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空洞ポテンシャルマップで道路陥没を大幅に減少

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空洞ポテンシャルマップで道路陥没を大幅に減少

神奈川県藤沢市 道路下水道部

空洞の発生しやすさを可視化し、効果的・効率的な道路陥没対策を行い、共創で安全なまちづくりを実現

2025 年(令和 7 年)に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故を機に、インフラの老朽化や陥没への関心が高まっている。道路陥没は、地中に生成された空洞が拡大して路面に穴があく現象で、その予防保全として空洞探査車(非破壊)等による調査後に、補修や経過観察などが行われている。藤沢市は 2015 年(平成 27 年)度に路面下空洞調査に着手し、その後、藤沢市、東京大学生産技術研究所およびジ オ・サーチ株式会社との産官学共同研究によって「空洞ポテンシャルマップ」を開発した。
同マップは、市全域の空洞発生の潜在性を可視化したものであり、空洞や陥没情報がないエリアも評価している。これは、空洞・陥没と、下水道など藤沢市域における空洞主要因との関係性を分析した結果に基づいている。藤沢市は、2019 年(令和元年)度から空洞調査路線の選定に同マップの試作版を運用し、100 件以上あった市域の陥没件数が 5 年後に 8 割減少という効果を得た。
また、2025 年度に試作版マップの評価精度の高さと陥没予防効果を確認し、更新した正式版を活用していく方針だ。

確認された空洞
確認された空洞

藤沢市では、昭和期に整備された都市基盤が多く、老朽化に伴う道路陥没が頻発したことから、路面下空洞調査を開始した。調査の結果、多数の空洞が検知され、陥没予防の効果は得られたものの、空洞への対応方針や施設の老朽化進行を背景に、空洞の増加や顕在化が懸念されている。限られた財政の中で、効果的かつ効率的な陥没対策を講じることが課題となった。こうした状況を受け、陥没研究の第一人者である東京大学生産技術研究所の桑野玲子教授とジオ・サーチ株式会社との産官学共同研究により、藤沢市域における空洞メカニズムの解明と、それに基づく方針策定の検討が始まった。

ArcGIS は、地理情報を統合・分析し、視覚的に表現できる強力な GIS プラットフォームである。産官学共同研究体は、まず空洞探査情報と陥没情報の集約から取り組みを開始した。集約したデータと、研究で整理された地盤や下水道など藤沢市域における空洞の主要因との関係性を分析した。さらに、これらを統合し、「空洞等の情報がないエリアを含む市全域を面的に評価する手法」を開発し、空洞ポテンシャルマップを作製した。情報集約からマップ作製、試作版の運用による空洞調査計画の立案、大量の調査データや陥没情報の蓄積、評価精度の検証、正式版への更新まで、すべての工程が ArcGIS で実施され、藤沢市の陥没対策はデータに基づく科学的な根拠へと転換された。また、従来は部門内に留まっていた情報が、この取り組みによりデジタル化され、道路・下水道部門を横断して活用されるようになった。さらに ArcGIS の活用により、多様で複雑なデータに基づく評価を市全域で面的に表現し、直感的に理解できる地図として提供できる点が大きな利点である。

藤沢市の空洞ポテンシャルマップは、市内を 250m 四方のメッシュに分割し、 4 つの要因(地盤、下水道排水方式、下水道取付管数、地下水位)を基に空洞の潜在性を 4 段階(High+、High、Middle、Low)で評価する。この評価結果を色分けして地図上に表示することで、空洞発生頻度が高いエリアを一目で把握できるようになった。本マップの導入は、藤沢市が対策を優先するエリアとともに重点的な思考で道路陥没対策していく方針を示した。

空洞ポテンシャルマップの導入は、藤沢市の道路管理において画期的な成果をもたらした。まず、市民の安全性向上という観点では、従来の「事後対応型」から「予防型」への転換が実現した点が大きい。これまでは道路陥没が発生した後に、都度緊急対応を行っていたが、空洞ポテンシャルマップの活用により、優先対策エリアでの計画的な調査と迅速な補修によって陥没を未然に防ぐ体制へと転換した。その結果、陥没件数が大幅に減少した。
次に、行政運営の効率化という側面でも顕著な効果があった。陥没件数の減少は、空洞調査費用の削減効果を高め、財源をより効果的に活用した事例となっている。
さらに、情報公開の観点でも、市民への説明責任を果たすための有効なツールとなっている。空洞ポテンシャルマップは、専門知識を持たない市民でも視覚的に理解しやすく、行政の取り組みを「見える化」することで信頼性の向上に寄与している。この取り組みは、道路部門と下水道部門の連携の好事例としてメディアに取り上げられ、藤沢市の先進的な都市管理として全国的な注目を集めている。

空洞ポテンシャルマップの 4 つの因子
空洞ポテンシャルマップの 4 つの因子
藤沢市の空洞ポテンシャルマップ
(C) 2024-2028 藤沢市・東京大学・ジオ・サーチ株式会社
藤沢市の空洞ポテンシャルマップ
(C) 2024-2028 藤沢市・東京大学・
ジオ・サーチ株式会社

空洞ポテンシャルマップのさらなる高度化に向けて、過去の陥没データ、気象条件、交通量など多様なデータを組み合わせ、将来的な空洞発生の可能性をより高精度に予測する取り組みを検討している。この取り組みにより、従来の静的な可能性評価から、動的かつリアルタイムな状況把握・対応へと進化が期待される。さらなる高度化の実現に向けては、事業者や学術機関の協力が必要となる。

第二に、他部門や外部機関とのデータ連携の強化である。道路や下水道にとどまらず、防災、都市計画、河川、海岸・港湾、上水道、さらには民間事業者との情報共有を進めることで、統合的な都市全体のインフラ管理の仕組みを構築する。さらには、今後は 3D 都市モデル(PLATEAU 等)との連携を図ることで、道路陥没対策だけでなく、災害時の迅速な対応や長期的な都市レジリエンスの向上にも寄与することができる。

藤沢市のこの取り組みは、他自治体に展開可能な全国的なモデルケースとして注目されている。すでに複数の自治体から問い合わせが寄せられており、全国規模での道路陥没対策の高度化に貢献し始めた。将来的には、国レベルでの標準化やガイドライン策定にも寄与し、持続可能で安全な都市づくりの先駆けとなることが期待される。

「GIS がもたらす情報共有の仕組みにより、道路管理部門と下水道部門の連携が強化され、部局を越えた意思決定のスピード向上が実務の中で実感された。今回の取り組みは行政だけの力では成しえないものである。今後も市民の安全・安心の実現のためには、民の力が必要であり、共創による取り組みにより、より良いまちづ くりに繋がることを期待している。」と張ケ谷氏は語る。

プロフィール

神奈川県藤沢市 道路下水道部 道路下水道総務課 張ケ谷 昌彦 氏

神奈川県藤沢市 道路下水道部
道路下水道総務課 張ケ谷 昌彦 氏

掲載日

2026年1月15日