被災者生活再建支援システムにより災害大国日本のセーフティネットを築く
NTT 東日本株式会社
建物被害認定調査と罹災証明発行および被災者台帳業務を DX し公正公平かつ迅速化する全国標準システムへ
課題
- 被災者支援業務の膨大化・複雑化
- 公正公平かつ迅速な実施が困難
- 自治体の運用体制不足
導入効果
- 被災者支援業務の DX による効率化
- 建物被害認定、罹災証明、被災者台帳業務の迅速化・標準化
- 全国自治体間の相互支援ネットワーク構築
概要
自治体の義務である被災者生活再建支援は、膨大かつ複雑な業務であり、公正公平かつ迅速な実施には大きな困難を伴う。研究フェーズ、製品化フェーズ、全国展開フェーズと進化してきた被災者生活再建支援システムは、この業務を DX によって効率化する。システムは全国に普及し、ユーザーはコミュニティ化し、災害時にはユーザー同士が助け合う全国標準基盤となった。技術革新とシステム化範囲の拡大により、更なるレジリエンス向上に寄与していく。
課題
公正公平で迅速な被災者生活再建支援
近年、地震、水害、風害等の災害が頻発化、激甚化している災害大国日本では、予測力(理学)、予防力(工学)、対応力(社会科学)をレジリエンス向上の 3 つの鍵と捉え、さまざまな研究や社会実装が進んでいる。対応力向上の一環として、被災住家の被害認定と罹災証明発行、および被災者台帳を用いた被災者生活再建支援を公正公平かつ迅速に行うことが、災害対策基本法にて自治体の義務となっている。しかしながら、これらは膨大かつ複雑な業務であり、被災後に初めてこの業務に取り組む自治体にとって大きな困難をともなっていた。
課題解決手法
研究フェーズ:被災者生活再建を DX で迅速化
2004 年(平成 16 年)10 月に発生した新潟県中越地震で被災した小千谷市にて、被災者生活再建支援システムの研究開発が始まった。当時、京都大学防災研究所 巨大災害研究センター長であった林春男教授(後の国立研究開発法人防災科学技術研究所 理事長、京都大学名誉教授)率いる京大チームが、共同研究者として被災地に同行していた ESRIジャパンなどと共に罹災証明発行システムの初期バージョンを開発した。
その後、2007 年(平成 19 年)の能登半島沖地震における輪島市や新潟県中越沖地震の柏崎市、2011 年(平成 23 年)の東日本大震災の岩手県、2012 年(平成 24 年)の京都南部豪雨や 2013 年(平成 25 年)の台風 18 号の京都市および 26 号の伊豆大島など、さまざまな地震や水害にて本システムが活用・研究され、これらの研究成果がバージョンアップとして製品に反映されていった。
この進化の過程にて、罹災証明発行のみでなく、建物被害認定調査の調査結果をスキャナーにより半自動でデジタル化するシステムや、罹災証明を受け取った被災者に対する各種生活再建支援の進捗を管理する被災者台帳などが開発され、一連の被災者生活再建支援業務をDXして公正公平かつ迅速化するトータルシステムが形作られていった。

製品化フェーズ:製品マネジメントサイクルを回し、進化し続けるシステムを
産官学連携により開発されてきた研究版の被災者生活再建支援システムは、災害発生後に研究者とともに被災自治体に導入され活用される形を取っていたが、これではシステムやデータの準備、および運用方法の検討や運用体制づくりに時間がかかってしまい、迅速な被害認定調査や罹災証明発行、ひいては被災者の生活再建のボトルネックとなっていた。
そこで、自治体が平時から本システムを導入し、研修や訓練による人材育成や運用方法の検討を実施することで来るべき災害に備えられるようにするため、製品化および商用サービス化の検討が始まった。このフェーズで、従前より林教授と共同研究を行っており、ESRIジャパンとも協業実績があり、本システムを製品化・商用サービス化する体制や全国自治体への営業ネットワークも有する NTT 東日本株式会社が選定された。
単に研究版システムを商用サービス化するだけではなく、A rcGIS Desktop 上に開発されていた研究版をクライアント・サーバー版と位置づけ、それを ArcGIS Enterprise 上に再構築し、それを LGWAN-ASP であるクラウド版や、都道府県向けの共同利用版として導入できる Web 版として整備した。
さらに、MS&AD インターリスク総研により提供されていた建物被害認定調査研修や、ESRIジャパンやデュプロによるシステム操作研修、システム保守など、サービスのパッケージ化も推進した。製品化は、ゴールのある一過性とプロジェクトではなく、絶えず進化しつづけるサステナブルなプロセスと位置付け、被災地支援 → 発生した課題の研究 → 研究成果の製品反映(バージョンアップ)→ 全国自治体への平時導入 → 研修・訓練(次の災害への備え)という製品マネジメントサイクルを回し続けることを基本戦略とした。
また、被災地研究の成果だけでなく、導入自治体からの要望、各種法改正、周辺技術の革新、ArcGIS プラットフォームの進化などを勘案し、優先順位をつけてバージョンアップを繰り返している。
全国展開フェーズ:ユーザー同士が助け合う全国標準基盤
NTTグループの全国支店ネットワークを用いた全国自治体への提案活動は、製品化以上に大きな責任を担う業務である。 2025 年(令和 7 年)12 月現在、全国 391 自治体が導入し、23 特別区、17 政令市、 22 中核市を含め、人口カバー率は 50 %となっている。全国での導入が進むことにより、システムの全国統一化が進み、災害発生時には、過去に本システムの研修を受講したり実際に利用したりして操作に精通した応援職員が全国から被災自治体に集まる、いわゆる、ユーザー同士が助け合う全国標準基盤が整いつつある。
また、毎年 2 回、6 月と 11 月にセミナーとユーザーカンファレンスを開催し、ユーザー同士の情報交換やコミュニティづくりを推進している。2023 年(令和 5 年)には、本システムのユーザー会が組織され、ユーザー自治体同士の相互支援がますます進んでいる。
ArcGIS採用の理由
絶えず進化する GIS プラットフォーム
元々研究版が ArcGIS プラットフォーム上で構築されたソリューションであったことも理由の 1 つではあるが、ArcGIS が絶えず進化し続ける GIS プラットフォームである点が最も大きい。業務システム部分をバージョンアップしなくても、プラットフォームが自動的に進化しユーザーに新しい付加価値を提供する点は、ユーザーにとっても、ソリューション事業者にとっても非常に大きなメリットとなっている。
また、ノーコードで設定変更可能なアプリ群が充実していることも重要な理由である。ソリューション部分の多くがノーコードで設定変更可能であることは、開発効率を大きく高めるだけでなく、被災地でのさまざまな需要に柔軟に対応できる点で大きなメリットとなっている。
今後の展望
技術革新とカバー範囲拡大で更なるレジリエンス向上へ
製品化の章で述べたように、製品開発は継続的なマネジメントサイクルであり、ゴールはない。AI の進化、ドローン等によるリモートセンシング技術の革新、モバイル技術のイノベーション等の技術革新は、本業務に無限の付加価値を与えてくれる。また、本システムがカバーする業務範囲の拡大も全体の業務効率向上に大きく寄与する。被災者生活再建支援システムは、災害大国日本の更なるレジリエンス向上を支えるセーフティネットとして、今後も進化しつづける。

プロフィール

2026年1月8日
