課題
導入効果
国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)総合防災情報センターでは、地震や風水害、火山等の自然災害が発生した場合に向けて、防災科研クライシ スレスポンスサイト(以下、NIED-CRS)という Web サイトを公開している。
NIED-CRS は、災害時の情報集約(防災科研が解析した情報や、様々な機関が発信する災害情報など)と発信を目的とした Web サイトである。これまで公開した NIED-CRS はポータルサイト(https://crs.bosai.go.jp/)にて確認できる。
NIED-CRS の役割の一つに様々な災害情報を地図に表現することが挙げられる。これまでは他の Web GIS アプリケーションを用いて公開してきたが、2017 年(平成 29 年)より ArcGIS Online をベースとしたサイトを公開している。
ArcGIS 採用前は、地図に掲載する災害情報が多様化することでレイヤーの数が増加し、Web サイトの構造が複雑化したことが課題となっていた。また、様々な地理空間情報を目的別の地図情報(主題図)として表現する方法も課題だった。ArcGIS Online を導入し、ArcGIS ストーリーマップやテンプレートを用いることで目的別に主題図を作成し、発信することができるようになった。さらに、ユーザーの閲覧環境の多様化や変化に合わせた対応も、特別な開発や設定を行うことなく容易にできるようになった。
今後は、解析した情報や集約した情報を、地理空間情報のみならず、画像や数値情報、グラフ等を統合的に組み合わせることで、よりユーザーに役立つ情報発信のあり方の検討を進めていく。
NIED-CRS では、以前から災害情報を集約し発信してきた。地理空間情報を用いた情報発信は 2014 年(平成 26 年)の御嶽山噴火より開始し、Web GIS アプリケーションを用いて公開してきた。
様々な災害情報を地理空間情報として集約・発信するにつれ、主に次の 3 点の課題が浮き彫りになった。
取り扱う地理空間情報が増加するにつれ、多くのレイヤーを扱うことになり、1 つのマップで目的の情報にたどり着くことが困難となった。また、閲覧者にて情報を選別するリテラシーを必要とした。そのことから、情報のカテゴリの整理や、目的毎にユーザーが簡単に閲覧できる仕組みが求められるようになった。
PC やスマートフォン、タブレット端末など Web サイトの閲覧環境が多様化しており、環境の変化に合わせる必要があった。
取り扱う情報量の増加に伴い、Web GIS を用いて安定的に情報を発信することに課題があった。
ArcGIS Online を活用することになったポイントは主に次の 4 点である。
Web マップを用いることで、カテゴリや目的別の主題図を容易に作成できる。
ArcGIS ストーリーマップを用いることで、作成した主題図をカテゴリや目的別に体系的かつ容易に Web サイトとして表現できる。
特別な対応を行うことなく、様々な端末での表示に動的に対応できる。
ストーリーマップやテンプレートが複数用意されており、開発行為やコーディングなどのスキルを必要とせずに利用できる。
課題解決にあたり、まず、統合的に情報発信ができるように NIED-CRS のサイト自体を ArcGIS Online の組織サイトの機能を用いて構築した。そこへ災害毎に個別のストーリーマップを構築し、公開した。
また、ストーリーマップテンプレートの選定に当たっては、膨大な地理空間情報を体系的に整理し、表現するために、カテゴリや目的別に表現できるアコーディオン状のメニューが使えるものを採用した。メニューに掲載する主題図は、Web マップや Web アプリケーション、Web サイト等を埋め込み、表現したい目的に応じて埋め込む内容を変化させ構築している。
令和元年台風第 19 号浸水発生危険度(1.5 時間実効雨量)
ArcGIS Online を用いて NIED-CRS を構築、公開することで、主題図を体系的に表現できるようになったことが最も大きな効果である。
例えば、風水害の場合、降水量による浸水や土砂災害の解析情報(実効雨量)、台風進路情報などの警戒段階で必要な情報を発信することができるようになった。また、災害が発生した場合には、被害状況や被災地の空中・衛星写真、各災害対応機関の対応情報などの情報をそれぞれの主題図として集約し、たった 1 つの URL で情報を共有できるようになった。これにより警戒段階から発生時の対応まで統合的に情報発信ができるようになった。
また、災害発生後に NIED-CRS を 0 から構築するのではなく、災害種別毎に最低限必要な情報をテンプレート化しておくことで、災害発生時に迅速に情報発信することが可能となった。
さらに、NIED-CRS を構築、運用する環境としてオンライン上で完結するため、GIS ソフトウェア等の導入が不要となり、端末や場所を選ぶことなく構築作業を行うことができている。この点は、迅速に NIED-CRS にて災害情報を提供する上で重要である。
災害情報を提供する上で重要である。また、様々な表現ができるアプリケーション(Web AppBuilder for ArcGIS、Operations Dashboard for ArcGIS 等)が備わっているため、目的に応じた表現手法を検討する際に役立っている。
ArcGIS Online を用いることで、体系的な情報発信を行うことができるようになった。今後は個別の主題図がよりユーザーの目的や使い勝手にあった主題図となるように検討を進めていく。具体的には、解析した情報や集約した情報を、地理空間情報のみならず、画像、数値情報、グラフなど統合的に組み合わせる表現を検討する。この検討に当たっては、ArcGIS Online のテンプレートも活用していきたい。