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GIS研究・教育の国際的な拠点形成に向けて

新潟大学

 

国際戦略本部設立、医療GISプロジェクト、GISリテラシー入門、ArcGISサイトライセンス導入

法人化後の新潟大学の「強み」を最大限に生かし、GISによって新しい大学の姿を創造する取り組み。GIS研究・教育を通じて、地域・国際社会と連携し、独自の戦略的な学問領域を切り開き、GISの国際拠点化を目指す。

国際戦略本部の設置

2004年4月、国立大学は独立行政法人化した。大学は自らの使命を達成するために戦略を建て、独り立ちする「コーポレーション」となった。とはいえ、新潟大学は、13,000人以上の学生と2,400人以上の教職員を抱える大所帯である。これを意識と組織の改革によって一つに纏め上げてゆくことは容易なことではない。
法人化後の試みの一つとして、2005年6月、新潟大学では、「世界に学び世界に貢献する」という理念の下、国際戦略本部(国際学術サポートオフィス)を設置した。従来、研究者個人に任されていた国際学術交流を、大学として戦略的に支援・推進することで、大学内に国際的な価値を持つ研究・教育拠点を形成するのが狙いだ。

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パイロット・プロジェクト

学内を回り、研究者へのヒアリングを進める日々が続いた。現場には、思いがけないほど大きな発見があった。
学内には驚くほど他分野に渉るGISを使った研究がなされていた。GISの多層的データーベース構造そのものが持つ統合性にも刮目した。GISを中央に据えれば、多分野に渡るプロジェクトも一つに繋ぐことが可能だ。新潟大学は医療保健分野を得意とするが、ここでも国際レベルのGISによる感染症研究、地域医療の現状分析が行われていた。ここをエンジンとして、総合大学の利点を生かし全学の多様なGIS研究のノウハウを集結すれば、新潟大学を分野横断的なGIS研究の国際拠点、とりわけ東アジアの拠点とすることが可能であるとの確信に至った。「GIS医療・保健新分野への応用研究(略:医療GISプロジェク卜)」を、支援パイロット・プロジェク卜とすることを決定した。
折しも、新潟は中越地震、水害に見舞われ、また全国的にインフルエンザの脅威が高まっていた。また学内でも、災害研究組織の一元化によって「災害復興科学センター」が設置され、自然科学系のGIS部門を強化する気運が高まっていた。災害などへのGISによる危機管理の取組みが、大学のみならず、市民や自治体の注目を集めていた。この勢いを追い風として、将来的にはGISセンターの設置を視野に入れた学内研究者のコーディネー卜を開始した。

地域との協働

GISをキーワードとして動き始めると、単なる学術支援では済まないことが分かった。一つの目標に向かってコーポレートとして団結する新しい大学のあり方を問い、人材育成など教育面からの地域社会との新たな関係構築、新しい産官学のモデルの提案までをも含む大きな取り組みとなった。
実際にGISを行う際に常に問題となるのは、GISに適切なデータの入手の困難さである。これは地域社会・自治体・行政機関との多層的パートナーシップを人的交流、人材育成、制度改革などによって新たに創造し、お互いのニーズの交換と信頼関係を成熟させることによってしか克服することが出来ない。また、大学のGIS研究によって生産された「知」を如何に社会的利便性に還元するかという問題も、単に特許を取るといった従来型の技術移転の発想のみでは解消出来ない。商品としての知的財産を媒介とした従来の産官学から、協働に基礎を置くネットワーク型の産官学への発想の転換を迫られた。
平成17年8月、新潟では、中越地震の復興に奔走したGIS関連企業が合同で「にいがたGIS協議会」を立ち上げた。新潟大学も、学長が特別顧問、大学園身は特別法人会員となって参加した。同協議会は、GISの普及とデータ共有の推進をミッションとする市民の連携の場となった。平成17年度末には、同協議会とESRIジャパンの協賛を受け、新潟大学は医
療GISの国際シンポジウムを開催した。国外4カ国からの研究者に加え、国、自治体、企業の関係者そして市民が一堂に集まり、来るべきインフルエンザ大流行などグローバル化する感染症への備えと地域医療の高度化に取り組んだ。

人材育成「GISリテラシ一入門」講座開設

GIS教育による社会貢献を目指し、一般教養科目としてGIS教育の基礎編「GISリテラシ一入門」を開講した。分野の異なる10名の学内GIS研究者たちからなる講義で、先端のGIS研究の現場を知ってもらうのが狙いだ。75名の定員に対して200名以上の学生が殺到した。新しい学問領域に対する学生の関心は高かった。一般市民の関心も高く、公開授業となった。講義の最終回には、モーリタニアからの留学生が、新潟大学でのGIS研究の体験を語り、花を添えた。平成19年度は、これに加え、GISリテラシーの中級課程として、将来GISに関わる分野・研究を指向する学生に対してGISの基礎理論と演習実践を中心とした講義を検討している。

ArcGISサイトライセンス導入

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国際センター長と国際戦略本部副本部長を兼任する阿波村稔教授(元東京三菱銀行パリ支店長)に今後の抱負と戦
略を尋ねた。

「『GISリテラシ一入門講座』では、履修希望者が多いことに驚きました。最近は中学、高校でもGISという言葉が出て
きますし、GISは視覚的に訴えるものですから、感性の敏感な若者は素直に反応したのでしょう。大学では、今年度からArcGISサイトライセンスが利用できるようになりました。サイトライセンスによって、これまでGISを知らなかった方々にもGISの魅力を知っていただき、学内ユーザをどんどん増やしていきたいと考えています。その一端として、11
月には、学生・教職員、地域住民の皆さん、ボランティア団体、そして自治体の方々を招いて、「地域づくり」をテーマに「GIS DAY」というイベントを開催する予定です。研究分野でアジアの大学と協力していくだけでなく、教育の面でも新潟大学がGISにおける国際的な拠点、地域に根ざした魅力ある大学となるように努めていきたいと思います。」

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プロフィール


国際戦略本部 本部長 坂東 武彦 理事(左)
国際学術渉外マネージャー 田中 亨 教授(右)



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資料

掲載日

  • 2007年1月1日