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地理情報と関係者の連携で進んだキー・ブリッジ事故対応

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地理情報と関係者の連携で進んだキー・ブリッジ事故対応

米国沿岸警備隊

技術と連携が支えた米国物流網の復旧劇

2024 年( 令和 6 年)3 月、米国メリーランド州ボルチモアに位置するフランシス・スコット・キー・ブリッジで発生した事故は、米国内外に大きな衝撃を与えた。
橋の崩落により複数の犠牲者が出たほか、インフラが甚大な損傷を受け、主要な水路が封鎖されたことで、米国の物流網に深刻な影響が及んだ。事故発生直後から、米国沿岸警備隊( 以下、USCG )が中心となり、官民合わせて 2,000 人以上が連携して対応にあたった。被害の評価、影響の監視、復旧作業の推進において、各行政機関や民間業者が一丸となって取り組んだ。対応の中核には、ArcGIS Online が据えられ、関係機関間の情報共有と統一的な災害対応が実現できた。GIS の活用により、現場の状況把握や意思決定が迅速かつ的確に行われ、復旧のスピードと精度が大きく向上した。この事例は、技術と連携の力が大規模なインフラ事故対応においていかに重要であるかを示す象徴的な出来事となった。

フランシス・スコット・キー・ブリッジで発生した事故

キー・ブリッジ事故では、橋の崩落による広範囲な損傷と水路の封鎖が発生し、復旧には長期間を要するとの見通しが立てられていた。事故現場は米国東海岸の重要な水上交通の要衝であり、瓦礫が航路を塞ぎ、商業船舶の運航に支障をきたしたため国家規模の物流網に波及する危機であった。
その中で従来の災害対応では、PDF や Excel ファイルやメールによる情報交換が主流であり、リアルタイム性や正確性に欠けていたことが、対応の効率化を妨げる要因となっていた。
さらに、複数の行政機関や民間業者がそれぞれ異なるシステムやデータ形式を使用するため、情報の統合や共有が困難であった。
これらの課題を克服するには、技術的な支援と組織間の連携強化が不可欠であり、従来の手法では限界があった。

USCG は、事故直後から GIS の活用を重視し、ArcGIS HubやArcGIS Dashboards といった地理空間情報プラットフォームを用いて共通状況図( COP )を構築した。これにより、関係機関の情報をリアルタイムで統合・可視化することができ、現場の状況把握と意思決定を支援した。対応の拠点となったボルチモア港のクルーズ船ターミナルには統一指揮所(ICP)が設けられ、多様な形式のファイルと空間データがプラットフォーム上で一元的に管理された。NOAA の航空写真やドローンによる 3D 映像、AIS(船舶自動識別装置)による船舶位置情報、 Spire Global や州のレーダーデータなども統合され、現場の動静を正確に把握できる体制が整えられた。現場は複数のゾーンに分けられ、GIS を使って作業の重複や危険の回避も徹底された。 COP 上では、ダイバーの作業エリアや閉鎖区域が一目で把握でき、関係者全員が常に最新情報を共有できる環境が整備された。さらに、運航再開に向けた計画も ArcGIS Hub で管理され、関係者が閲覧・フィードバックできる仕組みが導入された。編集権限は限定され、安全な水路確保のために水深や障害物のデータが活用された。

共通状況図( COP )

GIS を活用した災害対応により、ボルチモア港の復旧は当初予想よりも大幅に早く進んだ。事故からわずか 1 週間で小型商業船の航行が可能となり、30 日後には主航路が片側通航で再開、76 日目には全航路が完全に復旧した。この成果は、関係機関の連携とプラットフォームの整備によるものであり、従来の災害対応の限界を超える新たなモデルを提示するものとなった。メリーランド州のムーア知事は「11 か月かかると言われていたところ、わずか 11 週間での完了は想像を超える成果だ」と称賛し、USCG 副部長のアダムズ氏も「ArcGIS Online とパートナーコラボレーション機能は、計画と調整に大きな役割を果たした」と述べている。GIS による情報の一元管理とリアルタイム共有は、現場の安全確保、作業効率の向上、迅速な意思決定に大きく貢献した。また、関係者間の信頼と協力関係を強化する効果もあり、今後の災害対応における標準モデルとしての可能性を示した。

今回のキー・ブリッジ事故対応は、GIS の有効活用と関係機関の連携体制の強化がもたらした成功事例であり、今後の災害対応の新たな標準となる可能性がある。従来の USB メモリーやメール添付による情報共有ではなく、リアルタイムで接続・共有することで、対応の迅速性と効率性が大幅に向上する。
このような連携体制は他の政府機関でも注目されており、自然災害などの発災時の対応力強化が期待されている。特に FEMA(連邦緊急事態管理庁)などは、ハリケーン後の復旧作業において同様のアプローチを採用する可能性がある。 したがって、地理空間データを基盤とした協調的な災害対応手法は、今後広く普及し、効果的な危機管理体制の構築を力強く後押しするものとなるだろう。

掲載日

2026年1月15日