京都府警察では、効果的な犯罪抑止施策の充実と強化を目的として犯罪情勢分析システムへのGIS導入を決定した
京都府は人口約260万人、面積約4,600平方キロメートルで、日本のほぼ中央部に南北に細長く位置している。その中で京都府警察は府内に28の警察署と、294の交番・駐在所を持ち、約6,900名の職員が地域の安全を守るべく、日々の活動を行っている。京都府の刑法犯罪認知件数は全国で10番目の多さ(人口10万人当たりの発生率は8番目)である(2004年)。
治安情勢が厳しさを増す中、京都府警察は2002年に全国初となる犯罪情勢分析室を設置し、効果的な犯罪抑止施策の充実と強化を目的とした犯罪情勢分析システムの構築に乗り出した。このシステムは、情報の収集・蓄積~分析~提供といった一連の流れを考慮したもので、現場警察官がデータベースに入力する日々の被害発生データを集計・分析し、得られた分析結果をイントラネットやホームページなど様々な形で内外へ提供するものである。
現在は刑法犯罪全体の中で約60%の割合を占めている強盗・ひったくりなどの街頭犯罪、そして空き巣などの侵入犯罪を犯罪分析の主な対象としている。これらの犯罪には地域性が大きく関係しているため、システムは地理的な要素を重要視している。
データベースに入力される被害発生データには全て地理座標が結び付けられ、分析に生かされる仕組みとなっている。地図上にプロットされた情報からは、これまでよりも多くの事項が見えるようになる。より高度で即時性の高い犯罪情勢の分析を目指し、GISの導入が決定した。
犯罪情勢分析室における活用の様子
犯罪情勢分析室では、現場警察官により入力された被害発生データに含まれる位置情報を基に、ArcGIS Desktopを基本とするソフトウェアを使用して犯罪発生箇所を地図上で簡便に把握・分析できるようになった。
犯罪情勢分析室では、前日までにデータベースへ登録された情報から地域や時間、犯罪種別などを任意に設定し、地図上における密度分布や統計分析を行うことで、効果的な警戒配置や、特定の犯罪における地域的な傾向分析などを現場に提供できるようになった。分析業務は日々継続され、そこで得られた結果はイントラネットを通じて各署の現場警察官へ提供されている。
京都府内全域における犯罪情勢をよりわかりやすく把握するための内部資料や、地域住民への情報公開の手段としてもGISによる犯罪情勢分析は活用されている。
犯罪情勢分析室では「地域犯罪マップ」という名称の外部公開向け防犯資料を整備している。ひったくり、自動車盗、部品ねらい・車上ねらい、オートバイ盗、空き巣、忍込み、子ども安全情報といった犯罪種別ごとに、行政区単位の犯罪密度分析結果が地図化された資料となっている。
<a
class=”colorbox-image” href=”/cgi-bin/wp/wp-content/uploads/2006/01/kyotopolice-4.jpg”>
南区オートバイ盗発生状況(左) 南区空き巣発生状況(右)
資料は京都府警察のホームページ上で公開されており、誰でも簡単にアクセスできるよう整備されている。また、地元新聞やテレビ、雑誌媒体などメディア向けの防犯記事や、地下鉄の駅構内に張り出されるポスター資料の作成にも地域犯罪マップは利用されている。特に、地元紙では「犯罪注意報」という防犯記事が定期的に連載されている。
GISを活用した情報発信は、文章だけでは分かりにくい身近な犯罪の発生状況がよく分かると、地域の住民からも好評を得ており、行政広報誌や民間情報誌、また研究機関からデータ提供の依頼があるなど反響は大きい。
犯罪情勢分析にGISを導入することで、次の4点を効率的・効果的に実行できるようになった。
侵入犯罪発生状況(1995~2004)
GISによる犯罪情勢分析は2003年から始められ、内部向け・外部向けそれぞれに情報を発信し続けている。犯罪情勢分析は犯罪の発生・検挙にも確実に効果をあげており、特に侵入犯罪の発生にいたっては、22%もの低減効果が認められた。
現在、現場の警察官が必要に応じて基本的な分析を実行できるような形でシステムの拡充が進んでいる。今後もシステム面では現場のニーズ把握と関係部門との連携をより強化した方向での拡充が進んでいくだろう。また、分析面では既知の犯罪情報に基づいた犯罪抑止から、地理的・統計的・臨床的なプロファイリングを複合させた犯罪予測への展開が考えられている。