屋外環境の複雑な風の涜れを把握するため、GIS上で流体シミュレーションを可能とするAirflow Analystを開発した。ケーススタディを通じて、GISと風解析モデルの組み合わせが様々な分野で有用であることが分かった。
図1 Airflow Analystの構成
図2 ドーム周辺の地表面付近の風速
図3 強風で傾斜する樹木
Airflow Analyst(以下、AFA)は、建物や地形などのGISデータを用いて、屋外の風の動きをシミュレートできるArcGISのエクステンションソフトウェアである。ArcGISを用いて計算に必要な「格子作成」、「計算」、「結果の可視化」からなる一連のプロセスを簡単に実施することが可能。
GISデータとしては、建物等のポリゴンデータや地形のメッシュデータやTINデータなどをそのまま用いることができるため、既存GISデータを用いて効率的に計算準備作業が行える。計算時のパラメータ設定等も直感的なGUIで行い、計算結果を2Dや3Dで地図上に可視化することができる。ArcMapで風の動きのアニメション作成も可能。
実際の市街地として福岡ドーム周辺の強風の発生状況を予測した。当地点は海からの風が強く頻度も高いことから、北北西の風を設定した。ホテル(高層の建物)周辺に強風ゾーンが発生していることがわかる(図2)。現地の樹木は風で斜めに立っていることから強風の状況がうかがえる(図3)。
建物の周辺には複雑な渦が生成されるため、市街地の風の動きを感覚的に想像することは困難である。図4には地上面付近で空気と同じ比重のガスを3地点から放出した際、一定時間後にどのように拡散するかについて予測結果を示している。
このように放出地点が数十m異なるだけで、ガスの濃度や拡散範囲は大きく異なる。従来の簡易な拡散モデルでは困難であった市街地の非定常な拡散予測をアニメーションとして可視化し、臭気対策や毒性のガス流出時の避難誘導等に利用できる。
ここでは複雑地形を流れる風況を予測することで、2004年11月米国カリフォルニア州で甚大な被害をもたらしたエスペランザ山火事について検討した。このとき、地図中の出火地点から燃え広がった火が、強風により瞬時に燃え広がり、山中の消防署を飲み込み6人の消防士が命を落とすという惨事につながった。
AFAで実施した煙や火の粉の拡散予測結果を見ると、煙が谷地形に沿って短時間のうちに消防署まで到達していることが分かる。このような予測結果の活用によって、事前の延焼対策や、消防活動時の隊員指示がより的確に行えるようになる。
近年、マンション等の屋上に小型風車を設置し、風力発電を行う事例が見られる。市街地では、周辺の建物の形状によって影響を受けた風が、屋上でどのように分布しているかを把握し、風車を最適に配置することが効率的な発電において重要となる。
AFAを用いて、ヒートアイランド予測・花粉飛散予測・台風時の被害予測など、今後も多岐にわたる事例を通じて有用性の検証を行う予定。また、使い勝手の改良や機能の拡張を継続し、2008年にはパッケージソフトウェアとしての販売を計画している。AFAの風の計算にはLESと呼ばれる最新の計算モデルを組み込んだ非定常・非線形のシミュレータ一、RIAM-COMPACTを使用している。当ソフトは九州大学応用力学研究所にて長年の改良と検証を経て、株式会社リアムコンパクト社にて実用化されている。
精度検証結果などのリソースは (http://www.riamcompact.com/cfd/) で参照可能。