GIS で広がる地域連携の可能性
兵庫県 高砂市・兵庫県立大学
行政と大学の連携で、ArcGIS を活用した地域課題の解決と人材育成に挑む実践事例
課題
- 行政職員による GIS の活用が限定的
- GIS 操作に関する支援体制の不足
導入効果
- 大学との連携により GIS 活用の幅が拡大
- 学生による地域調査で新たな気づきを創出
- 市民・行政・大学の協働による課題解決の推進
概要
兵庫県南部に位置する高砂市は、人口約 8.6 万人を有する都市であり、『暮らしイキイキ 未来ワクワク 笑顔と思いやり育むまち 高砂』を 2030 年の将来像とし、共生、共創、共感、共治・共有を基本目標にまちづくりを進めている。都市政策課では、人口減少や市街地のスポンジ化・低密度化といった課題に対して、持続可能で魅力ある都市空間の創造に取り組んでいる。都市機能誘導区域および居住誘導区域を設定し、定住促進と都市機能の集約を図るほか、公共施設の再編や土地利用の最適化にも力を入れている。これらの多様化する都市計画業務の中で、都市計画図や立地適正化計画などの作成業務にArcGISが活用されている。
一方、兵庫県立大学は、文理融合型の学部構成を持つ公立大学であり、環境人間学部では「人と環境の共生」をテーマに、地域課題に向き合う教育を展開している。全学部横断で行われる副専攻プログラム「地域創生リーダー教育プログラム」では、学生が地域に入り、実践的なフィールドワークを通じて課題解決力を養う機会が提供されている。
2017 年(平成 29 年)に「高砂市と公立大学法人兵庫県立大学との連携協力に関する協定」(以下、包括連携協定)の締結を契機に、ArcGIS を活用した地域課題の解決に向けた取り組みを本格化させた。大学の教育資源と行政の実務を融合させることで、学生・職員・市民が協働し、地域の実態を可視化しながら課題解決を図る新たな連携モデルが構築されている。
課題
高砂市では以前から都市計画業務に ArcGIS を活用していたが、専門用語や解析操作の難しさから、主に図面の作成に利用していた。特に、人流解析や土地構造分析など高度な解析は、業務以上の知識・スキルが必要となるため、専門の外部委託に頼らざるを得ず、職員自身によるデータ活用がなかなか進まなかった。
また、庁内における GIS 人材の育成も課題であり、利用可能なパソコンの台数や時間の制約もあり、G IS を学ぶ環境が整っていなかった。
一方、兵庫県立大学 環境人間学部では、ArcGIS Pro を基盤としたGISの授業を展開している。その理由は初学者向けの教材や動画コンテンツが充実しているからである。授業では、教材を利用し GIS の活用法からその操作方法を体系的に学んでいる。しかし、学生が課題に取り組みながら GIS の操作や分析手法を習得するためには、実際の生活や政策に即した、より実践的なテーマに取り組む必要がある。そのためには、行政からの支援が不可欠であると感じていた。
課題解決手法
先述した背景から、高砂市と兵庫県立大学では、包括連携協定を基に、地域課題の解決をはじめ、相互に支援する取り組みを行っている。
■大学との連携による学習支援
大学との連携による学習支援都市政策課では大学と同じ教材を購入し、学生と同じ土俵で GIS を学ぶことを目指した。ゼミ活動では学生と職員がデータを交換しながら GIS の使い方を習得し、実務への応用を図った。市役所では他業務との兼ね合いがある中で、太田教授の支援を受けながら、都市計画モデルの構築や用途地域の分析などを実施した。
ArcGIS の持つ汎用性と柔軟性を活かすことで、都市計画以外の業務にも展開できる可能性が見えてきた。職員は、GIS を単なる図面作成ツールではなく、政策立案や市民サービスの改善に活用できる分析ツールとして捉え直すようになった。

■地域調査による実践的な学び
兵庫県立大学では、副専攻プログラム「地域創生リーダー教育プログラム」として岸本特任助教の主導の下、学生が地域住民と協力して、地域の未利用資源の調査を実施した。具体的な取り組み例として、近郊農村にある「農菓みきや」の商品開発・販売に関連し、地域で採り逃されている果樹の調査を行った。 ArcGIS Survey123 を用いて果樹の種類や植生分布、利用状況をマッピングし、未利用資源の可視化を図った。
調査では、地域住民も知らなかった柿の分布傾向が明らかになり、市民の関心を高めるとともに、地域資源の活用に向けた議論が生まれた。果樹の見分け方や農家とのコミュニケーションなど、調査過程での苦労も多かったが、学生は GIS を通じて地域との関係性を深めることができた。

■プレゼンテーションによる成果共有
ゼミで行った地域課題をテーマにした調査結果の成果発表会には、都市政策課以外にも、市長や他部署の職員の参加者があった。市民との協働による調査は行政にとっても新たな気づきをもたらし、庁内の他部署にもデータが共有された。
効果
学部 3 年生による前期の「都市空間分析演習」の成果発表会では、高砂市の職員も審査員として参加し、GIS で分析したことで新たな気づきを得ることができた。コミュニティバスの最適化に関する提案では、バス停の位置や利用時間帯の分析を通じて、運行効率の向上が期待された。また、AED 装置の設置状況に関する調査では、施設の開閉時間によって使用できない時間帯が存在することが判明し、危機管理室へ調査結果の共有が行われた。
成果発表会で最優秀賞を受賞した「GIS を用いた AED のアクセシビリティに関する研究-兵庫県高砂市を対象に -」は、環境人間学部内のプレゼン大会である環境人間学フォーラムでの発表も行い、学内外から高い評価を得た。学生は GIS の活用法を理解したことで、卒業論文でも GIS を用いた調査を行うようになり、実践的なスキルの習得につながっている。
高砂市と兵庫県立大学による包括連携協定を契機に行われたさまざまな取り組みを通じて、GIS が単なるテクノロジーではなく、地域社会との橋渡しとなるツールであることが実証された。

今後の展望
今後は、行政と大学の連携をさらに深化させることで、GIS を活用した地域課題への取り組みが加速することが期待される。さらには、整備された GIS データをオープンデータ等の適切な形式で市民へ公開し、大学や地域の事業者が活用できる環境を整えることで、地域課題の解決に向けた新たな取り組みにつながるだろう。 GIS 人材の育成には情報リテラシーの向上が不可欠であり、行政と大学が連携して教育・実践の場を提供することが重要である。ArcGIS を基盤としたこの三位一体の取り組みは、地域創生の新たなモデルとして今後も発展が期待される。
プロフィール

左から高砂市 都市創造部 都市住宅室
都市政策課 板東 氏、村田 氏
上下水道部 技術管理室 施設課 吉田 氏
兵庫県立大学
環境人間学部 都市計画研究室 教授 太田 氏
環境人間学部 地域創生リーダー教育プログラム推進室
特任助教 岸本 氏

2026年1月15日
