課題
導入効果
株式会社エフバイオスは出力 11,500 ~ 18,000kW の木質バイオマス発電所を管理・運営している。同社発電所で使用する燃料の大半は地域の山林から伐採・間伐された木材から作られるチップである。発電所の安定稼働のためには燃料を安定的に調達することが必要である。そのため、森林の循環利用(伐って、植えて、育てる)による森林資源の持続的な利用が求められる。
同社山林事業部森林調査グループでは、森林資源の現状把握と将来のシミュレーションにより、森林資源の持続可能性評価を目指している。
これまでに航空写真やレーザー測量由来の地盤高(DEM)データといった多様なリモートセンシングデータを元に深層学習などの機械学習を応用することで、実態に即したデータの解析を実現した。
今後、地形と資源量を総合的に解析・評価し、森林資源利用可能区域を設定した上で、森林資源量の将来予測の実現により地域森林資源の持続的な供給体制の実現を目指す。
豊後大野発電所
同社の豊後大野発電所(出力 18,000kW)の場合、燃料とする木質チップを 1 日に約 700t 使用し、その約 8 割は未利用木材由来である。
地域の森林・林業にとって、木質バイオマス発電所の存在は木材の受け皿となるものの、大量の燃料を消費する。そのため、燃料の安定供給体制を維持するとともに、地域森林資源の持続的活用に向けて、森林の資源量と成長量、伐採量を解析し、持続可能性を検討する必要があった。
発電所で使用するチップは半径約 50km に及ぶ森林から集められるため、広域の解析が求められた。また、基本的に扱うデータはラスターデータであり、様々なラスター解析手法を組み合わせることが必要だった。
ArcGIS は大容量のラスターデータでも動作が安定しており、エクステンション製品である ArcGIS Spatial Analyst を利用することで豊富なラスター解析ツールが使用可能となるため採用した。
地域森林資源の持続可能性を検討するため、下記を明らかにすることが必要だった。2019 年(令和元年)10 月時点では下記のうち、(1)、(2)は実施済みであり、(3)、(4)については手法の開発に取り組んでいる。
樹種区分
木材の体積(以下、材積)の推定
地形解析
成長量の推定
伐採地の抽出
地形と資源量の統合的解析
(1)について、樹種区分は深層学習を応用した。また、材積の推定は空中写真から得られる表層高(DSM)とレーザー計測データ由来の DEM から森林の高さ(以下、林冠高)を算出し、林冠高から材積を推定した。地形解析では傾斜や曲率とともに、微地形図を作成し、深層学習を活用し既存の林道・作業道を抽出した。
(2)について、資源変化量は 2 時期の空中写真から得られる林冠高の差分から解析した。
林冠高が減少した箇所を確認したところ、ほとんどが伐採地であったが、一部、掘削工事による DEM の低下やダムや河川の水位減少も抽出していた。また、林冠高の誤差により伐採されていない森林も抽出していた。そこで林冠高が減少した箇所のオルソ画像の色情報も加え、Random Forest という機械学習の手法を活用することで、森林減少だけを抽出するモデルを作成した。また、林冠高が増加した箇所では、増加量を成長量として解析した。
(1)現存する資源量の把握について、クヌギ林は広葉樹林と混同してしまったものの、重要樹種であるスギ、ヒノキの分類精度は約 9 割であり、全体精度は 93% を達成した(表 1)。
(2)資源変化量の推定について、推定した成長量を検証するため、既往研究(地上設置型レーザースキャナーを用いた現地調査により改訂された収穫表)と比較した。若干、空中写真で推定した成長量が高かったものの、概ね似た傾向を示した(グラフ 1)。
また、伐採地の抽出精度は 90% を上回った。
地形条件と推定した資源量、伐採の関係を明らかにすることで、森林資源の利用可能域が設定可能となる。
これまでの取り組みにより明らかとなった現在の資源量分布、年間伐採面積、成長量と、パラメータとして再造林率や造林樹種の面積割合をシナリオ別に設定し、利用可能域内での森林資源量の長期シミュレーションを実施することにより地域森林資源の持続可能性を評価し、行政や地域の協議会と協力しながら必要な対応を検討したいと考えている。
記事中の解析結果は大分県知事の承認を得た森林資源情報データから作成したものである。
承認番号 変元-1 号(31 - 8 号)令和元年 10 月 2 日