課題
導入効果
岐阜市は、木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)が流れる濃尾平野の北端に位置しており、古来から風水害が多く発生する地域である。1947 年(昭和 22 年)に災害救助法が施行された後、当該法の適用を受けた災害が既に 7 度も発生している。さらに、近年の異常気象により局地的豪雨が発生し、支流河川の溢水等による浸水被害が発生している。このため、岐阜市都市防災部都市防災政策課(以下、都市防災政策課)では、「災害に強いまちづくりの実現」を目標として掲げ、大規模災害に備えた防災体制の充実強化と、地域防災力の強化、そして実効性の高い防災意識・知識の普及啓発に取り組んでいる。
普段災害リスクを意識していない市民にも防災意識を高めてもらうため、2023 年 (令和 5 年)には ArcGIS で構築した「岐阜市 3D 洪水ハザードマップ」を一般公開した。
岐阜市では、これまでハザードマップを紙媒体による全戸配布、2D の Web マップでの公開や PDF 形式にて情報提供を行ってきたが、浸水の程度が色により表現されているだけで、視覚的に危機感やリスクが伝わりづらいという課題があった。
そこで今回、3D 都市モデルのデータを活用し、ハザードマップを 3D 化することで、身近な建物の高さを参考にして視覚的に浸水深を表現し、危機感やリスクが伝わりづらい課題への解決の糸口を見出した。
3D ハザードマップを作成するにあたり、最も重要視したのは操作感であった。
既に公開されていた国土交通省 荒川下流河川事務所が 3D シーンで作成した 3D 洪水ハザードマップ(ArcGIS 事例集 Vol.18 参照)を実際に体感してみたところ問題なく操作でき、また市民に分かりやすいと思ってもらえるイメージが持てた。
加えて、ランニングコストを含めた費用面でも参考見積の段階で想定していた費用よりも抑えられることが分かり、ArcGIS の採用に至った。
3D 洪水ハザードマップの開発当初、搭載したい各河川の想定最大浸水深データが膨大である中で操作性を維持しながら、浸水深を分かりやすく表現する必要があった。検討を行った結果、広域表示では浸水深ランクを表示させ、拡大すると個別値を表示させるなど縮尺に応じて表示するレイヤーを変える工夫を施すことで、浸水深を分かりやすく表現した。
市民が自分にとって馴染みのある風景と照らし合わせることができるように市内の代表的な橋梁などを 3D モデルで表現した。また、多くの市民に利用される公共施設を中心に 10 地点を選定し、そこで堤防が決壊した後に浸水する範囲や深さがどう変化するかを時間経過とともに描いた動画を作成し、平時において実感しにくい水害時の被害状況を分かりやすく確認できるようにした。
加えて、2021 年(令和 3 年)から配信している「岐阜市総合防災安心読本アプリ」に配置されたアイコンをクリックしてスマホアプリからいつでもどこでも 3D ハザードマップを確認できるようにし、利便性を高めた。
3D 洪水ハザードマップを一般公開し、防災啓発イベントや防災をテーマにした「出前講座」のほか、地域における防災訓練で紹介した際には、市民から「立体的で見やすい」「浸水の実態も分かりやすい」などの評価を得ている。
また、TV、新聞、ニュースサイトなどのメディアにも取り上げられたことで、今回の取り組みや有効性が広く認知され、台風や豪雨などの自然災害が発生する前後では、本サイトへのアクセス数が大幅にアップするなど、市民が災害を「自分ごと」として捉えて防災行動を行おうとしていることを実感できた。
今回の 3D 洪水ハザードマップの公開によって、地域ごとに異なるリスクを確認し、市民に適切な避難方法を考えてもらう良い機会になった。
同市は、市民に更に広く活用してもらえるように今後も視覚的に分かりやすい 3D の強みを活かした継続的な周知活動と災害意識の向上に努めていきたいと考えている。
また、3D 洪水ハザードマップを教材にした教育場面での活用なども検討しており、
「災害に強いまちづくりの実現」に向けて活動を進めていく。
岐阜市役所