ESRIジャパン株式会社

全社GIS基盤の構築により新幹線施設維持管理業務を高度化

事例

Breadcrumbs

TOP事例全社GIS基盤の構築により新幹線施設維持管理業務を高度化

全社GIS基盤の構築により新幹線施設維持管理業務を高度化

東海旅客鉄道株式会社

新幹線施設の雨季前点検業務におけるリスク把握から情報共有の高度化を実現

  • 多様な鉄道業務を強力に支える統合基盤としての拡張性と情報共有性
  • 多岐にわたる施設情報の一元管理と、点検業務を支援する各種アプリケーションの活用

東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)は鉄道事業を中心に関連事業も展開している。経営理念は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」。近年は労働力人口減少や災害激甚化に対応するため、ICTを活用した効率的な業務体制の構築と、新たな発想による収益拡大に取り組んでいる。
JR東海は全社GIS基盤を開発し、2025年(令和7年)3月に運用を開始した。ArcGIS Enterprise上に共通の鉄道基盤地図データを整備し、業務高度化を図っている。活用が進んでいる業務は、降雨災害を未然に防ぐことを目的として梅雨や台風期を前に新幹線設備の重点箇所を点検・整備する雨季前点検である。

これまでの点検では、設備に関する情報(周辺環境や災害・対策履歴等)が目的毎に紙やデータなどの異なる場所で管理されていたため、現地で必要となる情報を点検者が印刷して現地に持参していた。この点検方法では事前準備に時間と労力がかかっていた。
さらに現場では、野帳記録と写真撮影、帰社後の写真整理と点検結果の入力等の内業に時間を要し、迅速な点検結果の共有や分析に時間を要していた。
地形や用地、構造物との位置関係を示す資料も別々に存在し構造物の立地条件や、過去の災害履歴等を即時に理解しづらい点も課題であった。

雨季前点検の実施状況
雨季前点検の実施状況

技術開発による検証を通じて、ArcGISが地図作成からデータ管理、現地調査、可視化まで一連の機能・アプリケーションが標準で揃い、自由度が高く、ユーザー自身でさまざまな業務に適用できるため、要件が変わった場合でも最小限の個別開発で業務に適用できる点を評価した。
また、世界的に広く利用される実績・信頼性と、組織的な情報共有を円滑にするArcGIS Enterpriseの特性も採用の決め手である。

以下の①~⑤の手法で課題解決を進めた。

①安定運用を支える基盤設計

全社GIS基盤は、JR東海、ジェイアール東海情報システム株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、NTTテクノクロス株式会社、の4社開発体制で構築された。
全社GIS基盤では、ArcGIS Enterprise をクラウド環境上に構築し、社内のセキュリティ基準に適合させた。シングルサインオンと連携して利便性を高め、サーバーの冗長化と定期バックアップで高可用性を確保した。

全社GIS基盤 ポータルサイト
全社GIS基盤 ポータルサイト

②鉄道基盤地図データの整備

新幹線の上り・下りの線路中心線、駅名、キロ程(線路の距離標記)、橋梁や盛土・切土などの構造物名称をGISに登録し、用地情報や線路平面図等の社内資料も重ねて参照できるようにした。
また、現場利用を想定して地図表示を軽量化したタイルレイヤーを整備するなど、使い勝手を第一に設計している。

鉄道基盤地図
鉄道基盤地図

③雨季前点検支援マップの構築

雨季前点検の対象箇所を全線で可視化し、集水地形や土構造物の切盛境界、樹木の伐採・宅地化などの環境変化点、排水溝の位置、過去の被災地点と対策前後の記録をレイヤーとして統合。

そうすることで、担当者は地図上で重点箇所を直感的に把握でき、新任者でも環境状況を地図上で学習できる。

過去の災害発生時に「どこで何が起き、どの対策が講じられたか」を瞬時に確認でき、経験の継承と教育にも効果を発揮している。

東海道新幹線 雨季前点検支援マップ
東海道新幹線 雨季前点検支援マップ

④現地調査アプリによる点検

現地では、地図や設備・過去点検データ等を見ながら同一アプリで入力可能な現地調査アプリArcGIS Field Mapsを主に活用し、iPad上で写真の登録や入力を行っている。

東海道新幹線 雨季前点検支援マップ(ArcGIS Field Maps)
東海道新幹線 雨季前点検支援マップ(ArcGIS Field Maps)

⑤点検結果の集計と共有

ArcGIS Field Maps で収集した点検結果は、ArcGIS Dashboards で閲覧できるようにしている。ポータルサイトのトップからすぐに業務アプリにアクセスできる導線を整備し、ArcGIS Experience Builderの試行も進め、用途別に最適なUIを模索している。

東海道新幹線 雨季前点検ダッシュボード
東海道新幹線 雨季前点検ダッシュボード
東海道新幹線沿線360度マップ
東海道新幹線沿線360度マップ
東海道新幹線沿線 列車後方画像
東海道新幹線沿線 列車後方画像

災害リスクの高い構造物や集水地形などの情報を整備することで、周辺環境や災害履歴を踏まえた点検が可能となり、雨季前点検が高度化された。
また、現場で写真添付と点検入力を同時に行えるため、事務所での再入力が不要となり、報告リードタイムも短縮した。そして地図に蓄積されるナレッジにより、担当替えや新任者への引き継ぎが容易になり、組織の技術継承にも繋がっている。ダッシュボードで本部と現場の合意形成が速まり、重点対策の優先順位も一貫して説明できるようにもなった。
さらに、先述した雨季前点検でのGIS活用の他にも、土木構造物管理や樹木等の沿線状況管理、360度画像の共有、自然災害対応に必要な情報の一元化、各種の調査業務等、さまざまな業務のデータ収集-集計・閲覧・分析に、ArcGISのノーコードWebアプリ、モバイルアプリ等を社員自らで構築・試行・活用することで、柔軟かつ迅速な業務適用と業務の高度化が進んでいる。

現在、JR東海における全社GIS基盤の利用者は約3,000名で、運用開始から1年で共通基盤として定着し、さらに利用拡大が進んでいる。本事例では、活用が先行している新幹線の施設系統における構造物の維持管理業務での活用を紹介したが、他の系統や在来線においても活用が始まっている。また、構造物の維持管理業務以外にも、鉄道事業の業務は多岐にわたるため、会社全体の基盤として、さまざまな業務に適用していきたいと考えている。

【関連記事】
NTTテクノクロス社:全社で共有・利用可能なGIS基盤を開発組織横断的なデータ連携により、鉄道関連業務の高度化を実現

プロフィール

総合企画本部 情報システム部
デジタル変革推進室 副長 梁田 真広 氏(右)
新幹線鉄道事業本部
施設部 工事課      貫名 裕介 氏(左)

掲載日

2026年6月1日