ネイチャーポジティブ実現に向けた生物多様性情報の「見える化」
環境省自然環境局 自然環境計画課地域ネイチャーポジティブ推進室
生物多様性見える化システムによる自然情報の可視化と保全活動の促進支援
課題
- 「生物多様性国家戦略 2023-2030」に掲げる 30by30 目標達成に向けた生物多様性の重要性や保全効果の「見える化」
導入効果
- 国民の身近な場所の自然情報に対する興味喚起
- 生物多様性保全のための計画策定支援
- 生物多様性保全に取り組む地域(自然共生サイト等)の拡大、地域間の連携促進
- 民間企業による生物多様性保全への投資促進
概要
現在、地球上のほとんどの場所で自然が大きく改変されており、過去 50 年の間に、人類史上かつてない速度で地球全体の自然が変化している。このままでは生物多様性の損失を止めることができず、持続可能な社会は実現できないと生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)報告書にて指摘されている。
そのような状況を受けて、2022 年(令和 4 年) 12 月にカナダのモントリオールで開催された生物多様性条約第 15回締約国会議(COP15)において、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる=ネイチャーポジティブ」を目標とした「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。その中には、 2030 年までに、陸と海の 30% 以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする、いわゆる「30by30 目標」も掲げられている。
目標の達成に向けて、保護地域の拡張や、 OECM(保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域)の新規設定・管理を進めることが必要である。我が国では、OECMとして「自然共生サイト」を2023 年(令和 5 年)度から認定している。自然共生サイトは、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域で、たとえば、企業の水源の森や都市の緑地、里地里山、里海における藻場、干潟など、企業、団体・個人、地方公共団体が所有または活動する多様な場所が対象となる。
課題
世界目標の達成に向けた我が国における取組方針として、環境省では「生物多様性国家戦略 2023-2030」を策定した。この国家戦略においては、30by30 目標の達成に向けて、生物多様性の重要性や保全効果を「見える化」することが重点施策として位置付けられている。具体的には、奥山から中山間地域、さらに都市部まで陸域の全域をカバーする生物多様性の現状や保全上効果的な地域を可視化したマップを提供するとともに、継続的に更新可能なシステムを開発することが課題となっていた。
これを踏まえ、環境省では、2024 年(令和 6 年)度から「生物多様性見える化システム」の設計・開発を開始し、2025 年(令和 7 年)4 月から、機能の一部を公開して試行運用を開始、同年 9 月より機能を拡充し、本格運用を開始している。

機能概要
「生物多様性見える化システム」には、現在大きく 3 つの機能が実装されており、これらの機能を活用することで課題解決を図っている。 1 点目は、本システムの最も基本的な機能である「生物多様性『見える化』マップ」である。その名の通り、生物多様性保全上重要な地域を地図上で一元的に可視化した。法律の規制を受ける保護地域以外も確認が可能で、特に自然共生サイトの位置を全て確認できるのは現時点で本システムのみである。 2 点目は「自治体ナビ」である。都道府県や市町村ごとの保護区域等の設定状況(面積割合)をシステム上で計算して表示することで、自治体別の 30by30 の達成状況が明示された。また、自治体ごとに策定する「生物多様性地域戦略」の策定状況を地図上で把握し、策定済みの計画を確認できるようにした。 3 点目が「自然共生サイト検索ナビ」である。 ArcGIS の標準機能を活用し、全国の自然共生サイトの中から任意の条件に合致する場所を検索できる機能を備えた。また、各自然共生サイトの個別ページとして「みんなの取組」を新設し、それぞれのサイトの管理者が独自に更新する情報を閲覧することも可能とした。
ArcGIS採用の理由
ArcGIS を採用した理由は、Web ブラウザーのみで利用可能で、一般的な利用シーンでは、特別な機器やソフトの導入なしに誰もが利用可能であることである。また、追加システム構築やプログラミング不要でマップ、アプリケーションの構築が可能であるため、専門的な知識を有さない NPO や任意団体、自治体等を含む省外の関係者も容易に利用できる点が挙げられる。さらに、環境省では、ArcGIS を使用した「GIS 統合基盤システム」を運用しており、既存の GIS 利用システムと将来的に連携(疎結合、密結合)する部局横断の業務連携が可能になる ArcGIS が選定された。
期待される効果と今後の展望
「生物多様性見える化システム」の開発は生物多様性国家戦略の重点施策の一つとして実施したものであり、本格運用により、国家戦略に掲げる目標の達成に寄与することを期待している。想定する用途が多岐に渡るため、具体的な効果として期待する内容もさまざまである。
まずは、国民が自身の暮らす地域など身近な場所の自然に関心を持つきっかけとなることを期待する。誰にでもわかりやすく生物多様性の保全上重要な場所が伝えられるのは地図上で可視化する最大の意義と考えている。地方公共団体等が地域づくりの計画を作る場面や教育現場における地域学習の場面などでも活用できるポテンシャルがあると考えている。 計画策定に関しては、生物多様性保全の計画を立てる際、本システムを活用し、関連する情報を踏まえた最適な保全戦略の策定を後押しすることを期待する。
保護地域同士が隔絶した場所では、自然の連結性を高める上で効果的な場所を抽出する、市町村ごとに保護地域等のカバー割合を参考に新たに保全に注力する場所の優先順位をつけるといった活用が考えられる。最近は自然を活用した防災・減災にも注目が集まっており、今後はそのような観点での計画策定にも活用ができるようになると意義深い。 また、自然共生サイトの認定を促進することも期待される。認定済みのサイトが発信する最新の情報を閲覧できるようになったことで、これから認定を目指す企業や団体には有益なものになると考えている。また、認定済みの自然共生サイト間の連携や情報交換にも貢献することで、保全活動の質を高め合う相乗効果にも繋げたい。
さらに、民間企業による生物多様性保全への投資を呼び込むことにも期待している。近年、企業経営においても ESG や TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)をはじめとする、自然資本への依存や生物多様性が損なわれることで生じうるリスクの把握と対応を求める動きが強まっており、企業で対策を考える際の材料としても本システムは有益であると考える。自然共生サイトに限定した機能ではあるが、支援を必要としている場所を検索する機能や自治体が策定する生物多様性地域戦略を探せる機能も、企業が活動を検討する際に現場ニーズを探る手段として役に立つと考えている。
より大きな視点として、これらの活用手法を組み合わせて、ランドスケープアプローチにより、自然資本を核とした地域課題の解決に繋げることにも期待している。
本システムは本格運用を開始後も、引き続きより有益な機能を追加していくことを予定している。たとえば、現時点で全国の自然共生サイトの活動情報の「見える化」が図られているが、次の段階は「できる化」として、誰もがより良い保全・再生活動に容易に取り組めるよう、各サ イトで有効な管理・保全・再生技術をわかりやすく提供する機能を追加し、実用的な活動支援ができるシステムへと高めていきたい。


プロフィール

2026年1月8日
