カーボンニュートラル実現に向けた太陽光発電所の候補地評価
東北電力株式会社 株式会社東北開発コンサルタント
ArcGIS Pro を活用した太陽光発電所の候補地評価ツールを開発判断のばらつきを排除し、効率的・客観的な候補地選定を実現
課題
- 太陽光発電所の候補地評価における属人的なプロセス
- 法令遵守や環境配慮など多様な条件を総合的に判断する難しさ
導入効果
- 客観的かつ迅速な候補地評価の実現
- 評価プロセスの標準化・効率化による業務負担軽減
- ステークホルダーへの信頼性向上と説明責任の強化
概要
2050 年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの導入拡大は社会的に要請が高まっている。東北 6 県+新潟県を中心に事業を展開する東北電力グループは、地域社会の脱炭素化に貢献すべく、コーポレート PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)事業を推進している。PPA とは、発電事業者が再生可能エネルギーで発電した電力を、需要家(企業等)に長期的・安定的に供給する仕組みであり、特に外部発電所から供給する形態は「オフサイト型コーポレート PPA」と呼ばれる。
PPA 事業を拡大する上で、太陽光発電所の新規開発候補地を効率的かつ客観的に評価・選定することが大きな課題となっていた。この課題の解決に向け、東北電力株式会社(以下、東北電力)と株式会社東北開発コンサルタント(以下、東北開発コンサルタント)は、ArcGIS Pro を活用した太陽光発電所の候補地評価ツールを開発した。これにより多種多様な空間データを統合し、効率的かつ客観的な候補地評価を実現した。

課題
太陽光発電所の適切な新規開発候補地を選定するには、自然保護、法令・規制、自然災害リスク、土地利用状況、周辺環境への配慮など、多岐にわたる制約や条件を総合的に評価する必要がある。従来の手法においては、評価する担当者が、省庁や研究機関、自治体などが公開している各種地図やポータルサイトを個別に参照し、現地調査も行いながら候補地の判定を行っていた。しかし、このプロセスでは属人的な要素が多く時間がかかり、評価する基準にもばらつきが生じていた。
また、候補地の選定においては、法令遵守や環境負荷低減といった社会的責任も大きく、判定を行うには高度な専門知識と経験が求められ、評価プロセスの複雑化が進んでいた。
ArcGIS 活用の経緯
このような課題に対し、東北電力と東北開発コンサルタントは、太陽光発電施設の候補地の評価業務を効率化するツールの開発に取り組んだ。東北開発コンサルタントは、以前より調査業務で ArcGIS Pro を活用してきた経験を踏まえ、ArcGIS でのツール開発を検討した。
候補地評価で使用するデータは種類が多く、かつ広範囲をカバーする必要がある。ArcGIS は、取り込み可能なデータ形式が幅広く、広範囲なエリアでも操作がスムーズに行える点が評価された。さらに、 ArcGIS に備わる自動処理機能により、多地点の評価処理を効率的に実行し、評価結果をレポート化する機能も充実している。また、ArcGIS Pro の操作や仕様で疑問があれば、技術情報が豊富に揃っているため、自身で調べて解決できることも多い。 一連の GIS データの取り扱いや、自動化のジオプロセシングツール、Python の開発においては、ArcGIS を用いた地域環境評価に長けている株式会社環境 GIS 研究所の支援を得られた。
課題解決手法
・多様な GIS データの整備と統合
まず、東北 6 県+新潟県をはじめとした、土地利用、法令・規制、自然環境、災害リスク、地形・地盤など、全 36 種類のオープンデータや独自データの収集・整備にとりかかった。これらのデータを ArcGIS Pro に取り込み、候補地ごとに必要な情報を自動抽出できる仕組みを構築した。

・評価基準による候補地判定
次に、太陽光発電所の開発に適さない条件(ノックアウトファクター)を独自に設計した。法令による規制区域や災害リスクの高いエリアなど、実態として開発が困難なシナリオを想定し、地図上で候補地を分類・可視化した。評価項目は傾斜角や土地利用、災害リスクなど多岐にわたり、判定結果を色分けしたラスターデータとして作成した。

・評価結果レポートの自動生成
候補地はポリゴンレイヤーとして ArcGIS 上で一元管理され、各候補地の評価結果や地形的・社会的特徴を自動的に帳票(カルテ)としてアウトプットするツールも開発した。この帳票機能により、複数の候補地に対して、一度の操作で連続的にレポートを生成できる。レポート出力は、当初 ArcGIS Pro のマップシリーズ機能を用いて出力していたが、関係者が見やすい HTML での出力に改良された。これにより、評価作業の効率化と標準化が図られた。

効果
本ツールの導入により、太陽光発電所の候補地評価が客観的かつ迅速に行えるようになった。評価項目を条件ごとに定量化できるようになり約 600 の候補地点の評価が 4 時間程度で完了した。従来の手法で 600 地点の評価を行う場合、約 3 か月かかる試算になるため、まさに業務の DX 化が実現できた。新たに確保できた時間を活用し、一部項目で良判定とならなかった候補地に対して改善アドバイスを行うなど、新たな付加価値を生み出すことにつながった。さらに、評価プロセスの標準化により、属人的な判断や個人差が排除され、組織全体で一貫した基準による候補地選定を実現した。
また、地図付きの評価結果レポートにより、発電事業者に対して、評価根拠を明確に説明できるようになった。これにより、合意形成の円滑化にも寄与している。
今後の展望
今後は、評価項目の追加や対象地域の拡大など、利用データのさらなる拡充に加え、候補地ごとの想定発電量や開発適正度など、事業性評価の高度化に資する取組みを進めていく。これらの取組みと並行して、地域住民への配慮が必要なエリアに関する情報の整理・蓄積についても検討を進め、カーボンニュートラル社会の実現に向けて責任ある再生可能エネルギー導入の加速に貢献していく。利便性の観点からは、候補地ポリゴンを Web 上で登録することで即時に評価結果を確認でき、情報の共有を円滑にする Web GIS の導入・活用についても視野に入れている。
プロフィール

右から東北電力 高林 氏、門間 氏、鈴木 氏、
東北開発コンサルタント 佐々木 氏、庄司 氏

2026年1月19日
