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事例

スーパーコンピューター「京」で解析した津波シミュレーションをアニメーションにより可視化

海洋研究開発機構

 

蓄積されたデータは避難経路シミュレ-ションなどに活用

ArcGIS for Desktopで一般人にもわかり易い津波動画を制作

課題

導入効果

 

概要

海洋研究開発機構外観
海洋研究開発機構外観

海洋研究開発機構(JAMSTEC:JAPAN AGENCY FOR MARINE-EARTH SCIENCE AND TECHNOLOGY)は日本における海洋科学技術の総合的な研究機関としてこれまでに様々な研究開発を行っている。東日本大震災以降、研究開発の分野・領域を超えた大きな進展、研究開発成果の社会還元への対応強化など、情勢の変化に対応していくことが求められている。 地震津波・防災研究プロジェクトでは、津波に関する研究成果を地域防災の観点から幅広く自治体、住民に開示することを目的に、理化学研究所のスーパーコンピューター 「京」で解析された津波の沿岸到達モデルをArcGIS for Desktopとエクステンション 製品である3D Analystにより視覚化した。 視覚化されたモデルは3次元アニメーションで表現され、閲覧した自治体担当者や地域住民の防災意識を高め、具体的な防災方策案を想起させている。将来的には津波到達モデルを人口統計データなどとも重ね合わせ避難計画の策定などにも役立てる。

 

背景

ArcGISを用いた津波シミュレーション動画
ArcGISを用いた津波シミュレーション動画のスクリーンショット

同機構は、海洋に関する総合的な研究を行い、研究成果は日本国内の研究者のみならず、世界中に公開され理解を得てきている。しかし、東日本大震災以降、研究成果を限られた科学者コミュニティーに留めることなく、広く一般人にも公開し理解を得る必要が出てきた。特に、地震や津波に関する研究成果を地域防災に直接役立てることは同研究機構の使命となった。「一人一人の自治体職員、地域住民のみなさんの心に火をつけたかったんです」 と、同グループの技術主任、馬場氏は語る。 「東日本大震災では、特定のリーダーが多くの生命を守るための判断を任された。 僕は、それは違うんじゃないかと思うんです。防災意識と避難に関する知識を一人一人が持つことで、地域として正しい判断が瞬時にできるようになればきっと被害は低減できるはずです。」 同グループは、特に国からの要請で研究成果のアニメーションによる公開に踏み切った訳ではなく、こうした使命感に突き動かされ、研究成果を科学者のみがわかるレベルではなく一般人が肌で感じることができるような高精細な3Dアニメーションモデルを制作した。

 

システム構成

ArcGISによる可視化概念図
ArcGISによる可視化概念図

同グループで開発したJAGURSと呼ばれる高速津波コードにパラメータをセットし理化学研究所のスパコン「京」で解析し、数十ギガバイトに及ぶ解析結果をArcGIS for Desktopで3Dアニメーションに変換している。解析するエリアの大きさにもよるが、転送されて来た解析結果を20ギガバイト程度に分割し処理している。同研究機構がスパコン「地球シミュレーター」を保有、運用していることは有名だが、今回は何故「京」で解析を行っているのだろうか?「JAMSTECは文科省の定めるHPCI(High Performance Computing Infrastructure)戦略プログラムの分野3 防災・減災に資する地球変動予測に参画しているので「京」が使えるんです。」

「ES(Earth Simulator:地球シミュレー ター)でも勿論解析は可能で、災害時にはどちらかがダウンすることもあり得ますので両方でできるように開発をすすめています。」 国家レベルの最重点課題の1つである防災・減災に国内最高レベルのインフラが投入されているわけだ。さぞや快適な環境かと思えるが課題もある。「計算は速いんです。1.5時間ぐらいで被災予想全域の詳細なシミュレーションが完了するんですが、何せデータが大きいので、転送に1日、可視化に1.5日要します。」PCが「京」の出力についていけないのだ。「ArcGISは市販のソフトとしての視覚化機能は素晴らしいし、集積した GISデータを今後の研究に発展させることができる部分もCGとは比べものになりません。」同機構には可視化専門チームが存在し今回の津波到達モデルもCGモデル化されている。しかし、可視化の専門家の数は限られている。ArcGIS for Desktopで安価に、可視化専門チームの手を煩わせること無くわかり易い3Dアニメーションモデルを制作した意図はここにある。

ArcGIS for Desktop上のアニメーション制作インターフェイス
ArcGIS for Desktop上のアニメーション制作インターフェイス

 

導入効果

「とにかく画として一般の人にもわかり易いものができたと思います。」実際の3Dアニメーションモデルは、2Dのアニメーションモデルにはない津波のうねり具合や厚み、高さ、奥行きが表現され、陸地に到達した際のインパクトを十分に想像させる。 このわかり易さ、被災状況の想像のし易さはテレビ番組でも紹介された。2013年3月17日放送の「夢の扉+」(TBS)では同機構の地震津波・防災研究プロジェクトリーダー、金田氏が3Dアニメーションモデルを紹介した。周期的には2040年前後 に起こりうる南海トラフ巨大地震から命を守るために「京」で解析した地震シミュレーションを、安全な避難経路への誘導などによる減災計画に役立てて欲しいという内容だ。ArcGISの導入という観点から感想をお聞きした。「使い勝手が良いですね。僕はGISの専門家ではないので、今のところユーザーとして限られた機能を使うだけなんですが、これからやりたいことをどんどん実現させてくれる発展性のあるソフトだと思います。」人口統計データとの重ね合わせによる避難路の策定など、今後の研究に発展させていくお考えのようだ。

「京」による大規模実時間津波計算(高知県全域5m分解能、計6.8億格子)
「京」による大規模実時間津波計算(高知県全域5m分解能、計6.8億格子)

 

今後の展望

「データを収集し、解析し、人に伝えるまでをパッケージにできないかと思っています。」と馬場主任は将来的な理想像を語る。「データの収集に関してはDONET(Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis:地震・津波観測監視システム)などの稼働により今後10年ほどで地震のリアルタイムデータが取得できるようになります。」「データ解析から3Dアニメーション制作までは今のところ別々の仕組みで行っていますが、これをスパコン内部で一括してできないか。そしてそれを関係者に伝えるところまでを一連の枠組みの中で行うことができれば理想的なのではないかと思います。」リアルタイムで取得した地震データを解析し浸水域をシミュレートした場合、東日本大震災の 際、航空写真の判読などによる浸水域の同定が困難だったことを鑑みると、補完的に用いることによりスピーディな災害対応が可能になるだろう。もちろんシミュレーションモデルであるがために100%正確ではない かもしれないが、建物形状も勘案された同モデルは災害対応現場で十分な威力を発揮するに違いない。「とりあえずモデルが完成して3Dアニメーションで表現することはできました。でもここからは一人じゃできないんです。さっきのパッケージの話もそうですが、これからは研究者、自治体、住民、そして民間企業にも協力してもらってアイディアを出し合いながらどう減災していくか考えていきたいと思っています。」ESRIジャパンとしても本当に来る巨大災害に備え関係各機関と協調していきたい。

 

プロフィール


地震津波・防災研究プロジェクト
システム運用・データ管理グループ
技術主任 馬場 俊孝 氏


関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2014年9月18日