課題
導入効果
帯広畜産大学がある十勝地域は大酪農地域である。牧草の採草地では、生産力を維持するため草地更新が行われるが、その目安として、採草地における裸地と雑草の割合が 30% 以上であれば更新の検討が必要とされる。しかし、人手不足やコストの問題から、より簡単かつ低コストで草地更新の検討等の採草地を管理する手法が求められている。
帯広畜産大学環境農学研究部門農業環境工学分野の辻研究室では、ArcGIS Desktop を用いて小型 UAV の空撮画像より生成した異なる時期の DSM(数値表層 モデル、Digital Surface Model)データを基に、草高の差から雑草領域の抽出と面積を算出する研究が行われている。
十勝地域は、北海道で根釧地域に次ぐ大規模酪農地域であり、それに伴い飼料である牧草を生育している。採草地は経年使用により植生が悪化し生産力が低下するため、定期的な草地更新が必要となる。更新の目安として、採草地における裸地と雑草の割合が 30% 以上であれば更新を検討する必要があるが、2016 年(平成 28 年)の日本草地畜産種子協会のデータによると、北海道の採草地における裸地・雑草の割合は 46.1% であり、このことから更新が十分に行われていないことが分かる。
採草地に雑草が繁茂すると、飼料の栄養価や嗜好性が悪くなるため乳牛の採食量が減り、結果として乳量の低下につながる。
これらの問題を解消するために草地更新を行う必要があるが、人手不足やコストの問題があるため、より簡単に低コストで採草地を更新すべきかを判断する手法が求められている。そこで、近年は安価に入手できるようになった小型 UAV を使用し、農地をモニタリングする研究が行われている。
過去には小型 UAV の空撮画像と画像解析ソフト ImageJ を用いて雑草の一種であるリードカナリーグラスの判別に適した撮影時期と撮影高度の推定を行ったが、リードカナリーグラスの判別精度が低いと いう課題があった。そこで、今回はリードカナリーグラスとチモシーの草高の差に着目して DSM によるリードカナリーグラスの判別を試みた。
小型 UAV は、Phantom3 と Mavic Pro を使用した。これらの小型 UAV を使用して 1 番草刈り取り後(2016 年 6 月 28 日)から 3 番草刈り取り(同年 10 月 3 日)までの毎週、帯広市にある八千代公共育成牧場の採草地を撮影した。調査地の草地はチモシーとシロクローバーが 9:1 の比率で混播されており、雑草は主にギシギシ類とリードカナリーグラスがみられた。
調査は以下の流れで行った。
小型 UAV の送信機に iPad をつなぎ、専用アプリケーションの Pix4Dcapture を使用して経路を決定した。
地上解像度の違いをみるため高度 75m、50m、25m で撮影を実施した。
撮影後、Agisoft Metashape(旧 Photo Scan)を用いて撮影した画像からオルソ画像と DSM データを作成した。その後 ArcGIS Desktop と ArcGIS Spatial Analyst、ArcGIS 3D Analyst を使用して作成した DSM データを基に、以下の解析を実施した。
過去に ImageJ で行った解析ではリードカナリーグラス以外の植物も抽出されてしまい、実際よりも面積が大きく算出される傾向にあった。ArcGIS Desktop で行った DSM による解析では、草高の違いからリードカナリーグラス群落をポリゴン化することで、より実際のリードカナリーグラス群落に近い形状と面積を得ることができた。GCP(地上基準点)をつけて空撮画像の位置補正を行うことで、より正確な雑草面積の算出ができると考えられる。
現在、帯広畜産大学では牧草地の雑草の判別だけではなく、他の農作物に対しても小型 UAV を用いたモニタリングを行っている。
2018 年(平成 30 年)には、大学の実験圃場を対象として実施した小型 UAV による空撮調査で、作成した差分 DSM で作物の草高推定を行い、生育状況の把握が可能であることを明らかにした。しかし、作物の生育過程は再現できたが、推定草高と実測草高に差があったことから、2019 年(令和元年)には、その差が作物の生育形状にあると仮説を立て、複数の作物を対象とした調査を実施している。
その結果、エゴマ草高の推定では実測草高と推定草高とに強い相関関係が見られた。これはエゴマのような双子葉類の生育形態が圃場一面にその茎葉を繁茂させることにより、小型 UAV 空撮画像で DSM を作成する過程において空撮の解像度以上の葉面積を確保することができ、その結果として標高を正確に表現することができたものと考えられる。一方、オオムギやエンバクでは、エゴマと異なり実測草高と推定草高とには強い相関関係が見いだせなかった。また、同じイネ科の作物であるオオムギとエンバクを比較すると、オオムギがエンバクに比べ相関関係が弱かった。これはオオムギのような茎葉・花序を含む作物体が直立し株間隔が大きい作物においては小型 UAV の空撮による DSM 生成過程で認識されない長芒付きの穂などの作物要素が影響したものと考えられる。また、圃場内の地面など、作物以外の領域が大きく影響したと思われる。このため、作物以外の領域を考慮し実測草高と推定草高の相関関係を評価したところ、オオムギでは格段の相関関係の向上が見られた。
今後はより多様な作物を調査対象とし、生育過程全体において作物草高の実測を行い、小型 UAV の空撮方法及び DSM 解析方法に工夫を加える。そうすることで、より多種の作物生育の推定が可能となり、今後のスマート農業に寄与するものと考えられる。