課題
導入効果
電力中央研究所 社会経済研究所では、再生可能エネルギーや電力事業に関わる政策評価の研究を行っている。本取り組みでは、研究成果である、洋上風力発電の利用対象海域および同海域に設置可能な風車の設備容量をクラウド GIS の ArcGIS Online および ArcGIS Dashboards を用いて可視化し、Web GIS プラットフォームとして公開した。わが国のエネルギー政策に活用されることが期待されている。
洋上風力発電
温室効果ガスの大規模削減に向けて洋上風力発電に対する期待が高まる中で、わが国でも 2019 年(平成 31 年)4 月に再エネ海域利用法が施行され、洋上風力発電の環境整備の枠組みが整備されつつある。このような背景を踏まえ、電力中央研究所では、洋上風力発電の開発に適した海域の把握および同海域における設置可能な風車の設備容量の算出を行うべく、ArcGIS Desktop や ArcGIS Spatial Analyst などを用いて適正面積の解析および算出を行っていた。
これまでの環境省による調査では、洋上風力発電が開発可能な海域は膨大にあることが示されていた。しかし、電力中央研究所の研究によって、船舶や漁業、景観などへの影響を考慮すると、洋上風力発電に適した海域は大きく減少することが示された。本研究の成果は「再エネ海域利用法を考慮した洋上風力発電の利用地域に関する考察」(尾羽, 2019)として公開されている。
一方で、洋上風力発電の設置に適した海域の把握に関しては、複数のシナリオ・条件下でのポテンシャルを比較するため、よりインタラクティブな形での研究成果の可視化が課題となっていた。
先述した研究の成果である海域環境条件・ポテンシャル情報を Web プラットフォームとして公開・閲覧可能なものとするにあたって、電力中央研究所では、Web GIS を用いた洋上風力発電ポテンシャル可視化プラットフォームの構築を検討した。これにより、今後長期的なエネルギー計画に関する議論等に向けて、現実的な洋上風力発電の導入目標の検討に貢献することが期待される。可視化プラットフォームの基盤としては、ポテンシャル算出の際に作成したデータをそのまま活用することのできる基盤であること、また短期間で構築ができ、かつ構築後に細部の文言、レイアウト変更をユーザー側で実施できるような柔軟な基盤であるという点から、ArcGIS を採用することとした。
2019 年度の研究プロジェクトで整備された海域に関する空間情報は、日本の領海を約 500m に区切ったメッシュに、離岸距離、年間平均風速、水深、船舶通行量、漁業権の設定海域であるか否か、という情報が格納されている。本取り組みでは、この情報を基に、洋上風力発電ポテンシャル可視化プラットフォームを構築し、「洋上風力導入量 GIS 評価ツール」と名付けた。
公開におけるデータ保管・配信基盤は ArcGIS Online を採用し、発電ポテンシャルを可視化し、条件・シナリオごとにインタラクティブに絞り込み表示するツールとして ArcGIS Dashboards を活用して公開用アプリを構築した。構築した Web GIS プラットフォームでは、離岸距離、年間平均風速などの環境条件のそれぞれの状態に関して、閲覧者側で任意にフィルタリングができるように設計したほか、洋上風力資源の開発シナリオごとに設定した標準的な環境条件を一括で切り替えられるようにし、洋上風力資源の開発に関する参考情報を迅速に取得できるよう設計を行った。本プラットフォームは、2020 年(令和 2 年)12 月に電力中央研究所ホームページ上で一般向けに公開した。
ArcGIS Online および ArcGIS Dashboards を用いて洋上風力導入量 GIS 評価ツールを構築したことにより、従前は研究成果をまとめた論文内の図表などによってのみ公開されていた、日本近海の洋上風力資源の状況のより効果的な可視化を実現した。
本プラットフォームが、エネルギー政策の立案に関わる政府関係者や研究者などの関係者に活用されることで、洋上風力発電の設置においてボトルネックとなる制約条件を把握し、現実的な洋上風力発電の導入目標の策定に貢献することが期待されている。
本 Web プラットフォームは今後、関係者や一般ユーザーからのフィードバックなどを経て、さらなる活用を促すべく改善を進めていく予定である。それに加えて、今回の公開対象であった洋上風力発電だけでなく、太陽光発電と陸上風力発電の適地・ポテンシャル情報の整備、公開も検討している。電力中央研究所の研究成果および ArcGIS プラットフォームが、エビデンスに基づく再生可能エネル ギーに関する政策策定に活用されることが期待される。
社会経済研究所 特別契約研究員
尾羽 秀晃 氏