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事例

絵図・古地図を活用し地域の変容を解明。GIS 教育と地域貢献活動

徳島大学 総合科学部 地理学教室

 

貴重な史料を活かして数百年の地域の変容を解明する

徳島大学ではGIS専用ルームを整備してGIS教育に取り組んでいる。
地域の貴重な史料を活用することにより、GISによる地域貢献活動も積極的に進めている。

概要

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図1 GIS教育カリキュラム

徳島大学 総合科学部 地域創生コースおよび大学院 総合科学教育部 地域科学専攻では、GISを援用して地域の課題発見や解決へと導く人材の育成に力を入れている。本教室の第一の特長は、1年次から全ての学年でGISを学べる授業があり、GISの基礎理論から応用分析まで段階的に力を付けることができるカリキュラムにある。特に、実習授業(後述)では、実際の地域問題を題材として、GISを活用した分析を経験する。第二の特長は、全国的にみても歴史的価値の高い絵図や古地図を授業の題材として活用している点である。絵図・古地図の図面には、150年~350年も前の地域の貴重な情報が埋まっている。それを、一つずつ掘り起こして、GISを援用して現代の地理空間と比べた時に、その地域の新たな価値を発見できる。本教室は、そのような新たな価値の発見を発信することによって、地域貢献活動にも取り組んでいる。

 

教育体制

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図2 GIS共同利用室での授業

図1の通り、本教室では全ての学年でGISを活用した授業を履修することが可能である。1年次にはともかくGISに触れてみて、2年次から「空間情報論I」でGISの基礎理論や技術を習得するとともに、実習授業を通じて具体的な地域課題への活用を経験する。3年次には「空間情報論II」でGISの応用分析を学び、4年次に卒業論文に取り組むというカリキュラムである。所定の授業を履修していくことによって、GIS学術士・同専門学術士資格を取得することができる。また、総合科学部にはGISの利用に特化した「GIS共同利用室」(約72㎡)が設置されており、計24台のPCでArcGISを利用することができる。

 

実習授業へのGISの活用

本教室における地理学教育の根幹をなしているのが学部2・3年生対象の実習授業(地域調査法・同演習)である。特定のテーマに基づいて、計画立案から調査、分析、報告書の作成まで、丸一年をかけて一通りの研究の流れを経験する。地理学のみならず社会学や文化人類学の専門教員がローテーションで担当するため、実習テーマは年度によって様々である。GISを活用する実習授業は平井氏と田中氏が担当している。田中氏は主に都市や交通をテーマとしている一方、平井氏は歴史地理学をテーマとして絵図・古地図の分析も行っている。図3右は、実習授業で作成した徳島市近郊集落の1840年頃の土地利用図である。当時に作成された絵図(図3左)をGISで幾何補正したうえで、田畑の区画をポリゴン化して、絵図に記録されている田畑の種類や石高等を属性データに追加した。現地でのフィールドワークも実施して、現代までの約170年を経た土地利用変化を明らかにした。

 

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図3 観音寺集落の土地利用変化の分析(「観音寺村検地絵図」徳島城博物館蔵)

 

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図4 上勝町樫原地区の棚田と学生による下草刈り作業

 

地域課題への取り組み

中山間地域に位置する徳島県上勝町の樫原地区も高齢化が進み、集落周辺部では棚田の林地化(スギ林)や耕作放棄が進んでいる。そこで、ここ数年、地元農家の協力の下、学生たちと耕作放棄地の下草刈りを実施し、現地での作業を通じて景観保全のあり方や地域問題解決にも取り組んでいる。(図4)
図5左は、文化10年(1813)作成の「勝浦郡樫原村分間絵図 控」(上勝町蔵)であり、現在の上勝町樫原地区を描いたものである。図5右は,絵図に記載された家屋や祠、堂宇、道、村界線をベクター化して、2000年撮影の空中写真と重ね合わせたもので、景観調査の基礎資料として利用した。分析の結果、棚田が広がる農村景観は、約200年前から長年維持されてきたことが証明された。その景観の文化的価値が評価されて、平成22年2月に国の文化財「重要文化的景観」(棚田景観)に選定された。

また図6は、10m間隔の標高データをもとに、位置補正した絵図画像データをArcScene上で3D表示したものである。これにより、標高500~700mの急傾斜地に立地する約200年前における棚田景観の空間把握が可能となった。

 

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図5 「勝浦郡樫原村分間絵図 控」と空中写真の重ね合わせ
空中写真は徳島県農山村整備課提供

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図6 「樫原村分間絵図」の三次元表示

今後の展開

中山間地域にお住まいの方からは「ここには何もないから」と謙遜の言葉を聞くことがある。しかし、「そんなことは決してありません」と自信を持って答えることができる。上述の棚田地区は、GISによる絵図解析によって、200年前から景観が維持されていることが証明された。すなわち、住民にとっては「何もない」と思う当たり前の眺めこそが、今の時代に失われた本当の価値ある農村景観であった。このような、見落とされている地域の資源を見出し、新たな付加価値を付して表舞台に導き出すことが、GISで地図・古地図を分析する一つの大きな意義である。今後も、徳島県に残されている貴重な史料とGISを活用して人材育成を進めつつ、地域活性化に貢献していきたい。

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掲載日

  • 2012年1月1日

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