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人口が密集する乾燥地帯の生態系保護へ向けて

 

イスラエルの砂漠における開発による自然への影響調査


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砂漠などの乾燥地帯では人も動植物も生きていくのは難しいと思われがちだが、世界中の乾燥地帯では約 20 億人が生活している。世界の耕作の 44% が乾燥地帯で行われているだけでなく、固有の生態系を持つ、世界的にも重要な地域だ。
イスラエルとその周辺地域は、乾燥地にほぼ完全に覆われており、南下するにつれ乾燥が激しくなる。イスラエル南部の超乾燥地域に属するネゲブ砂漠には多様な動植物が生息し、独特の生態系を育んでいる。


ネゲブの谷(ワジ)。通常、河床は乾燥しているが、降雨後は水を貯え、豊かな植生となり生き物を育む

乾燥地帯への開発圧力

イスラエルは世界で最も人口密度の高い国の 1 つで、急速な人口増加により土地開発の需要が高まっている。現在、住宅地や農業地はイスラエル北部に集中している。しかし、イスラエル南部のネゲブ砂漠は、国内最大の土地資源だ。1948 年のイスラエル建国時、国の繁栄の鍵はネゲブの開発、つまり「砂漠を開花させる」ことであると考えられ、政府は砂漠地帯への移住を奨励した。その結果、ネゲブ砂漠の中心部に位置するハル・ハネゲブでも開発が進められていった。


調査地域のハル・ハネゲブ(星印)。乾燥地帯および超乾燥地帯から成る

住宅開発はハル・ハネゲブの生態系にとって最大の脅威となる。開発に伴う各種インフラの整備や下水などの排出物などにより環境が変化するからだ。人々はまた、外来種の動植物を持ち込み、野生動物を捕食する犬や猫も連れてくる。

30 年間の植生損失

乾燥地では、植生は土壌の変化の影響を受けやすい。ハル・ハネゲブでは今後も住宅開発促進が予測されるため、人々が環境に与える影響を理解することがますます重要になっている。そのため、科学者達はハル・ハネゲブで過去 30 年の植生の変化を調べる研究を実施した。研究の目的は、植生変化の理由、範囲、および要因を明らかにすることだ。

調査には、1987 年から 2016 年の間に収集された Landsat 衛星画像が使用された。各画像について、土壌調整植生指数(SAVI)を使用して、毎年の植生被覆関連の情報を取得した。この情報を分析し、30 年間の植生被覆の変化に関するデータを作成した。次に、植生被覆の変化に対する環境要因および人的要因の影響を評価した。


調査地域には大小さまざまな自然保護区があり、南部の 1 か所を除き 30 年間で植生が増加している

ハル・ハネゲブの植生被覆の変化は、青から赤のスケールで示されている。赤い領域は植生の増加を、青色の領域は植生の減少を示しており、色が濃いほど変化が大きい。
全体的には過去 30 年間で平均植生被覆は減少しているが、1989 年に多数指定された自然保護区(灰色の線で囲まれた地域)のほとんどで植生被覆が大幅に増加している。ハル・ハネゲブ南部の保護区のみ植生が減少しているが、これは規制が緩く放牧が横行しているためと考えられる。


農業集落(上画像の赤い点)および家畜集落(緑の点)を含む人口の多い地域は、植生被覆の変化に大きな影響を与えた。集落近く(集落から 50 – 100m)の植生被覆は時間の経過とともに増加した。これは住居近くで作物が栽培されているためだ。これらの集落から少し離れると、放牧の影響により植生被覆が減少し、これは最大で集落の周囲 6,500m にまで及ぶ。
イスラエル北部の各都市に比べ人口密度が低いにもかかわらず、この地での人々の活動は過去 30 年間で植生の損失を引き起こした。今後もさらなる人口増加が予想されるため、この傾向はより一層強まる可能性がある。植生の損失が続くと、生態系の構造と機能に回復不可能な影響を与える可能性があり、それは生態系が人類にもたらす利益にも影響を与えるのだ。

この調査結果は、人間の活動がネゲブの生態系と野生生物にどのように影響し、これらの影響を最小限に抑えるためにどうすべきかを意思決定者に知らせるために利用できる。この情報を使い、プランナーは地域の将来について効果的な決定を下すことができる。
将来的には、VENµS という、イスラエルとフランスの宇宙機関の共同ミッションとして 2017 年に打ち上げられた、植生監視に特化した人工衛星を使用する予定だ。VENuS は Landsat よりも多くのバンドスペクトル、より高い観測周波数、より優れた地上分解能を備えており、これを使用することで分析精度が向上し、ネゲブの人間と自然の管理に役立つことが期待されている。

 

原文:Protecting Arid Ecosystems in Populated Areas

 

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掲載日

  • 2020年1月20日