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事例

ベテラン漁師の経験とカンを AI で地図上に可視化

オーシャンソリューションテクノロジー株式会社

 

過去の操業日誌や海流データ・水温を元に AI が最適な漁場を判断

概要

佐世保市は長崎県北部の中心都市で、長崎県では長崎市に次いで 2 番目、九州では 9 番目に多い人口を擁する。かつて旧海軍四軍港(横須賀・呉・佐世保・舞鶴)の一つとして鎮守府が置かれ、現代でも自衛隊や在日米軍の基地として伝統を受け継ぐ、造船および国防の町として知られる。

漁業における高齢化と事業承継の問題は深刻で、ベテラン漁師が培った経験とカンを若手漁師へと受け継がせる方法が必要だった。オーシャンソリューションテクノロジー株式会社は、過去の操業日誌のデータや漁師からの聞き取り、海流、水温のデータなどを元に AI が最適な漁場を探すシステム「トリトンの矛(ほこ)」を開発、実証実験ではその有効性が証明された。将来的には資源管理と収益性を両立した漁業を目指し進化をさせていく予定である。

トリトンの矛画面
トリトンの矛 画面

課題

オーシャンソリューションテクノロジーの親会社である佐世保航海測器社は、長年海上自衛隊の船のメンテナンスを請け負っており漁業とは無関係だったのだが、知り合いの漁師から相談を受けたことが事の始まりだった。

漁船には漁労長という漁場や漁法の選定を担う役割の人が乗船しており、漁労長の腕で漁獲量は大きく左右される。若い人が初めて漁労長をやるとベテランと比べて漁獲量が半減してしまうそうだ。一人前の漁労長を育てるには 20 年かかると言われる。しかし漁業にも高齢化がおよび、55 歳以上の従事者が 60% になるという。20 年待っていられないのだ。
熟練の漁労長が培ったノウハウをいかに伝え、後継者を効率的に育てるにはどうしたらいいのか。そこで出てきたのが「ベテラン漁師の経験とカンを AI に置き換える」というアイデアだった。それまで培ってきた過去の手書きの操業日誌のデータを地図上にプロットし、それを AI と組み合わせて最適な漁場を探し出すという方法を考えた。

ArcGIS 採用の理由

まず、どの AI を使うのかという選定から始まり、その過程で株式会社ユー・エス・イーと出会い共同で開発をすることとなった。地図上にデータをプロットする方法の調査を行なう中で、たどり着いたのが ESRIジャパンだった。
地図データとしてグーグル等も検討したそうだが、詳しいマニュアルが無く開発に難しさを感じたという。ESRIジャパンからコンサルティングという形で協力を受けながら開発できたことは大きな助けとなった。また、ArcGIS には様々な API があり今後の拡張性があることも採用の決め手となった。

課題解決手法

このシステムで何をアウトプットするのかは非常に重要で、基本的に漁師はたくさん捕れる場所を求めてしまう。しかし、それをアウトプットとすると資源管理の側面からは乱獲へと繋がってしまう。「漁師の判断を可視化する」というのが目的なのだ。

データベースとしては Salesforce を使った。漁師にとって自分たちのノウハウは財産であり、それを他人に見せることは最も嫌がられる。すべてのデータは漁業者毎に管理される必要があった。Salesforce の使用はセキュリティーの面で見せる部分 / 見せない部分のコントロールがしやすいという利点があった。また、Salesforce 上で地図をプロットする時に ArcGIS API for JavaScript が使える親和性があった。
AI はマゼランブロックスの AI システムで学習モデルを作っていった。漁場予測の AI 因子として海流、水温データを使っている。
開発中は漁師からフィードバックをもらい、トライ & エラーを繰り返しながら学習モデルを作っていった。画面上に表示する円の大きさなど、使いやすさを向上するための UI に関することが多かった。

操業日記は過去 10 年の操業に関する位置情報と水温、漁獲量が必ず書いてある。地図上をクリックすることによりそのエリアの過去の操業日誌を見ることができるようにもした。システムはギリシャ神話の海神にちなみ「トリトンの矛」と名付けられた。

効果

実証実験を 2018 年(平成 30 年)2 月から 1 か月間行った。ベテラン漁師 2 名がそれぞれの経験とカンで漁を行い、若手の漁師 1 名が、それらベテラン漁師のデータを元にした AI の結果を見て操業を行った所、若手が 2 番目の成績を取ったという。
また、ベテラン漁師でも出航前に漁場を予想したときに、いくつか候補があがる。その時に参考として AI による結果と比べてみると重なることが多かった。そこへ若手に行かせたり、自分が迷った場合のパートナーとしての活用が想定される。現在も様々な実証実験を行いながらシステムのブラッシュアップを行っている。

船上での使用の様子
船上での使用の様子

今後の展望

今は過去の操業に基づいた漁師の経験とカンを可視化して若手に継承し、そしてベテランのサポートを担うという段階と考えているが、次の目標は収益性の向上にあるという。資源管理の側面から考えると、漁獲量を抑えても漁師の収益性を担保できるようにしていく必要があり、そのためには将来的に漁獲量予測の AI が必要になると考えている。乱獲を防ぎ、少量で収益性の高い魚を捕ることを AI に判断させてプロットする。それにより、遠くまで出てたくさん捕るよりも、近くで少ない量の魚でも収益性を上げるということが可能になると考えられる。漁師は今までたくさん捕ることが目的であり、たくさん捕る人が称賛されてきたが、それを変えなければいけない時代に来ているのだ。

水上氏は最後にこう語った。「昔のまだ漁法がいろいろ無い時代の漁師は小さい魚は逃がしていました。資源管理をきちっとやりながら、脂の乗ったいい魚だけを捕っていたので収益性を維持することができていました。今は捕る能力が資源を超えてしまっているのです。漁獲量を抑えて、資源を守りながら収益性を維持するという漁業に変えていく必要があるのです。昔の良き時代の水産業を進化させていくことが大事だと思っています。」

プロフィール


オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
専務取締役 水上 陽介 氏



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資料

掲載日

  • 2020年1月7日

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