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石垣島(ISG)で GIS!

石垣島ニライキャンパス 石垣市公営塾

 

石垣島の高校生たちが島の魅力の発見や行政の課題解決に GIS を使った多面的なものの見方で挑む

概要

石垣市公営塾
石垣島

沖縄県にある石垣島は人口約 5 万人、その位置は東京から約 2 千キロ、沖縄本島からも南西に約 400 キロ離れたところにある。また、気候はほぼ北回帰線上に位置していることから年平均気温が 24.3 ℃、最寒月である 1 月でさえ平均気温は 18.6 ℃、最少雨月は 7 月で降水量は 130.4 ミリ(注 1)であることからドイツの気候学者ケッペンの気候区分上はシンガポールなどと同じ熱帯雨林(Af)気候区に属している。しかし、八重山地方独自の季節を表す言葉もあり、弱い四季があることから、Af 気候区(注 2)の北限である。日本の南西端の国境に位置し、最西端の与那国島や有人島として最南端の波照間島など 10 の有人島からなる八重山諸島の拠点となっている島でもある。

石垣市が主催する、高校生を対象とした「石垣市公営塾ニライキャンパス」では、石垣島から未来に羽ばたいていく自律型人材の育成を目的としたキャリア学習に軸を置いて学習指導を行っている。大学や専門学校がない石垣島の高校生のほとんどは、卒業を機に島を離れる。島によりよい学びの環境を作り、子どもたちにもっと力を注ぎたい、人間性の豊かさや表現力を育てる人づくりをしていきたい、そのような想いから公営塾が設立された。さまざまな学習スタイルがある中で、2020 年(令和 2 年)7 月より ESRI ジャパンが提供する「小中高教育における GIS 利用支援プログラム」に参加し、プロジェクト型学習にて GIS を取り入れ始めた。

ArcGIS 活用の経緯

2022 年(令和 4 年)から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となる。そのカリキュラムに含まれる GIS についてインターネットで調べていたところ ESRI ジャパンを知り、2019 年(令和元年)12 月に那覇市で開催された「もっと使おう!ArcGIS セミナー 2019」に参加した。そこで、高校での必修化に先んじて公営塾に通う高校生の学習にも役立つのではないかと考え、「小中高教育における GIS 利用支援プログラム」にて ArcGIS を導入することを決めた。

課題

公営塾では、ビーチクリーン活動やクラウドファンディング、生態調査などの実践型プロジェクトを通じて、高校生自らが企画・調査・研究・取材・撮影・編集・プレゼンテーション・資金調達など、将来社会で求められるスキルを体得する「プロジェクト型学習」に重きを置いている。

プロジェクト型学習は、与えられたものではなく、自分たちが本当にやりたいと思うことを企画立案・実行し、その後、分析・検討・再実行するという学習方法である。その流れの中で、時には「本当に必要とされているものなのか」、「自分たちの自己満足に終わっていないか」、「もっと効果的に多くの人たちの役に立つものにするには、どうしたら良いだろうか」、などと立ち止まりながら考えることを大切にしている。GIS でさまざまなデータを複合的に重ね合わせることで、多面的な視野からアプローチする考え方が身に付き、大きな満足を得られるのではないかと考え、より効果的なプロジェクト型学習を進めていくために GIS を活用することにした。

課題解決手法

まず 2020 年に、ESRI ジャパンによるはじめての GIS 勉強会を開催し、高校生たちの考える観光名所について、地図を活用した紹介ページをストーリーマップで構築した。塾生は事前に「短歌を作る」授業で各々紹介したい観光地の短歌を作成していた。それらを、文字と写真だけではなく、石垣島のどこにその観光地があるのかを GIS を用いて、わかりやすく可視化するアプリを構築した。

石垣市公営塾

石垣市公営塾
GIS 石垣島短歌マッププロジェクト

石垣市公営塾
医療機関と高齢者将来推計人口

2021 年(令和 3 年)に改めて ESRI ジャパンによる GIS 勉強会を 2 度実施し、「離島医療プロジェクト」と、「Go!Go!パーク プロジェクト」を行った。

離島医療プロジェクトでは、八重山地域の離島における医療の現状把握に GIS を活用した。各離島の医療従事者にアンケート調査を実施し、利用者数に応じて医療機関のシンボルを変更できるようにした。また、ArcGIS の分析機能を使い、各医療機関から徒歩 20 分圏内でどのくらいの高齢者(65 歳以上)をカバーできているかを確認した。離島によっては1つの医療機関でカバーできていないところが可視化され、課題が浮き彫りとなった。

Go!Go!パーク プロジェクトでは、島内にある公園の状況調査と調査結果の集計に ArcGIS を活用した。

ArcGIS Survey123 で島内の公園を調査し、調査結果を ArcGIS Dashboards で可視化するアプリを構築した。調査をしていく中で、はじめて存在を知った公園があったことや、公園の名称・プレート(看板)がない公園もあることなど、生徒たちにとっては新鮮な発見もあり有意義だった。また、将来推計人口等のデータを重ね合わせ、対象の公園周辺が今後どのような人口分布になるかを把握することで、実際に公園の整備をする石垣市役所の担当部署や地域に訴えかけることができた。

石垣市公営塾
石垣島公園調査ダッシュボード

効果

Go!Go!パーク プロジェクトにおいては、「なぜ公園整備の地域差がでるのか?」「本当にその公園の整備は必要なのか?」「誰に何を訴えたいのか?そのためにはどのような資料を準備すべきか?」など、チームでディスカッションを重ねることで、さまざまな角度から物事を考えることができた。

さらに、2030 年までの今後 10 年で、石垣市の介護需要が約 20% 急増することで公的な介護費用も増加するという課題があり、そのため、かつて島内で盛んにおこなわれたグランドゴルフを多くの公園でできるように整備すれば多くの高齢者たちが元気に生き生きと生活できるのではないかというアイデアも得られた。健康寿命を延ばすことで、かつての長寿沖縄県を取り戻せるのではないかという夢も広がり、GIS を使うことによってとても建設的な話し合いに発展したのである。GIS を使って可視化するという術があることを知り、またアナログな調査だけでは見えてこなかったことが見えるなどの体験をしたことで、多面的に物事を考える癖を付けるきっかけができたのではないかと感じている。

また、全国的にはこのような GIS を利用している高校生がまだ少なく、進学の面接などで強くアピールする材料とすることができた生徒もいた。

今後の展望

外に向けての情報発信はもちろん大事なことだが、公営塾では島内の高校生がまずは島の課題・魅力を発見し、石垣島の住民のために課題を解決したり情報を発信したりしていくことに力を入れていきたい。

そのためのプロジェクト型学習を行う上で、高校生たちが物事を一方向から見るのではなく、多面的に考えるツールとして GIS がとても適している。今後も ESRI ジャパンの協力を得ながら GIS を活用していきたいと考えている。

 

注 1:平均気温、平均降水量は 1981 ~ 2010 年気象庁データより

注 2:Af 気候区の 2 つの条件
   ① 最寒月平均気温が 18 ℃以上(ヤシが生えている)
   ② 最少雨月降水量 60 ミリ以上

 

プロフィール


石垣市公営塾の生徒の皆さん



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資料

掲載日

  • 2022年1月11日