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地理的特性を加味した訪問看護サービスの需要状況に関する研究

社団法人 日本看護協会

 

GIS利用により訪問看護サービスの「空白地域」を明らかにし訪問看護の地域格差の是正を図る

訪問看護サービスの「空白地域」を明確化し、訪問看護事業所の不足状況の把握と新規サテライト事業所の候補地の選定について、地理的特性を加味した方策を提示する

はじめに

日本看護協会は、保健師・助産師・看護師・准看護師の資格を持つ個人が自主的に加入し運営する日本最大の看護職能団体であり、1946年に設立され、現在、およそ61万人の看護職が加入している。

日本看護協会の活動は、「国民・患者の視点に立った看護・医療政策の提案」「医療事故防止や感染対策、労働安全衛生」「生活習慣病の予防や健康増進事業」「在宅ケアの推進」など、社会的ニーズに対応した質の高い看護サービスを提供するために、47都道府県看護協会と連携して、保健医療福祉制度下でのサービス提供体制の再構築に向けた提言など、さまざまな活動を行っている。

研究の背景

訪問看護サービスは、地理的な状況の影響を大きく受け、とりわけ中山間地域では訪問に要する移動時間や費用負担が大きいことから、訪問の件数が抑制され、安定的な事業運営、サービスの提供が困難な現状となっている。

平成18年度の全国訪問看護協会による調査では、全国2,217市町村のうち、訪問看護事業所の設置されていない市町村は47.1%と算出されており、およそ半数の市町村が未設置の状況にあることが報告されている。

訪問看護事業所はこのような地域格差が存在する上に、上述のような地理的な問題を一因として新規設置が進まず、全体としても利用者数や従事者数が伸び悩んでいる状況にあることから、事業所が未設置の状況にある訪問看護サービスの空白地域の解消、サテライト事業所の新規設置が期待されている。なお、「訪問看護」とは、看護師等が要介護(支援)者等の居宅を訪問して療養上の世話や必要な診療の補助を行なう在宅サービスであり、サテライト事業所は、主たる訪問看護事業所が設置する出張所を意味する。

研究の内容

本研究では、GISを利用することにより、訪問看護の地域格差の是正を解消するための地理的特性を加味した方策として、以下の手順に沿って、1)訪問看護事業所の不足状況の把握、2)新規サテライト事業所の候補地の選定を試みている。

  1. 町丁目別高齢者密度の状況の可視化
  2. 町丁目別高齢世帯割合の状況の可視化
  3. 病院、診療所から自動車で5分あるいは10分圏内領域の算出
  4. 訪問看護事業所から自動車で5分あるいは10分圏外領域の算出
  5. 上記3.と4.の差分領域の抽出
  6. 新規サテライト事業所設置候補地の選定
  7. ボロノイ分割を用いた新規サテライト事業所設置前後の需給変化の推計

1) 訪問看護事業所の不足状況の把握

まず、高齢化率、高齢世帯率等の地域の統計情報と移動主体の距離圏域を可視化し、訪問看護事業所の不足状況の把握を試みている。

なお、訪問看護事業所における職員の移動手段は、都心部の一部では自転車を用いているものの、そのほとんどは自動車を利用したものであることから、本研究では、以下に示すように、自動車を移動手段とした速度要件を道路幅員別に設定し、圏域および効率的な訪問経路を算出している。

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道路種別の移動速度一覧

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町丁目別高齢者密度の状況

2) 新規サテライト事業所の候補地の選定

次に、新規サテライト事業所の候補地の選定については、地域の統計情報と移動主体の距離圏域を検討して抽出した、訪問看護サービスの空白地域から、アクセスコストをかけることなく、客観的に新規サテライト事業所の候補地を検討している。

また、ボロノイ図を作成することにより、新規サテライト事業所の設置前後の圏域の変化を可視化し、利用者の需給状況の変化を推計している。

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新規サテライト事業所設置候補地の選定

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ボロノイ分割による需給変化の推計(新規サテライト事業所設置前)

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ボロノイ分割による需給変化の推計(新規サテライト事業所設置後)

まとめ

今回用いた候補地選定のプロセスについては、現地調査を踏まえた実際的なアクションなど、さらに実態に即した内容を加えて改善していく必要があるものの、今後、各地域におけるサテライト事業所設置の議論を深めるためのツールとして、GISの利用が期待される。

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掲載日

  • 2010年1月1日