事例 > 公園行政におけるエビデンスに基づく政策の推進

事例

公園行政におけるエビデンスに基づく政策の推進

北海道札幌市 建設局 みどりの推進部みどりの推進課

 

ArcGIS モデルビルダーによるモデル作成で合理的根拠に基づく公園の機能分担マップ作成を実現

概要

北海道・石狩平野の南西部に位置する札幌市は、人口約 197 万人の政令指定都市である。札幌市では、公園行政が抱えている問題の解決のため、「公園の機能分担」を進めている。しかし、機能分担を実施する公園を選ぶための一律の基準がないという課題があった。そこで、 ArcGIS を用いて機能分担を実施する公園の判定基準の設定及び、設定した基準に基づく公園の選定を行った。

課題

札幌市の公園の数は 2,736 箇所であり、政令指定都市の中で最も多い公園数を有している。また、1,000m² 未満の小さな公園が過半数を占めていることから「小さな公園の密集と公園機能の重複」の問題が生じている。
そこで公園の機能重複の解消のため、札幌市では公園の機能分担を進めている。これは、周辺の複数の公園を一体的に考え、機能をそれぞれの公園で分担するというものである。機能分担を進めることによって、遊具に頼らない整備を実施する公園(機能特化公園)が増え、その結果管理コストが縮減することも期待している。
この機能分担を進めるにあたって、「機能分担を実施する公園をどのように選ぶか」が明確になっていないという課題があった。札幌市緑の審議会での答申(「札幌市公園施設長寿命化計画」の策定に向けた公園施設の基本的な考え方について(答申))では、「1,000m² 以上の面積が大きい公園を核となる公園とし、1,000m² 未満の狭小公園は遊具等を撤去し、機能を絞って整備する」「誘致圏を設定する場合は、河川や幹線道路など生活圏を分断する要素に留意する必要がある」と謳われている。しかし、細部の基準は定まっておらず、合理的根拠に基づき、機能分担を実施する公園を選ぶことが必要とされた。

ArcGIS 採用の理由

機能分担の公園選定にあたり、恣意性を排除した一律の判定基準の設定が求められた。そこで、次の理由により ArcGIS を採用した。
① 自治体職員でも高度な解析機能を利用することが可能
システムの専門家でない自治体職員でも、標準機能の掛け合わせで高度な解析を行うことができる。
② モデルビルダーの利用により短時間で様々な解析が可能
機能分担の判定基準の設定にあたって、妥当性を判断するため基準を比較検討する必要があった。その手法として、ArcGIS のモデルビルダーの利用が最も適していると考えられた。

課題解決手法

機能分担を行う公園選定は、担当職員 3 名によって進めた。まず、判定基準を複数案設定し、設定した判定基準案に基づき ArcGIS を用いた解析を行った。その中から、最も現場感覚を反映していると考えられる判定基準を用いた解析結果をもとに、各公園の現場管理担当者(市内 10 区の土木センター)から意見を聴き、最終的な判定基準(表 1)を設定した。
判定基準の設定にあたっては主に次の点を考慮した。
①配置バランス
機能分担を進めることによって生じる住民サービスの低下(歩いていける範囲(250m 以内)に遊具のある公園がない状態)をなるべく避ける。
②公園の面積と種類
面積が大きい公園の方が複合的な利用ができ、利用者が多い傾向にある。そのため、周囲にある公園の面積を比較しながら、より面積が大きい公園を「核となる公園」、より面積が小さい公園を「機能特化公園」と選定できるようにする。また、公園の種類は、地域の身近な公園としての機能を有する公園に限定する。
これらを考慮したよりよい判定基準を設定するため、表 1 のとおり ArcGIS を用いた比較検討を行った。

図1 ArcGISモデルビルダーによる分析フロー
図1 ArcGIS モデルビルダーによる分析フロー

図2 作成したモデル(一部)
図2 作成したモデル(一部)

林相区分図
表 1 機能分担を実施する公園の判定基準
※1 面積上位(判定する公園よりも面積階級が大きい)公園の誘致圏と重ならない誘致圏
※2 対象公園の誘致圏内に横断歩道、歩道橋、橋、高架、踏切、一時停止がある場合は分断していないものとする

効果

表 1 の判定基準を用いて、核となる公園、機能特化公園の順にループ処理を行う別々のモデルをモデルビルダーにより作成し(図 1,2)、公園の判定を自動で行った。モデルを作成することにより、2,000 箇所以上ある公園の判定を 1 時間程度で終えることが出来るようになった。判定した公園の選定結果を図 3、4に示す。
ArcGIS を利用したことによる利点は、次のとおりである。


図3 機能分担を実施する公園の選定結果
図 3 機能分担を実施する公園の選定結果


図4 機能分担を実施する公園の選定結果と誘致圏(機能特化の分断要素等を反映)
図 4 機能分担を実施する公園の選定結果と誘致圏(機能特化の分断要素等を反映)

今後の展望

GIS は合理的根拠に基づく政策の立案及び推進に欠かせないツールであると考えている。GIS を活用した EBPM(証拠に基づく政策立案)を更に進めるために、組織内の情報の効果的な収集や伝達の仕組みづくりを行っていきたい。

プロフィール


札幌市みどりの推進課 細江 まゆみ 氏

札幌市

関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2019年1月8日