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「災害後」のシミュレーションで都市防災計画を改善

連邦緊急時管理局(FEMA)

 

災害対応管理への取り組み

大規模災害はいつ起きるかわからない-そして起きる時は大抵、前触れなく起きる。コンピュータ・モデリングは、大災害の影響を低減して人命を救う最も効果的な方法の一つであると以前から言われている。大災害のシミュレーションを行うことにより、災害対応計画の立案者が避難計画を改善するための貴重なデータを手に入れることができるのである。

都市エリアからの人の大移動がインフラ設備や物資の消費に与える影響のモデリングを行った

FEMAによる新規研究への助成金

連邦緊急時管理局(FEMA: Federal Emergency Management Agency)は、災害準備におけるコンピュータ・モデリングの重要性を認識し、地域大災害準備認可プログラム(RCPGP: Regional Catastrophic Preparedness Grant Program)を立ち上げて災害対応の方法論やツールに関する最新の研究を助成している。統合型の計画立案組織や手順書の改善、および山火事・洪水・ハリケーン・人災などの大災害後の一連の処理を後押しするために作られたRCPGPは、首都圏での災害対応計画を向上するための研究を行う機関に資金を提供している。

災害が起きた際に使用不能となる重要なインフラを突き止めるためモデリング&シミュレーションシステムを使い作成された洪水氾濫マップ

RCPGPはAzimuth社とデータ収集の管理を行う契約を結んだ。またGISにゲームの要素を追加した最新式のモデリング及びシミュレーションシステムを開発するため、MATRIC社を選定した。その結果、リソースの消費および災害対応管理機能を持つモデリング&シミュレーション(M&S)システムが出来上がった。これは災害対応時における意思決定の結果を瞬時に表示する、ゲーム的要素を追加したインタラクティブな災害シミュレーションプログラムである。

開発チームが今回のような分析論およびシミュレーションを採用したのは、同時多発テロの際設立された独立調査委員会が作成した最終報告書(The 9/11 Commission Report)に詳細に記載された認識の甘さや政策の不備、各省庁の能力の低さ、管理の失敗の問題を解決しようとする取り組みの結果であった。M&Sのソリューションにより、GISとその他技術を統合し、さまざまな「もしもシナリオ」を実行することができるようになり、ほぼ無限の可能性が得られるようになった。M&Sにより、意思決定の結果はFlexベースのビューアを通して表示され、その判断が正しかったかどうかが即座に明らかになるのである。ArcGIS Serverは、バックエンドでのすべてのデータの加工・分析を行っている。ArcGIS Serverの高度なジオプロセシングおよび比較分析機能により、従来の災害モデリング用のソフトウェアで行ってきたものよりさらに細かいシミュレーションが可能になるのである。

オーダーメイドの災害モデリング

大勢の避難者が交通網に及ぼす影響をシミュレートするモデリング&シミュレーションのプロトタイプシステム

FEMAにとって、大災害に対する計画立案及び準備は優先順位のトップである。大災害が起きた際、FEMAがまず気に掛けるのは、交通網とリソースの状況である。MATRIC社及びAzimuth社は、緊急事に避難者が交通インフラに与える影響、物資や人員の割り当てを具体的な方法で実施した場合の影響、そして燃料、飲料水、医療物資などの消費制限のシミュレーションを行うためのM&Sシステムを作り出した。
M&Sを使うことにより、ユーザは専門家が認定した30以上のパラメータを使いシナリオを走らせることができる。パラメータの中には以下が含まれている。

・避難者の数
・簡単な手当が必要な避難者の割合
・重症の避難者の割合
・シェルターが必要な避難者
・シェルター避難者が1時間毎に消費する水の量の平均
・避難または屋内退避
・車輛の平均的な燃費
・病院ベッドの空き状況
・施設への進入口

ユーザ定義のパラメータが幅広いため、緊急対応計画者は実質的に無数のシナリオを走らせることができるようになった。モジュラーシステムの構築により、開発チームは新しいクライアントの要求事項に沿ったパラメータを追加することができた。

分析ツールで複数のシミュレーションからの主要結果データを比較することにより、危機管理者は対応計画準備の改善を行うことができる

さらに、ユーザは複数のシミュレーション間で主要な結果データを比較し、どの対応計画を実施すればもっとも望ましい結果が出るのかを確認できる。ユーザはまた、特定のリソース、病院ベッドの空き状況などのアフターアクションレポート(シミュレーションの結果を文章にしたもの)を作り出したり、すべてのリソースの分量及び時間経過による消費率を含む幅広いレポートを作り出したりすることができるのである。

このプログラムにより、ユーザはインタラクティブにシェルターの稼働/閉鎖の切り替え、封鎖エリア(バリア)の設置、燃料配給制の実施などの操作を行い、対応計画の効果を評価し代替計画を試みることができる。システムにはEsriの時系列データ管理機能が組み込まれている。ユーザは時間の一時停止、再生、早送り、巻き戻しをして、アクションを起こすべき時間を正確に決定することができる。シェルターなどのリソースの稼働には、ユーザ定義の始動コストと稼働したシェルターごとに必要となる収容者一人あたりの供給品のコストの2種類のコストが発生する。システム内ではシミュレーション用にユーザが設定した「倉庫」からそれぞれの稼働しているリソース用に物資を引き出すことができる。ユーザは、「倉庫」にある物資のタイプと量を設定し、それぞれのユーザアクション(シェルター稼働の切り替え、封鎖エリア設定など)に必要なコストを指定する。シナリオの選択肢はユーザの発想力次第で無限に広がるのである。

「シムシティ」風のシステム

MATRIC社の開発担当であるVic Baker氏は、GISとインタラクティブなゲームのコンセプト及びバーチャルリアリティの融合に10年以上も携わっている。M&Sのシステムにより、GISをゲーム技術と融合し、実社会のプランニングおよび意思決定に利用できるようになった。「街づくりシミュレーションゲーム『シムシティ』のコンセプトは、本システムを皆さんに理解してもらうのに打ってつけです。」Baker氏は語る。「本システムと同じく、シムシティにおいてもユーザは与えられた状況下で手元のリソースをどこに分配するかを決断する必要があるからです。」

100万人単位の避難を含む事象をシミュレーションするため、開発チームは何百万台もの車輛で混雑した道路をモデリングする方法を探していた。それぞれの車輛が知的エージェントとしてモデリングされ、運転者の目的(診療所探しや避難所探しなど)を基に各車両が目的地に向かって動き、各車両の移動による燃料の消費も計算された。チームは混雑モデリング用に既存の商業ツールを調査した結果、既存のツールではモデリングやシミュレーションシステムに必須の大規模な開発ができないとすぐに判断した。開発チームは最終的に、時間ごとの変化を示す混雑モデリングジオプロセシングサービスをArcGIS Server上に構築した。ジオプロセシングサービスにより時間属性をもつヒートマップが作成され、道路の混雑状況が緑・黄色・赤の3色で色分け表示できるようになった。

モデリング&シミュレーションシステムは、ニュー川上流の重力式コンクリート製のブルーストーンダムの決壊をシミュレートするために使われた(Photo courtesy of the US Army Corps of Engineers)

シムシティと同じように、M&Sのユーザは限りある量のリソースでシミュレーションを開始し、それらを賢く使う必要がある。だがシムシティでは、ユーザが意思決定を誤った場合は単にゲームに負けてしまうだけである。M&Sシステムにおいてユーザが対応計画作成の意思決定を誤るということは、人の命にかかわることを意味するのである。「M&Sの一番のポイントは、ユーザがシナリオと対応計画を何度でも試すことができるという事です。シミュレーションを行うことによりプランナーは学習することができるのです。」Baker氏は語る。「対応計画のほころびを見つけ出すには、自分の目でその計画の結果を見てみるのが一番良い方法なのですから。」

実世界のシナリオのモデリング

ウエストバージニア州ヒントン市近郊にあるブルーストーンダムが決壊した場合に起こる住民避難の影響をモデリングするため、MATRIC社はウエストバージニア州のCOP (Common Operational Picture、状況認識の統一)システムのバリアポリゴンツールを統合し、アクセス禁止エリアのシミュレーションをM&Sシステム内で行えるようにした。「ルート解析にポリゴンのバリアを使うことにより、インパクトエリア内にあるすべての地物はアクセス不可能とし、そのエリアを横切る道路はすべて通行禁止にすることができます。」Baker氏は語る。チームはまた、アメリカ陸軍工兵隊(the US Army Corps of Engineers)およびウエストバージニア州軍が提供した洪水氾濫マップを取り入れることにより、緊急時に利用できなくなるシェルターと医療施設をM&Sシステムで把握できるようになった。「洪水氾濫マップを取り入れることにより、洪水時に稼働できないシェルターや病院が事前にわかり、緊急時にはそこを稼働させないようにすることができるようになったのです。」

次の段階へ

MATRIC社はプロジェクトの次の段階として、ワシントンD.C.周辺の州のデータを集めている。チームはまた、屋内退避の設定、パフォーマンス向上、アフターアクションレポートツールの向上、そしてユーザによるシミュレーション用の対象領域(AOI: Area of Interest)やデータソースのカスタマイズ設定、などの新しい機能の追加に取り組んでいる。M&Sに組み込まれた知的エージェント(IA: Intelligent Agent)のシミュレーション技術を使うことにより、いずれ伝染性疾患の拡がりや野生動物の群れの移動などのモデリングも行うことができるようにもなるのである。

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掲載日

  • 2012年3月15日