課題
導入効果
海上保安庁海洋情報部は、航海の安全、海洋権益の保全、防災・環境保全などの海洋における情報の収集・管理・提供を幅広く担っている。
GIS を活用した海洋情報提供の取り組みとしては、2000 年代に GIS での提供環境が整ったことから、2003 年(平成 15 年)に油流出事故の対応等のため、沿岸海域環境保全情報を集約した Web GIS サービス「CeisNet」の運用を開始した。海上保安庁では、アジア地域を代表する海洋情報提供機関として、常にその時代に適応したツールを利用しつつ業務を行っている。
また、2000 年代以降、政府一体となった海洋政策の推進が求められるようになり、2007 年(平成 19 年)には海洋基本法が成立した。同法の枠組みに基づき、省庁横断の包括的海洋情報提供サービスとして、海洋情報提供に実績のある海上保安庁において 2012 年(平成 24 年)に政府関係機関等が保有する、海底地形、航路、海流などのさまざまな情報を、ユーザーが自由に取捨選択し、地図上に重ね合わせて表示することができる先進的な Web GIS サービス「海洋台帳」の運用を開始した。
「海洋台帳」の運用開始から 5 年がたち、インターネット環境も大幅に変化し、大量のリアルタイム情報も扱えるようになってきた。そこで、「海洋台帳」で扱っている「日本周辺の非リアルタイム情報」だけではなく、「世界全体のリアルタイム情報」を扱えるように発展させ、掲載項目数も「海洋台帳」の約 100 項目から、約 200 項目に倍増させた新たな Web GIS サービスとして、2019 年(平成 31 年)4 月に「海洋状況表示システム」、愛称「海しる」の運用を開始した。「海しる」は”海の今を知るために”というコンセプトのもと、さまざまな海洋情報を集約し、地図上で重ね合わせて表示できるようにした情報サービスである。
「海しる」は、政府全体で推進している「海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)」の能力強化に資するシステムと位置づけられ、政府関係機関等が保有する様々な海洋情報を集約し、提供する先進的な Web GIS サービスであり、さらには、国土交通省の「生産性革命プロジェクト」における海洋情報革命の中心となる海洋分野のデータプラットフォームでもある。
海しるトップ画面(https://www.msil.go.jp/)
出典:海洋状況表示システム
「海しる」の開発にあたっては、(1)複数の関係機関が保有する海洋情報の取り込み、(2)複数のリアルタイム情報の重ね合わせ表示、(3)海洋台帳で扱っていた海洋情報の海しるへの引き継ぎが課題としてあった。
(1)については、関係機関との打ち合わせを重ね、情報毎にデータフォーマット、データ収集方法、表現方法及び提供ポリシーを個別に確立した。(2)については、更新・配信間隔が異なる複数のリアルタイム海洋情報を効果的に表示する方法として、単一のタイムスライダーでの一元的な制御を採用することとした。ArcGIS が(1)、(2)の課題に柔軟に対応するためのツールとして適していたこと、及び(3)の海洋台帳の掲載情報は ArcGIS フォー マットで管理していたことから、「海しる」の開発では ArcGIS 製品を GIS のベースとして採用した。
「海しる」のサービスは、関係機関が公開する情報のリアルタイム表示を実現するため API によるデータ連携を採用しており、バックエンドとして海しる独自の API(海しる API)と海上保安庁を含む各関係機関が管理する API、ユーザーインタフェース(海しる UI)としてマップサービスを逐次参照する JavaScript ベースの Web アプリケーションから構成される。
「海しる API」は、ArcGIS マップサービス API であり、旧サービスである海洋台帳を継承し、海上保安庁がオフラインでとりまとめた情報を提供するほか、API に対応していない関係機関の情報をオンライン参照しリアルタイムで提供する。
リアルタイム情報(海面水温)の表示
出典:海洋状況表示システム
情報提供元:国土地理院、JAXA
「海しる UI」は当初の設計がデスクトップ PC からの利用を想定しており、現状スマートフォンでは利用しづらくなっているが、2019 年度内にはスマートフォン等での表示を最適化した、「スマート版海しる UI」を公開予定としている。
津波シミュレーション表示例
出典:海洋状況表示システム
情報提供元:国土地理院、海上保安庁
4 月の「海しる」公開以降アクセス数は徐々に伸びてきており、前身の「海洋台帳」の約 5 倍のアクセスと、多くの方にご利用いただいているほか、報道番組だけではなく中高生向けの教育番組にも取り上げられるなど、高い関心が寄せられている。
「海しる」を通じて、政府関係機関等が保有する様々な海洋情報を一元的に提供することにより、水産業、海運業、洋上風力発電など、海に関わる産業や、海洋レジャー、教育、研究など幅広い分野への貢献を目指している。
まずは、利活用推進のため、広報に努めるとともに、ニーズに応じて、情報の充実、機能や操作性等の改善を進めていく。