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事例

地域に潜む危険を GIS で調査・可視化

愛媛県松山市立三津浜中学校 / 愛媛大学 / 愛媛県警察松山西警察署

 

地域社会における未来の担い手を育成
中学生が地域の危険な場所・安全を守る取り組みを調査!

概要

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愛媛県松山市立三津浜中学校(以下、三津浜中学校)は、家庭や地域、校区の小学校等との連携を通して家庭や地域を愛し、愛される学校づくりを目指した教育活動を推進している。
ESRI ジャパンでは、「小中高教育における GIS 利用支援プログラム」を展開しており、GIS ソフトウェア、クラウドサービス、サポートなどを、小中学校・高等学校へ無償で提供している。
三津浜中学校も本プログラムを活用し、2020 年(令和 2 年)1 月 16 日 ~ 17 日に、中学 2 年生(約 150 名)を対象に社会科地理的分野「地域学習」の単元において「三津浜安全プロジェクト」と題した「安全教育」をテーマとした授業を実施した。本授業は、愛媛大学の井上昌善講師が中心となって開発したもので、実践に当たって松山西警察署が安全面に関する地域の取り組みの紹介、ESRI ジャパンが GIS を活用したフィールドワーク等の授業支援を行う役割を担った。

課題

警ら箱の設置されている地点
警ら箱の設置されている地点

中学校では、2021 年度(令和 3 年度)より新学習指導要領に依拠した教育活動が完全実施となる。地理的分野では「日本の様々な地域」に新しく「地域調査の手法」と「地域の在り方」が設定された。主体的・対話的で深い学びを実現するためには、地域の課題について調査し、収集した情報や資料を多角的に考察したり、その結果に基づいて議論を行ったりする学習が求められる。
また、地域課題に関して、調査した結果を学習の成果物として地域に発信することで、地域社会の課題解決の担い手として必要な資質・能力の育成につながる学習を展開することが重要とされている。
井上講師は、2018 年(平成 30 年)3 月まで公立中学校の社会科教諭として、GIS や地図を活用し、地域の課題に取り組む授業の実践を継続的に行っていた。2018 年 4 月より愛媛大学教育学部の教員に着任し、松山市教育研修センター事務所にて教員研修を担当するようになる。そこで三津浜中学校の髙岡遼介教諭と出会い、生徒が地域の課題解決の取り組みに参画できるような社会科学習を開発するに至った。教材として注目したのが、地域に設置されている警ら箱である。警ら箱は、地域住民が地域の安全に関する意見や要望等を自由に記入し関係機関に届けるために設置されたものである。この警ら箱の機能や役割に着目させることで、安全を守るための取り組みの意義を考察させることができ、より望ましい取り組みのあり方を探究させる授業を行うことができると考えた。

ArcGIS 採用の理由

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教員・生徒の ICT 活用は、教育現場において重要視されている。そこで課題となるのが、情報活用能力の育成である。情報活用能力の育成のためには、資料を解釈したり複数の資料を関連付けたりして考察することが重要である。これに関して井上講師は、生徒に主体的に資料活用を促すためには、生徒自身が調査した情報に基づく資料を作成し、既存の資料と比較する学習活動が有効であると考えた。そこで、まず GIS を活用して、松山西署から提供を受けた実際の交通事故が起きているポイントデータ等を活用して加工し、教材開発を行った。
次に、生徒自身が調査した結果を 1 つの地図にリアルタイムに反映できるアプリ(ArcGIS Survey123)を活用し、学習を行った。これにより、限られた授業時間の中で生徒の主体的な学習を実現できると感じた。

課題解決手法

今回の学習では、クラウド型 GIS サービス ArcGIS Online と野外調査用アプリ ArcGIS Survey123 を通じて三津浜中学校周辺の危険な場所の特徴について調査した。
まず、生徒に紙の地図に自分の通学路を記入させ、危険を感じる場所(危険ポイント)、危険を防ぐ工夫がされている場所(安全ポイント)を記入させた。また、その際に同じ学区内の小学生が作成した「交通安全マップ」も確認し、小学生との考えの違いを実感させた。
次に、フィールドワーク調査を実施した。ここでは、愛媛大学の学生も参加してエリアごとにグループに分かれ、三津浜中学校周辺の見通しの悪い交差点などの「危険ポイント」や、カーブミラーの設置など「安全ポイント」を調査し、大学生を中心に ArcGIS Survey123 を用いてスマホで情報を入力した。2 年生全体で 378 か所のデータを入力した。入力したデータがリアルタイムに ArcGIS Dashboards へ反映されることで、楽しみながらデータ入力の作業を行うことができた。

フィールドワーク後に愛媛県警より提供を受けた実際の事故発生ポイントデータと ArcGIS Survey123 で調査したデータを重ね合わせて、自分たちが調査したデータとの相違点や一致点について意見交換した。「スーパーの周辺で事故が多く発生している」、「狭い通りよりも大通りでの事故の発生が多い」といった意見などが出た。そして、松山西署の担当者より、実際の事故が起こりやすい場所や三津浜地区・宮前地区で発生する交通事故の特徴、安全を守る取り組み(カーブミラー・クランクの設置等)の意味について地図を見ながら説明を受けた。
その中で、実際にどのように自分たちの通学路の安全が確保されているのかということについて、関わっている機関や団体、安全点検の体制についても説明を受けた。これによって、生徒は自分達の目線で通学路の安全を確保するために要望を上げることが大切だということに気付くことができた。また、自分たちが考えた意見を地域の安全を守る取り組みに活用するための方法として、警ら箱があることを学んだ。このような GIS を活用した学習の意義は、自分たちが学習したことが地域の安全をめぐる課題の解決に貢献していることに気付く点にある。つまり、生徒に地域社会の形成者としての自覚を持たせ、学習の意味付けを可能にしているのである。

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効果

現地調査アプリを使い調査実習・集計が簡単に行えるようになったことで、より多くの授業時間をディスカッションや考察の時間に充てることができた。地域を管轄している警察署の方から実際の交通事故の現状や、危険を防ぐための工夫について学んだことは生徒にとって大いに刺激的な学習体験となった。授業後のアンケート結果から、自分が調査した情報が地域の課題解決につながることに気付くことで、自らが地域の安全を守る担い手であるという自覚を持つことができたことが明らかになった。今回紹介した「三津浜安全プロジェクト」を開発した井上講師は、2020 年度「初等中等教育における GIS を活用した授業に係る優良事例表彰」を受賞した。

今後の展望

文部科学省では GIGA スクール構想(※1) が議論されており、教育現場は今後急速に ICT 活用が普及するだろう。
重要なのは、生徒の資質・能力を育成するための ICT の活用方法を検討することである。ESRI ジャパンでは今後も GIS を活用した教材開発および授業開発を推進していく予定だ。

 

(※1)GIGA スクール構想:
・1 人 1 台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、
 多様な子供たち一人一人に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育 ICT 環境を実現する
・これまでの我が国の教育実践と最先端の ICT のベストミックスを図り、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す
 (出典:文部科学省)

プロフィール


三津浜中学校の生徒の皆さん


三津浜中学校   愛媛大学


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掲載日

  • 2021年1月6日