現地調査からダッシュボードへ 迅速な情報の共有・見える化を実現
輪島市
令和 6 年能登半島地震の災害対応を支えた GIS
課題
- 災害対応業務における情報管理、情報共有および状況認識の統一
導入効果
- ArcGIS Onlineを基盤としたDXによる業務効率と業務品質の大幅向上
概要
2024 年(令和 6 年)1 月 1 日 16 時 11 分、石川県能登地方を震源とするマグニチュード 7.6、深さ 16㎞ の地震が発生した。 石川県輪島市では、朝市エリアの焼失、家屋の倒壊、孤立集落の発生、海底隆起など、甚大な被害が市内全域にわたって発生した。
余震が続き被害の全容は明らかになっていない。そのうえ、災害対応の資源も限られている状況下で輪島市役所での初動対応が開始された。
課題
「建物被害の全容の迅速な把握」、「余震・積雪による二次被害対策が必要」などの初動時の課題が、「応急危険度判定」と「応急仮設住宅建設」業務の当時の担当者であった建設部まちづくり推進課の宇羅氏に課せられた。
二次被害防止を目的とした応急危険度判定調査。この判定結果が活用できれば、被害状況が面的に把握できるとともに、応急仮設住宅建設で、どの地域に何戸の仮設住宅を建設すべきかの見積りに必要な情報が得られる。さらに、応急危険度判定調査業務の管理において不可欠な進捗管理など複数の課題が同時に解決できると考えた。
ただし、体制も平常とは大きく異なり、施設、電力、通信の機能不全、職員、組織などの体制不十分な状況に直面しており、それを前提とした対処策を考える必要があった。
それでも、2007 年(平成 19 年)の能登半島地震でアナログによる災害対応業務の限界を経験した宇羅氏は、2007 年と比べて数倍の規模に感じられた今回の災害対応において、デジタル技術が不可欠であり、基盤として位置付けられると考えた。
この効果を最大限利用しなければ、今後長期にわたる災害対応業務が早々に行き詰ると考えていた。
備えと蓄え
輪島市は、2007 年の被災経験を経て、災害対応のノウハウ習得、GIS の全庁利用のための ArcGIS サイトライセンス導入、GIS 利用技術の習得、外部専門家や同業者との繋がり・情報交換強化などを地道に継続してきた。
2007 年の能登半島地震では、外部支援の専門家の GIS による業務デジタル化を目の当たりにし、情報照会の迅速化、被災者対応状況の見える化などの効果を認識した。
それを踏まえ、2009 年( 平成 21 年)には全庁の業務や情報共有の基盤として ArcGIS サイトライセンスを導入し、平時の業務での活用を進めてきた。
さらに、令和 5 年奥能登地震の珠洲市の住家被害認定調査の支援活動ではモバイル現地調査によるデータ収集の迅速化、進捗状況のリアルタイム把握の効果を体感した。
課題解決手法

前述したように、今回の災害対応の現場で最も必要とされた情報の 1 つが家屋被害情報であった。応急危険度判定調査の調査結果を、ArcGIS Dashboardsで作成したダッシュボード上で確認可能とした。
ダッシュボードに表示する 1 件 1 件の調査結果は、調査実施者である応急危険度判定士に、タブレットで ArcGIS Survey123(以下、Survey123)の調査フォームを用いて、現場での入力作業を依頼した。また、通信不通エリア対策として、Survey123 のオフライン機能を用い、調査実施者が意識することなく、シームレスに入力作業が行える環境を整えた。
ダッシュボード、調査アプリ、調査データなどの災害対応用の全リソースは、SaaS である ArcGIS Online に集約し、一元的に管理した。
ArcGIS Online の標準機能である共有機能とユーザー認証機能を利用して、業務利用するリソースの共有範囲を限定して共有した。具体的には個別のリソース単位で共有先のグループを指定して共有を行った。災害対応の専門的知見を持った国立研究開発法人防災科学技術研究所、兵庫県立大学の研究者の支援活動も SaaS の特性を活かし、現地だけでなく遠隔地からも行われた。
応急危険度判定調査ピーク時(30 班体制)には、一時的にライセンス不足が発生したが、Esri社が提供する災害対応プログラムに申込み、不足分の Mobile Worker ライセンスを入手した。

効果
初期段階で必要とされた家屋被害情報を可視化した応急危険度判定ダッシュボードを皮切りに、応急仮設住宅建設進捗ダッシュボード、水道復旧ダッシュボードなど作成されたダッシュボードは 30 を超える。アナログでは難しかった進捗管理、状況認識などを業務のスピードに合わせて把握可能とした。
タブレット調査では、3 つの効果があった。1 つ目がデータ品質向上効果である。家屋位置、調査結果、現場写真を 1 レコードとしてまとめて記録でき、参照・利用がしやすいデータとなった。2 つ目が調査者の負担軽減、安全確保の効果である。簡易な入力フォームを提供できたことで、調査者の工数削減と入力時間の短縮につながり、負担軽減や危険回避などの効果があった。3 つ目が時短効果である。現地で入力作業が完結できたため、応急危険度判定士の帰庁後の確認作業がほぼ不要になり、翌日の作業に備え、早く退庁することができた。不幸にも 2024 年(令和 6 年)9 月には、豪雨災害が発生し、1 月の地震災害との複合的な対応も発生したが、基盤を変更することなく、ArcGIS Online での運用は変更なく統一的に対応できた。それにより、課題への対応に集中できた。


今後の展望
「災害対応において、データの共有と相互運用性を高めれば、さらに一層の効率化が実現する。今後は情報基盤だけでなく、活用するための人材育成や組織体制の構築にも関与していきたい。それが、被災者の一刻も早い生活再建に繋がる」と宇羅氏は語る。
プロフィール

宇羅 良博 氏(左から2番目)
被災者生活再建支援課(当時)
課長 倉本 啓之 氏(左から3番目)
国立研究開発法人防災科学技術研究所
研究統括 博士(情報学)
鈴木 進吾 氏(右から2番目)
博士(学術) 折橋 祐希 氏(右)
兵庫県立大学大学院
減災復興支援政策研究科博士(工学)
浦川 豪 教授(右から3番目)
ESRIジャパン株式会社
名和 裕司 氏(左)

2026年1月9日
関連業種
関連製品
- ArcGIS Online
- ArcGIS Pro
- ArcGIS Dashboards
- ArcGIS Experience Builder
- ArcGIS Field Maps
- ArcGIS Survey123
資料
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