JAXA Virtual Planet:月探査データを誰もが使える形に─ 3D Web GIS が拓く新たな宇宙探査の地平
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 月惑星探査データ解析グループ(JLPEDA)
高精細 3D 可視化と直感的 UI で実現する
次世代の月・惑星データ公開基盤
課題
- 月探査データの公開・活用が限定的で、専門家以外にはアクセスが困難
- 従来システムは 2D 表示や解像度に制限があり、直感的な操作が困難
導入効果
- 3D 表示や高解像度データにより、初心者でも直感的に月面を探索・解析可能に
- 世界中の研究者・学生・企業がデータを活用しやすくなり、国際的な評価・注目を獲得
- 今後の月・火星・小惑星探査など、多様な天体への応用基盤の整備
概要
宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、月探査衛星「かぐや(SELENE)」などのミッションで取得した膨大な科学データを、広く社会に還元するための新たなプラット フォーム「JAXA Virtual Planet」(以下、 VP)」を開発した。従来の「かぐや統合解析用デジタルデータセット作製・配信システム」(以下、KADIAS)は、主に専門家向けであり、2D 表示や操作性に課題があった。近年、月極域探査や着陸地点選定、民間宇宙ビジネスの拡大など、月面データの活用ニーズが急速に高まる中、JAXA は「誰でも使える」「直感的に操作できる」「高解像度・3D 表示が可能」という新しい Web GIS の構築に着手した。
VP は、JAXA の月惑星探査データ解析グループ(以下、JLPEDA)が中心となり、 ArcGIS Enterprise を基盤に開発された。 2025 年(令和 7 年)10 月に一般公開され、国内外の研究者や学生、企業から高い評価を受けている。

課題
従来、JAXA が取得・処理した月探査データは、専門家向けのシステム「KADIAS」を通じて公開されていた。しかし、KADIAS は 2D 表示が中心で、操作には専門知識が必要だったため、一般の研究者や学生、民間企業がデータを活用するには高いハードルがあった。また、極域探査や着陸地点選定など、最新の科学的・産業的ニーズに十分対応できる柔軟性や拡張性も不足していた。特に、月面の詳細な地形や物質分布を 3D で直感的に把握したいという要望が高まる中、既存システムの限界が顕在化していた。
ArcGIS 採用の理由
VP の開発にあたり、JAXA は複数のプラットフォームを検証した。その結果、ArcGIS Enterprise は安定性・機能性・拡張性に優れ、3D 表示や高解像度データのキャッシュ機能など、月探査データの可視化・解析に最適であると判断された。特に、 ArcGIS の分散型コンピューティングや直感的な UI 設計は、初心者から専門家まで幅広いユーザー層のニーズに応えるものであった。JAXA と ESRI ジャパン、開発パートナーとの密な連携により、独自の解析ツールや UI が実装され、従来の KADIAS を大きく超える使い勝手を実現した。
課題解決手法
1. 3D 表示・高解像度データの実現
VP は、月面データを 3D 球体上に表示し、地形や物質分布を直感的に把握できる。従来の 2D 表示では困難だった極域や着陸候補地の詳細な解析も、3D ビューと高解像度データのキャッシュ機能により可能となった。ユーザーは地形断面図やマルチバンド画像、分光データなどをワンクリックで取得できる。
2. 直感的な UI 設計と多様なユーザー対応
VP の UI は、スマートフォンやタブレットでも快適に操作できるよう設計されている。説明書を読まなくても、ボタンやパネルの意味が分かるよう工夫されており、初心者でも迷わず操作が可能だ。Basic 版は閲覧・可視化に特化し、Advanced 版は解析機能を充実させ、研究者や企業の高度なニーズにも対応する。
3. 解析・データダウンロード機能の拡充
VP のラスター解析機能には、任意の数値範囲・カラーランプでの「カラーマップ」、計算式に基づく「ラスター演算」、異なるラスター同士の「RGB 合成」がある。指定領域の画像や点群データ、分光データなどは GeoTIFF 形式やシェープファイル形式でダウンロード可能なため、ユーザーはそのまま自身の環境でさらに詳細な解析ができる。今後は他の探査機(SLIM、LRO、 Chandrayaan-2 など)のデータや論文公開データもレイヤーとして追加予定である。また水素分布やクレーター情報など、最新の科学ニーズに応じた機能追加も進めている。
効果
VP を通して JAXA の月探査データが国内外の研究者・学生・企業に広く活用される将来を見据えている。公開に先立つ国際学会発表では、欧米・アジア圏の研究者から学生まで広く注目を集めた。学生向け教材や民間宇宙ビジネスへの応用も期待されている。特に、極域探査や着陸地点選定、地形・物質分布の解析など、最新の科学・産業ニーズに対応できる基盤が整ったことで、一般市民やメディアからも「月面を 3D で自由に探索できる」「日本発の先端技術」として注目されている。
組織内では、JLPEDA を中心に、リモートワーク環境下でも円滑な開発・運用が進められ、JAXA 全体のデータ解析力・発信力が向上した。


今後の展望
VP は、月探査データの公開・活用を大きく前進させたが、今後は火星や小惑星など他天体への応用も視野に入れている。特に、JAXAのMMX(火星衛星探査)や SLIM(小型月着陸実証機)、はやぶさ 2 拡張ミッションなど、最新の探査データを迅速に公開・解析できる基盤として発展が期待される。また、国際共同研究や教育・市民科学への貢献、民間宇宙ビジネスへの展開など、多様な分野での活用が広がるだろう。JAXA は今後も、日本発の先端技術として VP を進化させ、世界の宇宙探査・科学研究をリードしていく。
今後の展望
VP は、月探査データの公開・活用を大きく前進させたが、今後は火星や小惑星など他天体への応用も視野に入れている。特に、JAXAのMMX(火星衛星探査)や SLIM(小型月着陸実証機)、はやぶさ 2 拡張ミッションなど、最新の探査データを迅速に公開・解析できる基盤として発展が期待される。また、国際共同研究や教育・市民科学への貢献、民間宇宙ビジネスへの展開など、多様な分野での活用が広がるだろう。JAXA は今後も、日本発の先端技術として VP を進化させ、世界の宇宙探査・科学研究をリードしていく。

(Advanced 版限定)
プロフィール

月惑星探査データ解析グループ (JLPEDA)グループ長 佐藤 広幸 氏
研究開発員 逸見 良道 氏
2026年1月19日
