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東京:高度な分析で世界最大級の都市を再創造する

東京スマートシティスタジオ (ジョージア工科大学)

 

世界最大の都市・東京では、都市計画はやっかいなものである。首都圏では、世界人口の 200 人に 1 人が米国コネチカット州(約 14,300 km2) ほどの面積に詰め込まれているような人口密度であるため、1 つの地域を変えるだけで、都市全体に甚大な影響を及ぼす可能性がある。
数百万人を地域に誘致するような変化をもたらすには、地理空間的な思考とスマートシティ計画を巧みに活用することが必要だ。

疾走する弾丸よりも速く

東京の大きなビジネス街の一つである品川エリアには、2017 年に新しい駅が開場した。また、中心部の品川駅は、時速約 500km に達するリニアモーターカーの出発点となる予定である。2027 年頃の第 1 期開通時には、日本の第 4 の都市である名古屋に乗り入れる予定であり、その数年後には、日本第 3 の都市である大阪まで路線が延びる予定だ。
リニアモーターカーに乗車し品川から大阪まで移動する場合の所要時間は、新幹線の所要時間の半分となる 1 時間強だ。ジョージア工科大学のペリー・ヤン教授(都市・地域計画、建築学)は、人口 7,000 万人の地域に 70 分の旅を提供する、品川駅を「70-70 ゲートウェイ」と呼ぶ。
リニアモーターカーは、7,000 万人の人々の距離を縮めることになる。この 7,000 万人にとって、リニアモーターカーは空間と時間の概念を短縮し、かつ都市の形態、機能、経験に大きな影響を及ぼすとヤン氏は予測している。ただでさえ速い新幹線の旅をさらに速くする新しい列車がもたらすこのようなあらゆる変化に加えて、この列車が都市環境に与える影響をどのように予測し、計画すれば良いだろうか。

生きたテストベッド

ヤン氏は、地理情報システム(GIS)ソフトウェアを使用して、場所と関連するシナリオを視覚化し分析する、データ駆動型のアプローチを取ることが重要であると述べている。
ヤン氏は、東京スマートシティスタジオの本部であるジョージア工科大学のエコ・アーバンラボのディレクターを務めている。このプロジェクトは、東京大学工学部都市工学科の村山顕人氏、慶應義塾大学の山形与志樹氏、そしてつくばにあるグローバル・カーボン・プロジェクトのオフィスと共同で運営されている。
このスタジオには、建築、都市デザイン、GIS、都市・地域計画の分野で上級学位の取得を目指すジョージア工科大学の学生たちが参加している。毎年、彼らは GIS を使用してスマートシティのコンセプトを探求し、とりあげた東京の都市圏の一部についての計画案を作成している。

2020 年に東京スマートシティスタジオは、リニアモーターカーの新駅周辺の検討を開始した。新しい駅は、品川の東地区に 1 日 100 万人以上の人を引き寄せると予想される。
この新しい人の流入に伴い、より多くの小売店や住宅、ホテル、公園、歩行者天国が必要になり、加えて都市サービスの向上も必須になる。また、羽田空港や品川駅周辺の交通量も増加し、道路への負担も大きくなる。
東京スマートシティスタジオの学生は、2040 年までにこの地区をカーボンニュートラルにすることに重点を置いた上で、一般的な計画とデザインの枠組みを作ることが期待されていた。その中で GIS は、さまざまなアイディアをモデル化し、最終的な提案を提示することを可能にした。

プレースメーカー

東京スマートシティスタジオの学際的な性質は、都市デザインの新しい分野に対するヤン氏のアプローチを反映している。都市計画と建築の方法論を組み合わせ、都市デザイナーは都市に対してシステム工学的なアプローチをとる。
この考え方では、常に変化する人の流れによって構成されるダイナミックな有機体のようなものが都市であるとし、この一帯の流れをGISを使ってモデリングしている。キーコンセプトはプレイスメイキング、つまり、ある空間に住む人々がどのようにその空間を利用するかを詳細に観察・分析した上で意思決定を行うことだ。 すべての画像は、東京スマートシティスタジオ 2017-2021、ジョージア工科大学都市・地域計画学部、建築学部、東京大学都市工学部より提供されている。 多くの都市デザイナーにとって、プレースメーキング、場所づくりには、大量の適切な地理情報を綿密に読み取るジオデザインの枠組みが含まれる。彼らは IoT に接続されたスマートテクノロジーを使って都市の流れに関するデータを収集し、GIS ベースの都市環境のデジタルツインを使ってこれらの流れをモデル化、分析、可視化している。
「我々の都市を理解する方法は、これまでの伝統的なアプローチとは大きく異なります 」とヤン氏は述べる。従来の建築家は、目の前の風景という文脈の中でしかプロジェクトを見ていなかったが、GIS のようなコンピューティングツールを使えば、データや情報を体系的に理解する能力が高まるとも説明した。

都市の周縁に誕生した新しい都市

何がスマートシティをよりスマートにするかについては、さまざまな解釈が可能である。ヤン氏は、都市設計の観点から、2 つの基本モデルを考える。

1 つは、スマートテクノロジーを都市環境に直接埋め込むというものだ。IoT に接続されたセンサーがリアルタイムで流れを計測することで、住民のニーズに合わせて都市を変化させることができる。もうひとつは、データ、分析、GIS などを使って、将来の変化を予測し、それに応じた計画を立てるというものだ。

2016 年に行われた東京スマートシティの初回プロジェクトでは、東京都心から電車で 45 分の場所にある街、浦和美園を舞台に、前者の手法が取り組まれている。浦和美園は、2020 年夏季オリンピックの開催地に選ばれたサッカースタジアムを擁する地域である。
浦和美園は、将来の発展を見据え、スタジアム周辺の 3 平方キロメートルをスマートテクノロジーのパイロットゾーンに指定した。また埼玉県庁をはじめとする産官学の連携により、「UDCMi(Urban Design Center of Misono)」を設立した。UDCMi は、住宅、ビル、道路、商店街など、さまざまな場所に IoT センサーのネットワークを構築した。
「ビッグデータ解析と意思決定をいかに民主化するかは、21 世紀のスマートシティが、持続可能で強靭、かつ社会的に包括的な環境を作り出しながら直面する最大の課題の一つ」とヤン氏は述べる。「浦和美園は、エネルギー不足や洪水などのリスクを軽減しながら、モビリティや効率性を高めるアプリケーションのためのデータを活用し、コミュニティ主導のモデルを提供している。」
コミュニティが成長するにつれ、綾瀬川沿いの洪水リスクは高まり、さらに気候変動によって水田や農地、そして地域のお椀のような地形の喪失が強まるだろう。そこで、貯水池での IoT デバイスでは自動洪水警報システムを構成している。

東京スマートシティスタジオは、埼玉県、UDCMi と共同で、この地域のプロジェクトをいくつか提案した。そのひとつが、「シチュエーション・パブリック・スペース」を含んでいる。サッカースタジアム周辺のスペースに設置されたセンサーは、スペースの使われ方をモニターすることができ、そのスペースが駐車場として使われたり、運動場として使われることをモニターしている。また、街路灯をスマート化することで、混雑状況を把握し、必要に応じて照明のオン・オフを切り替えることができる。

高度なアナリティクスで未来のコミュニティを再想像する

浦和美園のアイデアは、未来の IoT のシナリオにとどまらない。学生たちは歩きやすさや新たな交通の手段を促すためのさまざまな方法を考えた。また、建築メタボリズム(構造物の有機的な適応性を重視する戦後の日本の運動)の原理を、街の駅の公共空間で重層的に構成されたシステムにも応用した。しかし、一般的に IoT 関連のアイデアは、品川案よりも浦和美園のプランの方がより顕著だった。

東京スマートシティスタジオのパートナーである東京大学都市工学科の村山顕人教授は、「このような新しいインフラを組み込んだスマートシティは、新規開発か大規模な再開発プロジェクトでしか機能しない」と指摘する。「そのような場合、少人数でゼロからスマートシティを計画・設計し、先進的な技術を導入することが可能だ。このことは既存のコミュニティでは、より難しい。」とも語った。
そのため、品川のプロジェクトでは、スマートシティのコンセプトを慎重に分析することに重点を置いている。リニアモーターカーによって周辺環境がどのように変化し、それが時間とともにどのように変化していくかを把握することは、大変なチャレンジである。都市環境と人口動態を結びつけた非常に複雑な分析のために GIS を用いることがそのチャレンジに含まれる。列車は地域同士を近づけるがしかし、全国と同様に地域の人口は減少している。
「大阪では人口は減少していますが、東京は増えている」と村山氏は言う。「しかし、長期的には人口減少が予測されており、高齢化は大きな問題だ。」



民間企業との連携

今年から 2023 年まで、東京スマートシティスタジオの次のフェーズとして、品川から北に数キロメートル離れた商業地域であり、東京の主要ターミナルである東京駅を擁する日本橋を調査する予定だ。学生たちは、民間デベロッパーが出資する三井不動産 UT 東京研究所の協力を得て、プロジェクトを進める予定だ。ヤン氏はこのようなパートナーシップが将来のプロジェクトのモデルとなってほしいと願っている。
「テクノロジーは、私たちがコミュニティや建築環境をどのように理解し、デザインするかを形成している」とヤン氏は言う。「都市計画や建築を学ぶ学生にとって、気候や社会、都市の課題に対処するための新しいモデルが緊急に必要である。これには、コミュニティをより持続可能で、回復力があり、社会的に包括的なものにするための共同設計プロセスにビッグデータ分析、特に地理的データを、どのように取り入れるかが含まれる」と述べる。

 

この事例は Esri の Blog 記事「Tokyo: Reimagining the World’s Largest City with Advanced Analytics」を参考に翻訳したものです。

 

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掲載日

  • 2022年8月3日