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米国連邦政府の保護水域と湿地のモデリング

 

保護水域が縮小した場合の影響を調査

保護水域が縮小した場合の影響を調査

湿地は自然環境の中で重要な役割を果たしている。過去には、その価値をあまり考慮せずに汚水が排水され、埋められていた。今では、湿地には周囲の環境を維持するために不可欠な物理的、化学的および生物学的機能があると知られている。湿地が持つ洪水防御や野生生物の生息地、水質管理などの機能は、人々や地域社会に有益なのだ。

水質浄化法

1972 年に全面改正された水質浄化法(CWA)は、水源への汚染物質の排出を管理する米国の主要な連邦法だ。しかし CWA の下で保護される水域について、過去 40 年間にわたり多くの議論がなされてきた。
2015 年にオバマ政権により策定された「水質浄化ルール(CWR)」は、CWA を厳しく解釈し、保護水域に関係する地下水や湿地も保護の対象と定めた。この規則が採択された後、多数の法的な異議申し立てが行われた。環境規制緩和を目指すトランプ大統領は、2017 年 2 月、米環境保護庁(EPA とアメリカ陸軍工兵司令部(USACE)に対し、CWR を撤回し保護水域を大幅に縮小することを求める大統領令を発した。

新保護水域のモデリング

ミネソタ州のセントメアリーズ大学は、大統領令後に設定される新たな保護水域を予測するべく、GIS を使い、地理的な特徴の異なる 3 か所の集水域をサンプルとして、保護湿地の範囲を比較する空間モデルを開発した。このプロジェクトの目標は、現在の湿地と水域の保護範囲が新たな解釈で狭まることによりどのような影響があるかを予測することだ。

ArcGIS ModelBuilderで作成した CWA管轄シナリオモデル
ArcGIS ModelBuilder で作成した CWA 管轄シナリオモデル

モデリングのシナリオ

各流域について、3 パターンの規制シナリオがモデル化された。

やや規制緩和したシナリオ
保護範囲は涸れ川、および排水溝や農場水路溝に隣接する湿地にまで及ぶ。
かなり規制緩和したシナリオ
恒久的に流れる河川および瀬切れ(河川の一部で水が河床の砂礫内を流れ、表面には流れなくなる状態)河川に隣接する湿地までを保護範囲に含める。
最も規制緩和したシナリオ
保護範囲は恒久的に流れる河川に直接隣接する湿地までとする。

ArcGIS ModelBuilderで作成した CWA管轄シナリオモデル
①ミネソタ州コットンウッド川流域、②コロラド州サウスプラット川源流水域、③ニューメキシコ州シマロン川流域

集計結果

シナリオの規制緩和が大きいほど保護範囲が狭くなり、各集水域で保護対象から外れる湿地の数が増えている。これは瀬切れを起こしやすい流域でより顕著だった。
コットンウッド川の流域で保護対象から外れる湿地の面積は、やや規制緩和したシナリオの場合は 16% だが、最も規制緩和したシナリオの場合は 36% となった。サウスプラット源流水域では、やや規制緩和したシナリオの 3% から最も規制緩和したシナリオの 55% にまで保護対象から外れる湿地面積が増加した。最も顕著な増加が見られたのがシマロン川流域で、やや規制緩和したシナリオの 11% から最も規制緩和したシナリオの 69% まで増加した。

湿地機能への影響

個々の湿地について、4 つの湿地機能(洪水防御、野生生物の生息地、水生生物の生息地、水質改善)をそれぞれ評価した。次に、これらの機能について中程度以上の価値があると評価された湿地に対し、各シナリオがどのように影響するかが計算された。
コットンウッド川流域における最も規制緩和したシナリオでは、水質管理に役立つと評価された湿地面積の 57% が保護から除外された。サウスプラット源流水域では、すべての機能項目において、有用と評価された湿地面積の 40 〜 45% が除外された。特に影響が顕著だったシマロン川流域では、有用と評価された湿地面積の 50% 以上がすべての項目で保護から除外された。
以下の積み上げ棒グラフは、湿地の機能とシナリオごとに保護される湿地の面積(緑)と保護から除外される面積(赤)を示している。

ArcGIS ModelBuilderで作成した CWA管轄シナリオモデル
規制緩和が有用な湿地面積に及ぼす影響の予測

シナリオのマッピング結果

その後、各流域の一部エリアにズームインし、モデリングシナリオごとに保護範囲の変化するさまを確認する動画が作成され、Webページ上で共有された。
動画では、引き続き保護される河川(水色)や湿地(緑)および保護されなくなる湿地(赤)の範囲が、やや規制緩和したシナリオからかなり規制緩和したシナリオ、最も規制緩和したシナリオへと進むにつれて変化するのが見て取れる。

シナリオのマッピング結果
最も規制緩和したシナリオ(右)では、乾季に水が流れなくなる河川、およびそれらに隣接する湿地が保護の対象から外れる

シナリオ・モデルで抽出された空間データの調査を容易にするため、ケーススタディ集水域ごとに Web アプリケーションが開発された。

シナリオのマッピング結果
Web アプリケーションで、各シナリオ上の予測保護範囲や、有用な湿地が受ける影響の程度を確認できる

プロジェクトの結果は、現在の米国大統領府の提案に沿って管轄水域を狭めると、全米の湿地・水域の保護に大きな影響を与えるという予測を支持するものとなった。
半乾燥地域の季節的な湿地や北米のプレーリー地帯に無数にある孤立した湿地、降雨時にのみ流れる細流および隣接する湿地が保護の対象から除外される可能性があるため、リスクはより顕著であると言えよう。

原文:Modeling Federally Protected Waters and Wetlands

【追記】
セントメアリーズ大学による本プロジェクトは、トランプ政権による環境規制緩和方針の影響を予測するべく、2017 年に実施されたものである。EPA は 2018 年 11 月、CWA の解釈の見直しを実施し、保護の対象を「伝統的な航行可能な水域」「同水域の支流」「航行利用されたり潮流の影響を受けるような特定の水路」「特定の湖沼」「これらに隣接する貯水池や湿地」とした。新しい保護範囲は、本プロジェクトの「最も制限的なシナリオ」に近いものになりそうだ。

参考文献:「【アメリカ】EPA、水質浄化法の適用水域を縮小。地下水含めず。オバマ「水質浄化ルール」撤回」

 

掲載種別

関連業種

  • 河川・水資源・砂防
  • 自然環境


掲載日

  • 2019年7月5日

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