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事例

「地域の基礎データ」整備による協働と参画のまちづくり推進

神戸市 市民参画推進局 参画推進部 市民協働課

 

GIS を活用した地域課題の共有と合意形成への支援

概要

神戸市役所本庁舎1号館
神戸市役所本庁舎 1 号館

神戸市は、古くから港町として発展し、多種多様な文化が融合する国際色豊かな都市である。2016 年に開港 150 周年を迎えた神戸港と、2005 年に開港した神戸空港を併せ持つ国際港湾都市であり、物流の要としての役割を担っている。海と山に囲まれた東西に細長く延びる市街地は、異国情緒あふれる街並みや有馬温泉、灘の酒蔵などの観光名所が数多く存在する観光都市でもあり、2008 年にはアジアの都市で初めて「デザイン都市」としてユネスコに認定されている。
市民協働課は、「協働と参画のまちづくりの推進」を担う部署として、地域活動の推進や地域住民自治組織の活動支援、市民活動の調査・研究など、地域が自立したコミュニティを形成するための様々な業務を行っている。
市民協働課では GIS の技術を活用し、地域住民が地域の実状や課題を共有するための「地域の基礎データ」を作成した。このデータを自治会研修会で紹介したところ、空き家調査や防災マップ作成など、GIS を取り入れた新たな地域活動の検討へ広がりを見せるようになった。

課題

神戸市の地域コミュニティには、自治会、婦人会、老人クラブ、子ども会などの「地縁による団体」と、ふれあいのまちづくり協議会(地域福祉)、防災福祉コミュニティ(防災福祉)、エコタウン(環境問題)などの「施策目的の団体」の 2 種類があり、多くの団体が役割分担と連携を行いながら、さまざまな地域活動に取り組んでいる。しかし、少子高齢化を背景に地域の課題が多様化・複雑化する中、担い手となる若年層の地域活動離れや一部の人への負担集中など、住民同士の助け合い(共助)をこれまでと同じレベルで維持していくことが難しくなってきている。神戸市では、2016 年 3 月に「人口減少社会を見据えた総合的・自律的な地域コミュニティの環境づくり」を目的とした「神戸市地域コミュニティ施策の基本指針」を策定した。
この基本指針は「地域課題の共有と合意形成への支援」を目的とし、GIS を活用したデータ提供、地域コミュニティのカルテづくりが掲げられた。市では、地域住民からの課題を幅広く取り込むため、おおむね 3 年に一度、各団体に対し「地域組織基礎調査(アンケート調査)」を実施している。各団体が回答するためには地域の統計情報を参照する必要があるが、これまで市全体の情報しか公開していなかった。そのため、より小さな単位での地域情報公開が求められた。

ArcGIS 活用の経緯

市民協働課では、地域住民にとって身近な小学校区単位で地域情報を集約・公開することで、地域の魅力や課題を各団体が話し合い、施策を講じる際に活用してもらうことを目的に、「地域の基礎データ」を整備することとした。地域の基礎データの整備には、地域情報を小学校区ごとの区切られたエリアで抽出する必要があることから、GIS の活用が必要であった。
GIS ソフトの選定に際しては、神戸市統合型 GIS(庁内共有システム・市民公開システム)として運用されており、整備するデータの二次的活用が見込まれること、国などが提供するデータのインポートがスムーズであること、解析機能が充実し、効率よくデータを整備できることなどから ArcGIS が採用された。

課題解決手法

1)「 地域の基礎データ」の整備

地域の基礎データは、「統計版」と「マップ版」の 2 種類が整備された。
「統計版」は、国勢調査等のデータを基に、人口、世帯数、高齢化率などの統計データを概ね小学校区(192 地域)ごとにまとめたものである。小学校区ごとのデータ抽出にあたっては、より正確なデータを取得できるように国勢調査等の元データを面積按分するなどして作成した。
「マップ版」は、神戸市都市計画基本図を背景図とし、避難所や病院、バス停など地域の生活に関わる施設等の位置情報をプロットすることで、分かりやすく地域の実状を知ることができるよう工夫されている。

地域の基礎データ【統計版】
地域の基礎データ【統計版】

地域の基礎データ【マップ版】
地域の基礎データ【マップ版】

地域の基礎データは、2017 年 12 月より神戸市のホームページで公開されている。
http://www.city.kobe.lg.jp/ward/activate/participate/localdata/index.html

2) 自治会研修会における GIS の紹介

自治会研修会の風景
自治会研修会の風景

2018 年 2 月に開催された神戸市自治会連絡協議会主催の自治会研修会では、神戸市内の約 60 名の自治会長に対し、整備された地域の基礎データの活用方法に関する講習の実施と、地域活動における GIS の活用事例の紹介などが行われた。地域コミュニティのリーダー・担い手である自治会長が、様々な地域課題・社会問題などについて学び、地域のリーダーとしての意識を高め、地域で GIS を活用することを目的とした研修であった。
市民協働課では、各地域団体が新たな課題の抽出や施策を実行していくうえで、IT を活用することの利便性を知ってもらうとともに学生や地域の若者、ボランティアが IT を活用し、地域活動に参画できる場を提供したいと考えている。

3) 地域コミュニティ・マップ作成事例集

地域コミュニティ・マップ作成事例集 ~GISを活用した地域課題解決~
地域コミュニティ・マップ作成事例集
~GIS を活用した地域課題解決~

市民協働課、ESRIジャパン株式会社の協力のもと、自治会研修会に合わせ、地域活動における GIS の活用事例を「地域コミュニティ・マップ作成事例集」として、神戸市自治会連絡協議会名で作成した。事例集には、防災、防犯、環境、観光など地域の課題解決のために GIS を活用したマップが 10 事例掲載され、自治会研修会で配布された。

効果

「地域の基礎データ」を整備・公開したことにより、自治会等が自らの地域をよりリアルに把握することができ、地域特有の課題の抽出や新たな施策を実施するための情報提供ができた。また、地域に対し、GIS の利便性を説明したことにより、「空き家や空き地の調査・管理に GIS を活用したい」という地域や、「GIS の操作を学習し、地域の防災マップを作成したい」という地域が出てきている。地域の NPO 法人からも、地域の基礎データの活用を検討するための勉強会を開催してほしいとの声もあり、少しずつではあるが、GIS を取り入れた新たな地域活動が検討されている。

今後の展望

現在公開中の「地域の基礎データ」は、自らの地域の情報は良く分かるが、他の地域と比較する際の活用が難しい。また、「地域の基礎データ」を活用して、課題を抽出する地域団体はあるものの、施策を実施した具体的な事例はまだ上がっておらず、活用方法を検討する必要がある、と担当の古林氏は語る。
市民協働課は、地域団体に新たな風を送り込むための「仕掛け」を今後も作り続けていく。

プロフィール


市民参画推進局 参画推進部 市民協働課
古林 友里 氏

神戸市

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掲載日

  • 2019年1月8日