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事例

時空間3次元地図-疾病と犯罪の時空間集積の可視化-

立命館大学

 

地表面からの高さを表現するだけでない3D GISの新たな可能性

ArcGIS 3D Analystエクステンションを利用して、疾病と犯罪の時空間集積を3次元に表現する。

疾病と犯罪のマッピング

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図1 疾病地図分析の例:ArcGISによるSnowのコレラマップ

疾病や健康水準の地理的な分析を解析する空間疫学は、GISの普及とともに広く利用されるようになった。古くから、疾病に罹患した患者の分布図を描くと、患者が集積する場所が見出され、これを通して疾病のリスク要因が明らかにされてきた。図1は古典的な疾病地図の事例をArcGISを用いて再分析したものである(中谷,2008)。

同様に、犯罪分析でもGISは広く利用されており、ひったくりなどの犯罪発生地の分布図から、犯罪の集中する区域<ホットスポット>を明らかにし、対策を検討する試みが盛んに行われている。

このような犯罪や疾病情報のマッピングには、
1)記録されている単位ごとにデータを地図表現する分布図表現、に始まり
2)連続面に変換するカーネル密度推計のようなデータ変換による表現
3)ローカルな空間統計量を計算して、統計学的な集積の検出結果を図示する表現

といった3つのアプローチが知られている。これらの手法は、2次元の地
理情報を扱う一般的なGISと親和性が高く、ArcGISにも多くの機能が実装されている。

時空間のマッピング

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図2 ひったくり犯罪の時空間集積の三次元表現例

しかし、犯罪や疾病の流行には、時空間的な推移のパターンがみられるにもかかわらず、地図lこは時間の次元が考慮、されていない。時間次元を考慮した分析へと、これまでの方法を拡張する最も簡単な方法は、異なる時点の地図を比較することである。だが、時空間的な集積と持続時間を理解する上で、どのように時間断面を設定すべきかが、事前に明らかでないという問題がある。

この問題点を解決する方法として、水平方向の2軸を地理座標、垂直方向の軸を時間座標とした3次元空間「時空間キューブ」に、犯罪や疾病の発生情報を描くことが考えられる。ただし、3次元の点分布図からは、視覚的に有用なパターンの判読は難しい。

そこで、時空間スキャン統計量を計算し、統計的に有意な多発が認められる時空間領域を視覚化することが考えられる。時空間スキャン統計量とは、2次元の分布データについて、サイズが可変的な円領域の窓で対象地域全体をスキャンし、有意な空間的集積を認めうる円領域を空間クラスターとして検出する空間スキャン統計量を、時空聞における円筒領域に拡張したものである。

この方法に基づいて、有意に高密度なひったくり犯罪発生が認められる領域を、ArcSceneを利用して、3次元の時空間キューブ上に表現したのが図2である。

ひったくり犯罪地点の時空間集積を3次元で表現することで、どの場所で、どの時期に、ひったくり犯罪が多発していたのかが明確に、理解できるようになる。

時空間3次元カーネル密度

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図3 時空間3次元カーネル密度の表示

時空間集積を可視化するより直接的な方法として、2次元のカーネル密度変換を時空間の3次元変換へと拡張する方法が考えられる。つまり、時空間の密度分布の推計である。この場合、3次元カーネル密度推計の結果を視覚化するものとして、ボリュームレンダリングを利用できる。ボリュームレンダリングとは、密度の低い空間の色の透過を強めることで、3次元空間内の密度分布を視覚的に表現する方法であり、CT画像などの医療画像の解析に多用されている。

図3(左)は、1928~29年の京都における腸チフス患者の居住地について、3次元カーネル密度を推計した結果を、ボリュームレンダリングを利用して視覚化したものである。青→黄→赤の順で、腸チフスの発生密度が高くなっている。

ArcSceneを利用することで、このような表現も実現できる。ボリュームレンダリングの表現自体は、他の可視化パッケージでも行うことができるが、ArcSceneを用いて、3次元的な表現を行うことの利点としては、3次元オーバーレイを簡単に行うことがでさることにある(図3(右))。時空間スキャン統計量により有意と検出された円筒領域、ボリュームレンダリングを通して視覚化した3次元カーネル密度分布、それぞれを3次元上でオーバーレイすることで、相互の対応関係をよく理解できる。この作業により、これまで提案されてきた時空間統計の技法との整合性や妥当性を確認しつつ、疾病や犯罪の拡散・転移といった時空間的な現象の探索的な解析が可能となる。

今後の展開

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作業の様子

3D GISは、建物や地形の高さの精微な情報を表現できるようになり、バーチャル・リアリティと結びつき、効果的な情報の伝達の手段として普及しつつあるが、本事例のような時空間という3次元空間での空間分析は未発達な分野である。

3Dカーネル密度の表示などを3D Analystで、実現しようとした場合、現状では残念ながら簡単にはいかず、ひと工夫が必要になっている。今後は、時空間的な3次元空間分析を、汎用的に行うことができるようなツールを開発していく予定である。

プロフィール


中谷友樹 准教授



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掲載日

  • 2009年1月1日