課題
導入効果
沖ノ島
宗像市は北九州市と福岡市の両政令指定都市の中間に位置し、市内を東西に横断するJR 鹿児島本線、国道 3 号および国道 495 号により二大都市への交通アクセスが充実しているため、住宅団地や大学、大型商業施設などが相次いで進出している。
「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群が、ユネスコの世界遺産条約に基づき、世界遺産に登録されたことで知られている(登録日:2017 年(平成 29 年)7 月 12 日)。
同市は 2019 年度(令和元年度)に ArcGIS Desktop および ArcGIS Online を導入し、防災情報発信のプラットフォー ムを構築した。ESRI ジャパンの数回の操作トレーニングを受けた後に、災害時に被害調査を行う現地調査アプリ、および関係者や住民向けに情報公開を行う Web アプリを職員自ら構築した。
ArcGIS は拡張性が高く、さまざまな災害や業務へ展開できるため、高い費用対効果を得ることができた。
ArcGIS 導入前の平成 30 年 7 月豪雨時、市内においても道路冠水や土砂崩れによる通行止めが発生し、庁内や関係機関(市役所、消防署、警察、県土整備事務所等)との対応状況の共有や、市内の被害状況および避難所情報の把握、住民からの多数の問い合わせ対応などに苦慮した。その際、課題として挙がったのは、庁内の各課や関係機関がどういった情報を持っていて、どのような動きをしているのかといった情報が共有できる体制づくりと、住民に避難所の状況など必要な情報を視覚的に分かり易く配信できる仕組みづくりだった。
そのような折、北九州市が主催する近隣の自治体を集めた「GIS 広域勉強会」に 宗像市の担当者が参加し、その際に ESRI ジャパンの製品説明や直方市が災害時に ArcGIS を活用した事例を聞き、宗像市でも利用できるのではないかと考えた。
その後、GIS コミュニティフォーラム in 九州の自治体向けセッションで行われていた ArcGIS Online のハンズオンセミナーに参加した。実際に自ら Web アプリを作成する体験をしたことで、導入・運用イメージを持つことができ、ArcGIS Online の導入に踏み切った。
導入の決め手となった理由の 1 つ、「職員が自ら Web アプリを構築できる」という点だ。すでに GIS は導入されていたが、カスタマイズできる公開型の GIS は導入されていなかった。「公開型のアプリを作成する」「庁内のみの情報共有アプリを作成する」「それらを連携させる」といったように職員のアイデア次第で多様なアプリを構築できると考えた。実際に運用を始めているアプリは、GIS やプログラミング、IT の知識があまりない担当職員でも作成できた。
ArcGIS の採用に至ったもうひとつの要因は価格だ。システムを導入する際、イニシャルコスト、ランニングコストが莫大にかかることから、様々なシステムの紹介を受けるものの、なかなか導入に踏み切れない現状があった。その点、ArcGIS Online は年間 9 万円という低コストで 1 アカウントあれば、アイデア次第でいくらでもアプリを構築することができる。防災業務に限らず全庁的に活用できるもので、費用対効果が優れていると判断した。
ArcGIS Online に付属する現地調査アプリの ArcGIS Survey123 や ArcGIS Dashboards を活用し、災害時の「被害調査~関係者間での情報共有、住民公開」まで一連の流れで利用できる 5 種のアプリを構築した。
① 調査前ポイント入力アプリ
住民から電話等で被害の通報を受け、”誰が” “どこで” “どのような対応をするのか” を地図上に入力するためのアプリ。
② 被害箇所調査アプリ
①の入力情報を基に現場に行き、被害の状況を入力するためのアプリ。その調査結果が災害対策本部ダッシュボードにリアルタイムに反映される。
③ 災害対策本部ダッシュボード
②で入力した被害状況や避難所の状況をリアルタイムに集計・表示するためのアプリ。あらゆる情報を一元的に把握できるため、災害対応関係者間で情報を共有し、迅速かつ的確な意思決定ができる。
④ 災害情報管理アプリ
被害状況や避難所情報を修正・管理し、公開設定を行うためのアプリ。関係機関と住民とで公開する情報を切り分けることができるので、情報公開による混乱を避けることができる。
⑤ 防災情報ダッシュボード
被害状況や避難所情報を住民が確認するためのアプリ。PC だけではなくスマートフォンからでも閲覧可能である。住民はあらゆる情報を一元的に確認ができ、自助ツールとして利用できる。対策本部が精査して情報を公開しているため、不必要な情報は含まれない。
本ダッシュボードは、宗像市防災 HP で公開している。また、2020 年(令和 2 年)9 月に運用を開始した宗像市公式 LINE から「防災情報ダッシュボード」に簡単にアク セスできる仕組みを整備する等、更なる利用の促進に向け本ダッシュボードの周知の強化を図っている。
これらのアプリは 2020 年度から運用を開始した。特に、同年の台風第 10 号の際には、各担当者が共通のマップで状況を確認するだけで、「関係機関と電話でやり取りをせずともダッシュボードで状況の確認を随時行えた」「自分が管理している避難所施設(学校等)の避難者数等の状況がコロナ禍の中、どこからでも確認ができて良かった」などの声が上がっている。
防災分野においては、市内の防災ライブカメラの増設や避難所の Wi-Fi 設置など防災関連の ICT 強化を予定しているため、GIS との連携を念頭におきながら、更なるアプリの作成、改修を行っていきたいと考えている。 また防災企画課では、防災業務以外に、「防犯灯調査アプリ」や「選挙掲示板確認アプリ」など、今回学んだ知識を生かして、他業務で利用できるアプリを作成している。今後は、防災企画課以外の部署でも、職員が自分でアイデアを出し、アプリの作成を行える環境を整備し、庁内の業務効率化、市民サービス向上につながるアプリ作成ができればと考えている。