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北極遠征マッピング

英国Esri社

 

負傷退役軍人による北極点までの旅を辿るオンラインマップを作成

英国Esri社作成のインタラクティブ マップは、Walking with the Woundedのチームがたどった北極点までのルートを示す。

北極探検家のフリチョフ・ナンセンとハイアラム・ヨハンセンが1895年にフラム号を離れ、犬ぞりで北極点を目指した後、彼らの消息は1年以上も途絶えていました。彼らの友人や親戚、船に残った船員たちは、彼らがどこにいるのか、地図を眺めて想像することしか出来なかったのです。

しかし、先日7人の男たちが危険な氷の尾根やフィヨルド、氷点下の厳しい環境に立ち向かって北極点到達を成し遂げるまでの間、世界中の人々が英国Esri社(Esri UK)作成のインタラクティブ マップ*で彼らの旅を辿ることができたのです。

英国の負傷退役軍人4人を含むこの7人は、13日間、300km以上にもおよぶ北極圏の旅を終え、2011年4月16日、北極点に到達しました。Walking with the Wounded (「負傷した人と歩く」の意、WWTW)というチャリティー団体が企画した遠征は、7人のうち2人が四肢の一部を失っているにも関わらず自力で北極点に到達するという歴史的快挙を達成しました。

この遠征の後援者である英国のヘンリー王子は、最初の3日間を彼らに同行し、心身が傷ついた軍人たちの教育やセラピーなどをサポートする為の募金集めに協力しました。

北極点までの13日の旅は心身共にスタミナが要求される。 Photo courtesy of Walking with the Wounded.

英国内外の人々は、その旅をWWTWのウェブサイトを通じて見守っていました。そのサイトには、インタラクティブ マップや最新の写真や音声を載せたブログも掲載されていました。マップはGPSを使って彼らの位置を表示していました。

英国Esri社のインタラクティブ マップは北極圏全体をカバーしていました。主要な場所はハイライトで表示されており、サイト訪問者はこの探検の進捗をほぼリアルタイムで辿ることができました。ルートはロンドンからノルウェーのロングイェールビーまで延び、そこで一行は悪天候のため数日間足止めされました。その後彼らは4月4日に飛行機を使い、氷結地帯を飛び越えてロシアの基地であるキャンプ・バルネオまで飛び、次にヘリコプターで北緯87度まで移動し、そこから公式に旅を開始しました。分厚い防寒具を身にまとい、スキーを履いて、雪と氷の荒野に足を踏み入れたのです。

WWTWのウェブサイト上の声明の中で、ヘンリー王子はこの冒険を支持した理由を述べています。 「このすばらしい遠征は、この国が出征し心身が傷つけられて祖国に帰ってきた人々に対して恩義があるという事を意識させてくれます。…この北極遠征は、軍務につく人々の不屈の精神とすばらしい勇気を我々に見せてくれるのです。」

オンラインマップのデザインと開発

人々はオンラインマップを使い、Walking with the Woundedチームの現在位置を把握することができた。

Esri UKがArcGIS Serverを使って開発したこのインタラクティブ マッピングアプリは、WWTWチームの遠征ルートと王立地理学協会(Royal Geographical Society: RGS)提供の歴史情報を結合したものでした。昔の地図や海図、過去の探検隊による遠征ルートをオンライン上で見ることができ、これら歴史的資料のほとんどがこの時初めてWeb上で公開されました。

ユーザは北極圏をWeb上で旅し、ボーフォート海、クィーン・エリザベス諸島、フランツ・ヨーゼフ島やカラ海などを見て回る事ができました。また、ロバート・パーリー、ウィリアム・バリー、ロアルド・アムンゼン、ウォリー・ハーバートなどの初期の北極探検家についての物語を読むこともできました。パーリーは北極点に到達した最初の人物として長年知られていましたが、今日はそれに疑問が呈されていることが物語を読むとわかります。

ノルウェー人の探検家、フリチョフ・ナンセンは、フラム号という特殊な船を使って北極点到達を試みた。

Esri UK技術ソリューショングループ長のPeter Wilkinson氏は、2人組のチームを率いてWWTWのウェブマップ ビューワと各種機能のデザイン及び開発を行いました。彼は昔の地図や海図に加えて探検のルートと物語を追加することにより、マッピングアプリに教育的要素が付け加えられ、小さな子供から大人にいたるまでの興味を引くことができた、と述べました。

例を挙げると、ユーザはWeb上でナンセンが1893年にフラム号という特殊な船を使って北極点を目指すという素晴らしい探検の物語を読むことができました。ナンセンの考えでは、船をわざと流氷の中に閉じ込めさせれば、その氷の塊が北極海流に乗って自動的に北極点へたどり着けるだろう、というものでした。結局船は北極点には到達しませんでしたが、その船とクルーは1896年に無事に氷の中から脱出しました。その前年の1895年、ナンセンとヨハンセンは船を離れ、犬ぞりチームを使い北極点を目指していました。しかし彼らの試みは失敗に終わり、退避開始から1年後にロシア北部の群島であるフランツ・ヨーゼフ島で救助されました。

氷がぶつかり合ってできた氷丘脈をスキーで通り過ぎるチームのメンバー
Photo courtesy of Walking with the Wounded.

「我々は、人々が北極について学ぶことができる魅力あるサイトを構築したいと思いました。」Wilkinson氏は言う。「Walking with the Woundedのチームメンバーが偉大な先人の足跡を辿るのを皆に見てもらいたかったのです。」 Esri UKホームページのニュース欄から視聴可能なビデオの中のWilkinson氏のインタビューでは、オンラインマップ製作について知ることができます。

王立地理学協会のアーカイブから、歴史的地図、海図、物語、そして1800年代初期から1960年までに北極点を目指した6人の探検家の写真が供給されました。 Esri UKは地図と海図の原本をスキャンし、王立地理学協会のアーカイブに保管しました。「地図製作者として、古地図の原本を扱い、それをインタラクティブ マップへと甦えらせる事はとても光栄な経験でした。」とWilkinson氏は語りました。

Esri社のArcGIS Desktop 10は、マップドキュメントや地図の作成、またデータ管理に利用されました。Wilkinson氏曰く、氷で覆われている範囲などの北極圏の最新情報の供給や、不慣れな北極圏周辺の投影法など、問題が山積みだったとの事です。

王立地理学協会提供のこの歴史的地図は、ウォリー・ハーバートが北極点を目指して歩いたルートを示す。

「我々は特に、ウェブサイトのベースとなる綺麗なベースマップを作りたいと思っていました。」Wilkinson氏は言います。「たくさんの地図作成ツールを使い、我々の目的にピッタリなベースマップを作ることができました。」

オンラインマッピング アプリは、Esri社のArcGIS Viewer for Flex 2.2を使って構築されました。それはすぐに公開可能なビューワで、ツールやデータ構成の追加が可能なものでした。Esri UKの技術チームはポップアップ ダイアログや透過バー、管理コンソールなどのFlexのウィジェットを新たに開発し、WWTWのスタッフは遠征チームのルートをマップ上にアップデートするためにそれを使いました。

遠征チームの位置情報が英国に送られると、WWTWのサポートチームは経度緯度情報を管理コンソールに追加しました。個々の位置情報のポイントはジオデータベースに保存され、遠征ルートとしてマップに線で繋いで表示されました。ユーザがルート上の点の1つをクリックすると、その場所の位置や到着日時、WWTWのブログへのリンクが書かれた情報ウインドウを表示しました。

スキーを履いた探検隊は、1日9時間を移動し、氷と雪が織りなす世界に遭遇した。
Photo courtesy of Walking with the Wounded.

WWTWのマップビューワの機能を複製するアプリを作成するため、ArcGIS API for Javascript 2.2が使われました。「このおかげで、iPhoneやiPadなどのモバイル機器、さらにFlexのプラグインがサポートされていない環境からもマップへのアクセスが可能になりました。」Wilkinson氏は語りました。

WWTWの遠征は世界中のメディアの注目を集めました。中でもヘンリー王子がWWTWのチームと共に数日間スキーで旅した事は特に大きく報じられました。Webサイトがとても沢山の人に見られることが予想されたため、Esri UKはAmazon社のElastic Compute Cloud (EC2)上でArcGIS Serverを使うことを決めました。

ArcWatchの記事のひとつ「The New Age of Cloud Computing and GIS (クラウドコンピューティングの新時代とGIS)」では、著者のVictoria Kouyoumjian氏は、伝統的なコンピュータとクラウドコンピューティングの大きな違いはスケーラブルで弾力的な特性がクラウドにあることだと述べています。これはクラウド利用者に信頼性の高い素早いレスポンス時間とアクセス増加による通信速度低下を防ぐ弾力性を提供するものです。

Wilkinson氏は、WWTWの遠征のためにマッピングアプリを作ることは「素晴らしい学びの経験」だったと語ります。一つにはプロジェクトはカナダやロシア、ノルウェー、そしてアメリカの見慣れないデータセットを扱うことが要求されたからです。また、北極圏を表示する際にも独特な投影方法が必要でした。伝統的にマップは左から右へ投影表示するものですが、この場合は上から下へ投影されているためです。「しかし、ただ困難なプロジェクトだったというわけではなく、同時にとても充実したものでした。我々のインタラクティブ マッピングアプリがすばらしく勇敢な軍人チームによる類のない遠征をサポートしていることを知ることができたのですから。」

北極点到達

北極点に到達目前のチーム
Photo courtesy of Walking with the Wounded.

WWTWは、Simon Daglish氏とEdward Parker氏により設立されました。Parker氏の甥が2009年にアフガニスタンのヘルマンド地方で重傷を負ったことで、2人はこのチャリティー団体設立を思いたったのです。この団体は、200万ポンド(約2億6千万円)を募金で集め、負傷退役軍人の職業訓練や回復プログラムに出資することを目的としています。

WWTWの遠征の目的は募金集めだけでなく、北極点を目指すには不可能とみられた自身の障害を乗り越えた負傷退役軍人たちの強靭さや忍耐力、決断力にスポットを当てることでした。

チームのメンバーには、銃で打たれ右腕が麻痺したMartin Hewitt氏、即席爆発装置が車に当たり脊椎などを損傷したSteve Young氏、手りゅう弾により右ひざから下を失ったGuy Disney氏、そしてロケット弾にあたり左腕を失ったJaco Van Gass氏がいました。 チャリティー団体設立者のDaglish氏とParker氏も遠征に加わり、一行は北極ガイドのInge Solheim氏に率いられて進みました。

Esri UKの管理部門長であるRichard Waite氏は、Esri UKとしてオンラインマッピングビューワを作り、人々にこの遠征の進捗状況を知らせ続けることができたことを光栄に思うと話しました。「このようなすばらしい遠征をサポートすることができたことをとても誇りに思います。」Waite氏は言いました。「この信じられないほど勇敢な人達は、必要な資金集めに自ら参加しただけでなく、身体の障害はチャレンジや目標達成の障害にはならないということを証明したのです。」

*インタラクティブ ユーザーの選択に応じて、表示される画面など情報の内容が刻々と変化すること。

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掲載日

  • 2011年6月23日