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事例

GISを活用した木質バイオマス利用の多角的影響評価

農林水産省 農林水産政策研究所 食料・環境領域

 

岩手県西和賀町の家庭における薪利用を、GISを用いて資源、環境、経済の3点から分析

課題

導入効果

 

概要

バイオマスは化石燃料とは違い、温室効果ガスを発生させないカーボンニュートラルな資源として、今注目を集めている。その中でも森林の間伐で発生する木質バイオマスはほとんど利用されておらず、利用促進による地域経済の振興や温室効果ガスの排出削減効果が期待されている。

フィールド調査にて
フィールド調査にて

従来の木質バイオマス利用に関する分析では、利用可能量ではなく賦存量をもとにしたものや、需要量との適切なマッチングがされていないものなど、実際に分析結果を利用するためにはまだ課題が多かった。

農林水産省 農林水産政策研究所 食料・環境領域では本研究で、これらの問題に対しGISを活用することで資源面、環境面、経済面といった多角的影響を評価し、 より現実的な資源利用の分析を試みた。

 

導入経緯

木質バイオマスの利用推進に関して、大規模プラントでの利用に関する研究は数多く行われてきたが、家庭などでの小規模利用の研究は行われていなかった。また、今までの研究では資源需給バランス、環境への影響、経済への影響の内、単一もしくは二つのみを取り上げた評価が多かった。しかし、木質バイオマスの持続的利用推進には上記の全てを含めた多角的評価が重要となる。さらに、木質ペレットやウッドチップを使用した研究は存在したが、薪を使用した事例はほとんどなかったため、「薪ストーブ利用世界一」を町として推進している岩手県の西和賀町が研究対象として選ばれた。本研究では以下の3つを課題として挙げた。

  1. 西和賀町内の未利用間伐材によって、町内の薪需要を満たせるかという資源賦存量の評価
  2. 温室効果ガスをどれほど削減できるかという環境面の評価
  3. 家庭の暖房費をどれほど節約できるか、及び町内の資金循環へどれほどの影響があるかという経済面の評価

 

解析手法

薪の供給可能量を求める際、森林簿上では森林が豊富にあっても、実際には傾斜角度が急で間伐材の入手が困難という箇所が存在する。本研究ではArcGIS Spatial Analyst にある、ゾーン統計という機能を用い、林班データと10mメッシュの標高データから各林班の平均傾斜角度を測定。そこから急傾斜のため間伐材の入手が困難な場所を絞り出し、林小班ごとの薪の供給可能量を算出した。

輸送距離分析
輸送距離分析

薪の供給コストは、まず各林小班と各地区の中心点をArcGISのジオメトリ演算で求め、その位置から一番近い道路までの直線距離を求めた。さらに道路から薪の供給される地区の中心点までの直線距離を求めることで、薪の運搬にかかるコストを算出した。(林道のGISデータが無いため、直線距離を利用)

次に、実際に西和賀町で薪を利用している世帯数とその世帯当たりの薪利用量を西和賀町の統計資料より算出し、各地区にどれだけの需要があるのか推計した。この需要量と、GISで算出した薪の供給可能量と供給コストから線形計画法を用いて西和賀町全体での需給コストが最小になるように各林小班と各地区をマッチングさせ、薪の搬出量を決定した。

 

各地区における需要量
各地区における需要量

資源賦存量は、町全体と各地区の薪の供給可能量と搬出量を比較し、さらに薪利用が10年続くと仮定してシミュレーションも行い評価した。環境面の評価は、家庭での暖房燃料が灯油から薪に代わることでどれだけの温室効果ガスが削減されるかを、西和賀町内の全世帯が灯油を利用した場合と町内の半分の世帯が薪に置き換えた場合とで比較し推計した。経済面では、灯油から薪利用に代わることでの家計の暖房費節約効果と、地域経済への波及効果の二つを評価した。

評価方法
評価方法

 

研究結果

GISを用いた解析の結果、地区ごとに見ると薪の供給量が足りない地区があるものの、町全体では持続的に利用するのに十分な薪の賦存量が存在することが分かった。 環境面では、灯油の代わりに薪を利用することで、一般世帯に太陽光発電とオール電化を導入する以上の温室効果ガスの排出量を削減することが可能という計算になった。

また経済的にも灯油の場合は町外で生産されたものを購入するため、町内に残る資金は灯油を販売する店舗に限られるが、薪の場合は町内での生産量が大半を占め運搬コスト等も町内に残るので、結果的に薪を利用することで、灯油を使用する場合に比べ約5倍の資金が町内に残ることが分かった。

 

導入効果

従来の研究では森林簿や植生図などからそのまま資源の数値を計算していた為、供給可能量はあくまでも仮想であったが、GISを導入したことで傾斜角度などの立地条件を考慮した数値を求めることができ、供給可能量はより現実的な数字になった。その結果、環境面と経済面の分析も具体的な数字を求めることができた。また、GISを利用することで単年度だけではなく、持続的な薪の利用をした際の分析も可能となった。さらに、可視化させることで課題を明確にすることができた。

 

今後の展望

本研究では各林小班から各地区までの距離は直線で求めているが、今後林道を使った実際の経路でネットワーク解析ができれば、より現実的な研究結果が出ると期待している。また、大規模な研究をする際にもネットワーク解析を用いてデータを正規化して分析を試みたい。さらに、研究の範囲を拡大するとそれに伴い森林簿の林班図のデータも膨大になるため、リモートセンシングを用いて、衛星画像から土地利用、植生のデータを抽出しGISに使えると考えている。そして、今後取り組む他の研究でもGISを利用し、多角的な評価をしていきたい。

 

プロフィール


農林水産省 農林水産政策研究所
食料・環境領域
主任研究官 林 岳 氏 (左)
研究員 國井 大輔 氏 (中央)
研究員 澤内 大輔 氏 (右)



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資料

掲載日

  • 2015年6月8日