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事例

行政境界を越えた政策立案/人材育成を目指して

愛知大学 三遠南信地域連携研究センター

 

ArcGIS で自治体や地域住民との地域連携を促進

概要

愛知大学 三遠南信(さんえんなんしん)地域連携研究センター(以下、同センター)は、同大学が位置する愛知県東部の東三河地域、静岡県西部の遠州地域、長野県南部の南信地域からなる「三遠南信地域」における越境地域特有の課題を学術的な視点と手法で解き明かすことを目的として 2006 年に設立された。
2011 年には「地域を見つめ、地域を活かす」をキャッチコピーとして愛知大学地域政策学部が設立された。同学部では、問題意識を持ちながら体系的に学べるカリキュラムのコアに GIS 教育を位置づけており、地域の課題を発見・解決する力を養うためのカリキュラムとなっている。
同センターは、自治体や住民と連携した地域政策の研究や越境地域の政策を支援する人材の育成を目指している。同センターの蒋教授は中山間地域における通信事業のコストを ArcGIS で解析し、その結果を政策検討の資料として自治体に提供することで、自治体との連携を行った。教育面に関しては、越境地域の政策を支援する人材の育成として、GIS 教育を通じて地域住民に学びの成果を披露し、学生と地域住民のコミュニケーションを活発化することができた。

課題

日本国内の約 4 割の市町村は県境に接しており、行政境界を跨いだ越境地域では歴史や文化が類似しているが、連携して政策立案を実施できている地域は多くない。
また、近年大学のあり方として自治体や地域住民との連携が求められており、地域と連携した政策の立案には人材育成の視点が欠かせない。そのため、大学として授業やゼミなどの教育活動を通じて地域への貢献が求められていた。
そこで同センターでは設立時に、三遠南信地域の自治体や住民と連携した地域政策の研究や教育への取り組みにおいて GIS の導入を検討していた。

ArcGIS 採用の経緯

GIS 導入にあたっては複数のソフトウェアを検討し、①操作資料が豊富に準備されていること、②充実したユーザーコミュニティが存在すること、が求められた。①に関しては、 Esriジャパンのサポートサイトや米国 Esri社の Web 上に ArcGIS の操作資料が公開されているため、それらを活用することで不明点の解消が可能であった。②に関しては、GIS コミュニティフォーラムや米国の Esriユーザー会など ArcGIS 製品に関するコミュニティが充実しており、導入や使い方に関する相談ができたことが導入の決め手となった。
導入当初は教育機関向けのライセンスを使用していたが、GIS 教育をカリキュラムのコアに位置付けた地域政策学部の設立をきっかけに、2011 年から授業や研究でも利用ができる ArcGIS サイトライセンスを導入した。

地域政策学部の GIS カリキュラムモデル
地域政策学部の GIS カリキュラムモデル

課題解決手法

同センターに所属しているメンバーは、三遠南信地域に関連する様々な研究や教育活動に取り組んでおり、ここでは 2 つの例を紹介する。

中山間地域情報通信整備事業の研究

越境地域が抱える問題の一つに中山間エリアにおける情報通信整備事業のコストがある。蒋教授は、標高 50m 以上の面積が全体の約 8 割を占めている三遠南信地域を対象に情報通信整備事業の研究を進めている。中山間エリアは、整備に多大なコストがかかることから、民間企業の参入は見込めない。そのため、自治体が「公設公営」の情報通信ネットワーク事業を運用し、住民が1人でも住んでいれば、その中山間エリアの住宅まで回線を整備する必要がある。
そこで蒋教授は、通信事業者から提供された愛知県北設楽郡に属する東栄町の回線の CAD データを ArcGIS で GIS データに変換し、人口データや住居データを重ね合わせて回線整備のコストを解析した。東栄町の中山間エリアでは人口規模の小さい集落が広範囲に分布し、情報通信ネットワークの回線コストが非常に高くなっていることを明らかにした。また、人口減少や少子高齢化が進む中山間エリアでは、事業収益の改善が見込めないことも判明した。

東栄町全体の中山間地域情報通信整備事業コスト
東栄町全体の中山間地域情報通信整備事業コスト

まちづくりに関する地理情報の作成

まちづくりに関する地理情報の調査・分析を研究のテーマにしている駒木教授のゼミでは、昔あった店や住んでいる人たちの思い入れのある場所など、過去のまちの姿を記録し、わかりやすい形で地域の方への公開に取り組んでいる。
まずは、学生と共に豊橋市の住民に過去の様子や建物利用の種類などをヒアリングした。ヒアリングの内容を基に、ArcGIS Desktop を使用して豊橋市中心市街地における過去の建物利用状況を再現し、GIS データ化することにより、街区ごとの建物利用の種類を色分けして定量的な分析を行った。

1960 年代の豊橋市中心市街地における建物利用状況
1960 年代の豊橋市中心市街地における建物利用状況

効果

中山間地域情報通信整備事業の研究では、分析結果を関連自治体に共有することで、自治体の事業計画や政策検討のための根拠として活用されるなど、自治体との地域連携を行うことができた。
また、豊橋市中心市街地における過去の建物利用状況をまちづくりイベントで披露した結果、地域住民に興味を持ってもらうことができ、まちのかつての姿を通じて学生と地域住民とのコミュニケーションの活性化につながった。

今後の展望

蒋教授は中山間地域情報通信整備事業以外にも、自動車産業のサプライチェーンや地域災害の研究で ArcGIS を積極的に活用し、さらにビッグデータや AI など最新テクノロジーの連携にも取り組んでいく予定である。
教育面に関しては、2022 年の「地理総合」必修化を見越して、文系総合大学としてこれまで培った経験を活かしながら GIS 教育をより高めていきたいと駒木教授は語った。
同センターでは、自治体や地域住民との地域連携に関して、大学生に限らず自治体職員や高校教員を対象とした人材育成を行いつつ、お互いの立場や目的などを理解し、それぞれのニーズに合った地域連携を進めていく予定である。

プロフィール


三遠南信地域連携研究センター
教授 蒋 湧 氏 (前列、中央)
教授 湯川 治敏 氏 (前列、左)
教授 駒木 伸比古 氏 (後列、中央左)
准教授 飯塚 隆藤 氏 (前列、右)
助教 小川 勇樹 氏 (後列、中央右)
助教 村山 徹 氏 (後列、左)
研究員 鈴木 伴季 氏 (後列、右)

愛知大学 三遠南信地域連携研究センター

関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2019年1月8日