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事例

自治体が所有するあらゆる情報を空間情報として管理・可視化し組織の枠を越えて利用

長野県岡谷市

 

地理空間情報が部門の垣根を越える

ArcGIS 自治体サイトライセンスにより GIS 構築・活用をすすめ、縦割り行政の枠を越える可能性を開いた岡谷市の取り組み。

 

岡谷市の概要

岡谷市は、長野県のほぼ中央に位置している。諏訪湖の西岸に面し、西北には塩嶺王城県立公園、東には八ヶ岳連峰、遠くには富士山を望む、湖と四季を彩る山々に囲まれた風光明媚な都市である。明治時代から昭和初期にかけては生糸の都、戦後は精密工業都市として発展し、現在は人口 51,698 ※ 人を擁する「ものづくりのまち」として 21 世紀型技術体系の基盤をなすナノテクノロジーをベースとした「スマートデバイスの世界的供給基地」の形成を目指して歩んでいる。
※平成 24 年 12 月 1 日現在

様々な部署の GIS データを一元管理
様々な部署の GIS データを一元管理

 

GIS 導入から普及まで

岡谷市は、各部署単位で業務特化型 GIS を導入していたが、導入目的、時期が異なり、その可能性や能力を活かしきれていなかった。しかし、平成 18 年 7 月、数名の死者を出した豪雨災害を受け、紙ベースの地図に限界を感じ、水道課で利用していた上下水道遠隔監視システムと台帳システムを見直すことになった。中でも上下水道台帳システムは、汎用性の高さ、分析ツールの豊富さ、高い柔軟性、単体での利用から任意の組み合わせによるシステムの構築まで、自治体職員レベルの知識でこなせると判断し、ArcGIS の採用が決まった。水道課での 運用が成果を上げ始めると、他部署からも要望が寄せられるようになった。そこで、平成 23 年度より ArcGIS のデスク トップ製品やサーバ製品が庁内で無制限に利用できる ArcGIS 自治体サイトライセンスを導入し、土木課、都市計画課での運用がスタートした。

 

データ整備

上下水道用に整備されたデータを元に、各部署で必要な地図の整備を行い、その数は 1 年で 100 を超えた。一部、100% の県費補助を受けて整備したデータもあるが、予算がほとんどなかったため、大半は職員の手により、整備を行った。最小の予算の中で、GIS 各種データを活用し、早期の効果を上げるため、従来とは異なった整備方法を取り入れることを決めた。その方法とは、GIS データ整備とシステム管理を 1 人の職員に任せ、その他の職員は地図の「使用に専念する」というもの。 常識破りとも思えるこの方法の効果は絶大で、整備に選抜された職員は、既存データを次々と掘り起し、その整備量、精度は目を見張るものがあった。そして、他の職員は、この職員が整備した図を組合せ、活用するだけ、そんな環境作りを目指した。

 

普及教育

建築確認申請の管理
建築確認申請の管理

ある程度データ整備ができた段階で、普及教育を開始した。一般的に、GIS 教育は専門用語が多く、受講者の目に、「難解 なシステム」と映ってしまうことがある。そこで、GIS の難しいシステムや画面構成を覚えるのではなく、徹底して GIS を楽しむ方法を追求した。

GIS の機能や操作を一通り学習するのではなく、最低限必要な操作や機能に絞って教えたのだ。具体的には、拡大、縮小、移動の 3 種類のツールのみ説明した。その他は覚えなくてよいと伝え、職員のGIS に対する警戒感を解きほぐした。その後、好きなレイヤの組合せ、レイヤの順番変更と地図の保存を行い、覚えることはこれで全てであると伝えた。わずか 1 時間ほどのトレーニングで、すべての職員が最低限の操作ができるようになり、興味を持った職員は自発的に勉強して積極的に使いこなすようになった。

水道メーターと連携させた空家マップ
水道メーターと連携させた空家マップ

 

 

さらなる活用へ

普及教育が進むにつれ、データベースと連動させる職員、測量データからポリゴンを生成し精度の高いレイヤを作る職員など、様々に工夫をこらし、GIS を活用し始める職員が出始めた。そこで、意欲の高い職員を集め、組織横断型の GIS 研究会を発足し、1 人の職員に一任するのではなく、組織としての地図整備ができる体制を整えていった。元々整備していた、パーソナルデータベースと GIS を結びつける職員も現れ、既存の Access、Excel ファイルと地図が簡単に接続できることから、大幅な入力軽減、一元管理に役立った。また 3D データも活用し、GIS と連動することも可能となった。さらに、オンライン GIS も MXD を作成するだけで、簡単に職員が Web 公開可能となった。これにより整備されたマップは、PC、スマートフォン、タブレットなどデバイスを選ばず利用可能で、端末を見据えた整備も不要である。

 

1 人 1 地図プロジェクト

岡谷市では、「すべての情報が位置情報を持っている」という考えのもとデータ整備を進めており、「1 人 1 地図プロジェクト」と題したデータ作成を行っている。各々の業務に関するデータベースを表形式で作成し、マップ作成のスペシャリストが地図化していくのだ。 データが蓄積できるだけでなく、GIS のデータベースに必要な項目を考える等、職員が GIS の理解を深めるのにも役立っている。「店舗の閉店時間、施設の休館日、ゴミ収集日、コミュニティバスの位置等、細かな情報までデータベース化して住民サービスに役立てたい」と小口氏は語る。

 

今後の展望

現地で撮影した写真を GIS で管理
現地で撮影した写真を GIS で管理

庁内の ArcGIS の利用は、上下水道、土木、都市計画と着実に広がっており、今後は庁内全ての部署で導入される予定である。GIS 研究会メンバーも 30 人程に拡大した。 GIS 導入によってデータ作成や整備にかかる時間を大幅に削減し、これまで多額の費用をかけて外部委託していたものも職員が短期間で作業できるようになった。コストダウンとスピードアップを同時に実現し、さらにデータの二次利用も可能になった。 目下の課題は、Web 公開である。「あらゆ る情報を空間情報として管理、可視化し、組織の枠を越えて使用することを目指しています。そうした動きの中で、縦割り行政が自然と解消されていくのが GIS の大きな強みです。そして、蓄積された情報を市民が自ら選択して利用していくことを目指して います」と小口氏は語ってくれた。 岡谷市は独自の手法で GIS 整備を進め、大きな成果を上げてきた。ArcGIS 自治体サイトライセンス導入にあたっては、予算確保や関係部署の理解を得るまで並々ならぬ努力と苦労があったが、GIS 構築、GIS 活用により、部門の垣根を越える万能薬として期待されている。

 

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掲載日

  • 2013年4月23日