に情報共有を行えるようになった。さらに、ArcGIS Desktop のライセンスの保守対象種別の組み合わせを調整することで、保守費用を大幅に(対応初年度は 100 万円以上)削減することができ、この費用をエクステンション製品の購入に回すことができた。
ライセンスの有効活用というテーマでは、ArcGIS Desktop に付属する ArcGIS Pro(ArcGIS Desktop の最新アプリ)の効果もあげられる。2020 年(令和 2 年)3 月以降の新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務が多くなったことにより、マシンを固定せずにライセンスを利用できる ArcGIS Pro が注目されることになった(ArcGIS Pro のライセンスは指定ユーザーライセンスであり、ユーザーがサインインすることで利用できる)。ArcGIS Pro については、使い勝手が良いこと、処理速度が速いこと、エクステンション製品のライセンスの割り当てが柔軟にできる点などが評価されており、利用者が増えてきている。また、標準で 3D 表現も可能なことから、環境情報の 3 次元表示による「見える化」が可能になり「気づき」を得ることができた。さらに Autodesk 社の BIM/CIM 製品と連携して独自の河川 CIM モデルを作成するなど新たな技術を取得することができた。
今後は、ArcGIS の標準機能に加えてエクステンション製品(Spatial Analystなど)を組み合わせて利用することで、より幅広い業務への対応や、画像分類・ラスター解析による適地分析など、高度な解析業務での活用をより多くの社員が実践できるような環境づくりを目指している。また標準機能からエクステンションまで、レベルに応じた社内向け講習会を実施することで、社内への情報共有のさらなる促進を目指していく。