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事例

暑熱環境モニタリングによるヒートアイランド現象の可視化

東京都環境科学研究所

 

航空機による赤外放射量計測結果の可視化から見えてきたヒートアイランド現象の現状と課題
オリンピックに向けた観客の熱中症対策として「日陰マップ」を作成

概要

猛暑日・熱帯夜日数の変化グラフ
猛暑日・熱帯夜日数の変化グラフ

東京都環境科学研究所は、昭和 43 年に東京都公害研究所として発足した。環境科学研究所と改称し、研究所を有楽町から現在の江東区に移転したのは昭和 60 年のことである。江東区はかつて工場が多く、夢の島など埋め立てによって拡大していった歴史がある。東京都の環境施策の推進に役立つ調査研究を実施することをミッションに持っており、東京都環境科学研究所の役割として

  1. 環境施策の展開を支える
  2. 産学公との連携
  3. 幅広い環境研究

この 3 つの柱を担い日々環境に関する研究を行っている。
本研究では、熱中症を引き起こす環境要因について調査し、ヒートアイランド現象の現状と課題を明らかにした。
オリンピックに向けた観客の熱中症対策として作成した「日陰マップ」を紹介する。

背景

熱中症救急搬送者数の年変化グラフ
熱中症救急搬送者数の年変化グラフ

近年における熱中症救急搬送者数の増加など、夏の暑さが社会問題化している。直近約 140 年の気温変化をみると最高気温が 35 度以上の猛暑日日数、熱帯夜日数(最低気温が 25 度以上の夜)ともに近年際立って多くなっている。東京における暑さの主な原因は、地球温暖化と都市のヒートアイランドである。東京都ではヒートアイランド対策推進エリアを 2005 年に設定し、国・区・民間事業者と連携してヒートアイランド対策事業を重点的に実施してきた。
今回の研究では、都心エリアを対象として、「熱中症に影響する赤外放射量の計測結果の可視化」を行った。また、2020 年に開催予定の東京オリンピックに向けた観客の熱中症対策として「東京オリンピックマラソンコース日陰マップ」を作成した。

ArcGIS 採用の理由

ArcGIS の存在は東京都庁 環境局との GIS データ、ファイル交換のやり取りを通じて知っていた。但し、価格をはじめ、庁内ですぐに導入するにはハードルが高かった。そこで自治体 GIS 利用支援プログラムを利用して、ArcGIS の検証・報告を重ね導入に至った。自治体 GIS 利用支援プログラムとは、行政職員を対象に 1 年間無料で ArcGIS を使うことができ、操作研修も無料で受けられる制度である。ArcGIS 導入に向けてこの自治体 GIS 利用支援プログラムが果たした役割は大きいと常松氏は振り返る。

研究方法と結果

熱中症に影響する赤外放射量の計測結果の可視化

昼間における上向き赤外放射量の差分
昼間における上向き赤外放射量の差分

人が感じる「暑さ」や熱中症に影響するものとして赤外放射がある。この赤外放射量を計測すべく、東京都心エリアを対象として、2007 年 8 月 7 日や 2013 年 8 月 19 日に、同時間帯・同気象条件下で、赤外線サーモトレーサを搭載したヘリコプターによる観測を行った。そして、結果を比較することで、ヒートアイランド対策効果を検証した。
昼間における上向き赤外放射量の差分を地図上に可視化した結果、都心エリア、特に再開発が行われた場所では、緑化や屋上面の変化、水辺、ビル陰の形成などによる真昼の熱赤外放射量の減少が目立った。真昼の熱赤外放射量は、相対的に密集住宅地で多く、オフィスビル・商業施設で少ない傾向にあることが分かった(この研究結果は、都市気候に関する国際科学雑誌である「Urban Climate」の Vol.17 に掲載されている)。
また、再開発地域と比べ密集住宅地では効果的で大規模な施策による対策は取りにくい。
実際に密集住宅地家庭に温度計の設置を依頼するなどして現地調査を行ったところ、昼間の室内気温が40度近くになる家屋もあった。高齢者世帯では冷房や扇風機などを使わずに屋内で熱中症になるケースもあり、対策が必要である。

導入効果

東京オリンピックマラソンコース日陰マップ

ArcGIS を導入したことにより、「日陰マップ」を作成することができた。今回使用したデータは、約 1m 解像度の平面直角座標系の航空レーザ測量データ、そして道路縁データや建物などの地物の高さデータである。これらを
ArcGIS に入力し、日射量解析機能を使用し日陰分布を可視化した。屋外競技のマラソンは、8 月の最も暑い時期に実施される予定で、選手はもとより、観戦者や観光客の熱中症が懸念される。街路樹も解像できる約 1m 解像度を採用し、繊密な日陰を再現できるように工夫した。日陰マップの情報を提供することにより、熱中症予防に役立つことが期待される。

日陰マップ(東京オリンピックマラソンコースの日照時間マップ)
日陰マップ(東京オリンピックマラソンコースの日照時間マップ)

日陰マップ 時系列ごとの日陰予測
日陰マップ 時系列ごとの日陰予測

「緑の質」の評価

東京都の既存調査データ(東京都現存植生図、みどり率データなど)や外部の既存調査データ(林野庁森林資源モニタリング調査、 環境省自然環境局自然環境調査)をもとに GIS による空間分析を行い評価指標を洗い出している。これらを基本項目とし、さらに加点項目を加えスコアリングすることにより新たな緑指標について研究している。この研究は千葉大学の協力を得て実施している。

「緑の質」の評価のための ArcGIS 利用
「緑の質」の評価のための
ArcGIS 利用

今後の展望

東京都環境科学研究所の1階ロビーには様々な研究成果のパネルが展示されている。「東京都における夏の暑さの実態に関する研究」のパネルの前にて(常松氏)
東京都環境科学研究所の1階ロビーには
様々な研究成果のパネルが展示されている。
「東京都における夏の暑さの実態に関する研究」
のパネルの前にて(常松氏)

今後は、ヒートアイランド現象のさらなる実態把握等を目的とした稠密地上気象環境網の構築と維持に向けて ArcGIS の更なる利活用と、2020 年東京オリンピックの開催に向けて引き続き研究を行っていく予定だ。都内には、気象庁 AMeDAS だけでなく、他にもデジタル百葉箱や大気汚染常時監視測定局等をはじめとしたあらゆる観測局が設置されている。まずはこれらから得られる情報を地図上にリアルタイムで可視化をする仕組みを構築して、庁内職員や研究者間での GIS データの共有化も図る予定である。

プロフィール


公益財団法人東京都環境公社
東京都環境科学研究所



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資料

掲載日

  • 2017年3月24日

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